第十四頁 微睡む朝
朝日が窓から差し込んで来る。
外はとても良い天気なんだろう。
暖かく、心地の良い朝日が俺の身体を暖めてくれているのか、とても心地が良い。
朝の微睡みと言う奴だろう。
まぶたが重く、眠たい……
でも、早く起きて学校に行かねば……
遅刻……
遅刻してしまう……
うとうと微睡んでいると、聞き慣れない鳥の鳴き声が朝の訪れを告げていた。
その鳴き声に、ハッと我に返る。
そして、俺は勢いよく身体を起こした。
すると、起こした身体を追う様に、長く艶のある黒髪が鎖骨を撫でた。そして、白く細くしなやかな女性の物と思われる指と腕、足が視界に映る。
「夢じゃなかった……」
思わず溜め息を吐いてしまう。
夢だったら、どんなに良かっただろうか……
「もあ~」
その声に、俺は再び意識を呼び戻された。
どうやら、俺はベッドの上で眠っていたらしい。
そうだ、思い出した。確か、昨日はタスクボアという猪を倒した後、突然身体が重くなって、気を失ったんだ……
見ると服も白いネグリジェの様な物を着ている。多分、シーナさんが着替えさせてくれたんだろう。
これは中々に着心地が悪い。
いや、着心地は良い。良いんだけど、なんと言うか落ち着かない。まあ、俺の中身が男だからだろう。とてつもなく、むず痒い。それに恥ずかしい。スケスケだから、下着もうっすら見えてしまっている。無論、黒いスケスケの奴だ……
いや、きっと。とっても似合ってるとは思うよ。
俺は見た目だけは可愛い女の子だし。
だけど、なんと言うかエッチと言うか、色っぽい。
なんだか、見れば見る程に着心地が悪くなって来た。
「もあもあ~」
ふと足元からマシマロの声が聞こえる。
そう言えば、さっきも声がしてたな……
「って、あれ!? 元の大きさに戻ってる!? なんで!?」
そこには、昨日の事なんて覚えてないと言わんばかりに、呑気な顔をしたマシマロが俺の足にすり寄っていた。
取り敢えず、可愛いのでヨシヨシと頭を撫でる。
「もあっきゅ~♪」
俺が撫でると同時にマシマロは、気持ちよくて堪らないと言った感じで顔を緩めてみせた。
ふふふ、可愛い奴め。
もっと、なでなでしてやろう。
その時、不意に外から話し声が聞こえた。
俺は窓から外を眺めてみる。朝日が眩しく、思わず目を細める。
暫くして、目が慣れると外の景色が視界に映ってきた。
どうやら外でスミスさんとシーナさんが、誰かと話をしているらしい。
一人は、鉄の防具と身の丈より少し長い槍を背負った赤髪の青年。そして、もう一人は外套を纏った青い髪をした可愛らしい感じの少年だ。
多分、その格好からしてスミスさんが言ってたギルドの人達だろう。
はてさて、俺は一体どうしたものか……
スミスさんやシーナさんは俺の事をどう説明しているのだろうか? もし、この世界が魔女裁判だのを繰り広げる世界だとしたら、俺を魔女として彼等に突き出したりするのだろうか?
いや、もしそんな世界だとしても。スミスさんとシーナさんはそんな事はしないだろう……
我ながら、スミスさんとシーナさんを疑うなんて、余りにも恩知らず過ぎる。今にして思い返すと、俺が意識を失うその瞬間まで彼等は俺の事を心配してくれていた。
彼等は間違いなく信用して良い。
とても良い人達だ。
だが……
俺は視線を部屋の中に戻した。
部屋の中には小さい机がひとつある。
そして、そこには俺の持っていた荷物が置いてある。テントの布に包まれた白骨遺体。そして、不思議な本。
これがここに置いてあると言う事は、スミスさんとシーナさんは中身を見たはずだ。
となると、白骨遺体を目にしたと言う事になる。
そうなると、普通の人ならどう言う反応をするだろうか。もしかしたら、俺の事を人殺しか何かと勘違いするかもしれない。
もしそうだとしたら……
流石に不味いかもしれない……
先ずは、誤解を解かなくては……
俺は直ぐ様、本と白骨遺体を胸に抱え込むと外へと飛び出した。




