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幻想のグリモアール  作者: ふたばみつき
第2話 出会い~encounter~
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第十六頁 取り越し苦労

「なるほど、それで事情を説明しようと。急いで飛び出して来た訳ですね……」


 先程まで外套を羽織っていた青い髪の少年が、優しく俺の事情を聞いてくれた。


 ただ悲しい事に、その少年は俺と視線も合わせてくれない。


 もう、俺の事は痴女。あるいは最高に頭の弱い女とでも思っているのだろう。心無しかスミスさんとシーナさんの、俺を見る目も冷たい。


 そういえば、俺もとい、アイラインの肖像画…… なんだか、おっとりとした雰囲気で天然みたいな見た目してたもんな…… 完全に天然で、頭の弱い女と思われただろうな、そうに違いない。


 もう自殺しようかな………


 い、いかん。何を弱気になっているんだ。これはきっと精神に肉体が引っ張られているに違いない。俺は男だ、男は下着姿を見られた程度で恥ずかしくも何ともない! そうだろ!?


 男だから恥ずかしくないもん!!


「たくよ。焦る必要なんてねえよ。野垂れ死になんて、ここら辺じゃ、珍しくもねぇ。それに殺人なら、そこら辺に放っておいた方が余程足がつかねぇ。わざわざ骨を持ってるって事は、ちゃんと弔うつもりだって、こっちも察するさ……」


 そう言うと、槍を背負った青年が、呆れた様な眼差しで俺を眺めている。もうわかる。コイツはもう完全に俺の事を馬鹿だと思っているに違いない。くっそぉ……


 恥ずかしいし、腹が立つ。

 しかもなんだよぉ、俺の心配は取り越し苦労かよぉ。


 そんな俺の感情を他所に、青年が思い出したかの様に口を開いた。


「それよりだ…… お前。この骨はずっと向こうにある洞窟で見つけたって、言ってなかったか?」


 青年の問い掛けに呼応して少年が小刻みに頷いた。なにやら、この二人には思う所があるらしい。少年は一瞬だけ、こちらを見たが直ぐに目を反らした。


 なんだか、お姉さん、悲しいよ……


 そんな俺の思いも他所に、少年は目を反らしたまま口を開いた。


「え、ええ。それは僕も気になりました。それにタスクボアを倒したのも、あ、貴女だとか……」


 そう言うと、二人は俺に視線を向けた。


 良かった、もう目も合わせてくれないのかと思ったよ。危うく、お姉さん泣いちゃうところだったよ。


 まあ、ふざけるのは程々にして、ちゃんと思考を巡らせよう。


 彼等の問い掛けにはどう言った意図が有るのだろうか。そして、どう答えたら良いんだろうか。

 

 少し考えては見たが、俺は取り敢えず二人に向かってゆっくりと頷いて見せた。正直に話してみる事にした。


 その瞬間、二人が目を丸くして驚愕の表情をみせた。


「嘘だろ。お前みたいな間抜け女が、あの洞窟から生きて帰って来たってのか? あそこにはヤベェ悪魔がいるって噂だぞ、それに生きて帰ってきた奴も居ないって……」

「まあ、所詮は噂だと言う事ですかね。あるいは彼女が実はとてつもない力を持ってるかってことですね。タスクボアを倒したのも彼女だそうですし……」


 二人が好奇の眼差しで俺を見た。


 ううむ、先程の馬鹿を見る眼差しより居心地は良いが、俺の評価に関しては買い被り過ぎなので肩身が狭い。さっさと誤解を解かなくては……


「洞窟の方は別に何にも出会いませんでした。きっと運が良かったんです。何かの気配はしたんですが、その瞬間に急いで逃げたんです……」


 俺の返答を聞いた青年が溜め息を吐くと、つまらなそうな表情で答えてみせた。


「ケッ! なんだよ、つまんねぇな!」


 ま、まあ。その反応も仕方ない。

 当の本人である俺からしたら、小便をチビっても仕方無い様な経験だったんだが、どうも口頭での説明となると面白味には欠ける。全然面白くない。


 しかし、そんな青年の反応を制する様に少年が口を開いた。


「いえ、ですが。実際に洞窟から帰って来たのなら、内部の構造もある程度は理解しているはず。これはかなり有益な情報ですよ」

「あぁ、なるほどなぁ。俺達があの洞窟を攻略する時に、その記憶は役に立つかも知れないなぁ」


 そう言うと、二人は顔を見合わせ不敵な笑みを浮かべ、おもむろに視線をコチラに向けた。

 そして、青年はその笑みのまま、俺に手を差しのべてみせた。


「俺はアルザック。ザックって呼んでくれ。突然だが、俺達と一緒にあの洞窟を攻略してみねぇか?」


 そう言うと青年は、満面の笑みをこちらに向けて来た。


 非常に気持ちの良い笑顔だ。悪意と言う物を感じない。まさに無邪気と言う奴だろう。


 わんぱく小僧か何かの様な表情だ……


 俺はそんな事を思うと、差しのべられた青年の手に視線を落とした。


 節々に豆の跡があるゴツゴツとした大きな手。とても鍛練を積んでいるのが見て取れる。きっと、さぞかし腕に覚えのある槍の名手に違いない。そして、努力も怠っていないのがわかる。

 もしかしたら、名の有る冒険者? なのかもしれない。


 ……だが。


「絶対にイヤです」


 俺はキッパリと断った。

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