第一頁 青い洞窟
“ごめんね…… 巻き込んじゃって……”
“でももう私にはこの方法しかないの……”
“決して許してとは言わない……”
“だけどお願い。どうか……”
「はぁはぁはぁ!! はぁ……」
突然呼吸することが出来るようになった。
どうやら、間一髪の所でなんとか助かったみたいだ。
今まで詰まっていた物が取り除かれたかの様に勢い良く呼吸を繰り返しているのが自分でもわかる。
しかし、次の瞬間、更なる衝撃が俺を襲った。
まさに、息つく暇も無いとはこの事だろうか。
俺は何処ともわからない洞窟の中にいたのだ。
辺りを青い色の石が覆っており地面もなんだかジメジメと湿っている。まるで意味がわからない。
俺はなんとか混乱した頭を抱えながら立ち上がろうと膝に手を当てた。しかし、その瞬間。視界の端に自分の足ではない物が映った。
俺は恐る恐る、その自分の足ではないものに視線を向けた。
そこにあったのは酷くすらりと延びた綺麗な足だった。スベスベでスネ毛の一本も無い足。太股も綺麗で艶々としている。それになんだか色っぽいしイイニオイもするような気がする。
これは見るからに女の子の足だ……
恐る恐るその膝と脛と太股をやさしく撫でて行く。それと同時にゾワゾワと自分が撫でられた感覚が駆け巡る。しかも、通常の感覚よりもいくらか敏感な気がする。
スネ毛が無いぶん敏感になってるのだろうか。
いや、それよりだ。これが何を意味しているかと言うとこの足が俺の足だと言うことを意味している。しかし、間違いなくこの足は俺の足ではない。だって俺は男だし。この足はどう見たって女の足だ。
まさに息つく暇もないとはこの事だろう。て言うか混乱し過ぎて苦しい。なんだか過呼吸になってしまいそうだ。
取り敢えず、現実逃避をする為。俺は辺りを見渡そうと立ち上がる。
すると胸の辺りに何やらおかしな重りの様な物が有るのを感じた。思わず「重っ!」と腕で抱えてしまったがその感触はもう自分が完全に自分では無くなってしまっていると確信させるには十分過ぎる衝撃だった。
“何が”とは言わないが、とっても大きい。
「い、一体、何が起こってんだ。それに……」
自分の身体なのに当たり障りの無いであろう箇所を気にしながらぺたぺたと触れていく。肩は薄くスベスベとしている。首も細いでもスジばっていない。腰もくびれていて細っこい……
そして、何よりスッポンポン。
え!? な、何故に!?
わからないことだらけだ。いや、本当に息つく暇もない。
一体、ここは何処なのか。俺は何になってしまったのだろうか。そして、何をすればいいのだろうか。どうするべきなのか。
頭を抱えたくなる事態だらけだが悩んでいても仕方がない。なにをすればいいかは全くわからないが、なによりも先ずは服だ。
何でもいい服が欲しい。産まれたままの姿だと知ったその瞬間からとにかく薄ら寒い。それに恥ずかしくて堪らない。
俺は取り敢えず洞窟をぐるりと見渡してみる。なにかないかと……
すると、直ぐにどこかへと続いているであろう通路を見つけた。もちろん、どこへ行く宛もない俺は一目散にそちらに向かっていくことを決めた。
改めて周りを観察してみると洞窟とは言うもののそこそこ明るく。別段歩くのに困ると言ったこともなさそうだ。
なんだか不思議な雰囲気がする。なぜだか動物の気配が感じられない。こんな洞窟ならコウモリやゲジゲジだのが一匹や二匹は出てきて良いものだと思うんだが……
そう言った類いの気配が全くない。
しかし、目下の問題は俺が産まれたままの姿だと言うことだ。しかも、何故か女の身体だと言うことだ。
ぶっちゃけ、これは一番とんでもない問題だ……
はぁ…… どうなってんだよこれ……
そう頭を抱えながらしばらく歩いていると不意に横穴を見つけた。
「ん?」
しかも、そこの横穴にはテントが張ってあり何者かがここで野営をした形跡が見られた。もしかしたら、誰か人が居るかもしれない。俺は恐る恐る、テントに向かって声を掛けてみることにした。
「すいませ~ん」
意を決し発した声は虚しくも洞窟の中に反響した。そして、最後には静寂に吸い込まれて行った。
俺の声に反応して何かが動く気配もしない。全くの無反応である。どこかホッとした自分が居るけど何だか物悲しい気持ちにもさせられる。
「あの~ 少しおじゃましますよ~」
この言葉が効力を発揮するか不明だが、礼儀として「おじゃまます」だけは言っておく。
俺はゆっくりとそれでいておっかなビックリと言った感じでテントへ近づいて行く。
その途中に焚き火の跡だろうか何かを燃やした跡があるのでそれを調べてみることになた。
先ずは遠くで眺めその後に近づいて良く見てみる。
やはり、何処からどうみても焚き火の跡である。それを確認した後にテントに視線を向ける。やはり、それもテントである。
大きさに違和感も感じない所を見ると人間サイズの物だと思われる。宇宙人とかのビックフットのテントって訳ではないと思う。
ただ、一つ気になるのが焚き火の跡の古さだ。かなり古いからなのか、焚き火の中の燃えカスは朽ち果てたのか、岩肌に染み込んだのか、墨汁を溢したような跡になっている。
見るとテントもかなり古い。俺は恐る恐るテントへと手を伸ばし、中を覗いてみた。
そして、俺はその中に有る物を目にした瞬間、思わず声にならない声を漏らした。
「あ…… え…… あ……」
そこに居たのは白骨化した何者かの骨だった。