第十九頁 静かな夜
「今日は静かな夜だ」
スミスさんが振り子椅子に揺られながら小さく呟いた。少し寂しげな後ろ姿を窓から伸びる月明かりが照らしている。
「シーナさん。食器洗い終わりました」
「あら、ありがとうね。アイラちゃん。やっぱり、女手があると助かるよ」
いえいえ、なんのその。スミスさんとシーナさんにはどれだけ恩があるか。こんな程度で喜んで頂けるなら、いくらでも頑張るってもんさ。
かく言う、男性陣は腹を満たしたら後は、知らんこっちゃないと言った様子で各々くつろいでいる。
スミスさんは振り子椅子に揺られパイプを吹かし、アルザックとか言う青年は床に寝そべり軽い寝息を立てて眠っている。もう一人の少年は矢やナイフの手入れをしているらしく、ナイフを研いだり、矢の羽を整えたりと、なにやら細かい作業をやっている。
「ありがとうね、アイラちゃん。もう終わりだから、アイラちゃんは早く休んどきなさい。明日は早いだろうからね……」
「は、はい……」
と言ったものの、明日は何時起きなんだろう? て言うか何時何分の概念てあるのか、この世界は……
俺はそう言うのハッキリしてないと心配で眠れないタイプなんですけど。
「明日は空が白み始めると同時にここを発ちます。そうすれば街には夕方ごろに着けますから……」
俺の疑問に答えるように少年が口を開いた。
凄いな、俺の考えてることがわかるのか?
「あ、はい。わかりました…… えっと……」
「僕はローランド。ロランと呼んで下さい」
あ、はい。と会釈をしてみせる。
と言って、何時とかわからんし。時計も無いから物凄い不安。スマホとかマジで欲しい。て言うか、時間がわからないってこんなに不安なんだ。
「アイラさんは心配しなくても大丈夫ですよ。日が出てる間は魔物も殆ど出て来ません。出て来ても動きも遅いです。僕等でも十分やれますから」
少年が俺の不安げな表情を察してかそんなことを口にする。
彼の気遣いに思わず頭を悩まされる。我ながら、やはりと言うか、なんと言うか。この世界に順応出来ていないのを痛感する。
魔物の心配より、何時何分とかの心配をするとは……
ピクニックじゃねぇんだぞ、と我ながらツッコミを入れたくなる。
「ありがとうございます、ロランさん。明日はよろしくお願いいたしますね」
俺が何とか笑顔を作り答えると、彼は年相応の笑顔で答えてくれた。
俺は明日に備えて、すぐに床に就く事にした。
少しの不安が眠りを妨げるのではないかと思ったが、すぐ近くで呑気に眠るマシマロを見ていると、何だか安心してすぐに睡魔と微睡みがやって来た。
そして、私はマシマロの頭を少し撫でると、眠りについた……
 




