第十三頁 マシマロVSタスクボア リザルト編
「さて、これはどうしたもんかねぇ?」
そう言うと、シーナさんは呆れ果てた様子で巨大化したマシマロを見上げてみせた。
当のマシマロは呑気に「もあぁ」と地面に横たわっている。
もはや、立ち上がる気もないと言った様子だ。そして、問題のタスクボアは、まるで現代アートの様にマシマロの毛皮に絡まりながら深々と埋まっている。
しかも、哀れにも虫の息である。
こんな惨めな最後があって良いのだろうか。さぞかし、名のある山の主とお見受けしていたのだが……
「まあ、さっさとさばくしかねぇだろ。骨と皮を見せりゃ、ギルドの奴等が買い取ってくれんだろ。肉は喰っちまえばいいさ」
スミスさんがそう口にすると、そそくさと何処かに消え。直ぐに悪魔が持っている様などデカイフォークみたいなのを持って来た。
「さあ、早くしねぇと肉が悪くなる。それに、苦しませるのも可愛そうだ、さっさと楽にしてやろう」
ああ、さぞかし名のある山の主よ。お前は最後は食べられちゃうんだぞ。哀れだな……
せめて、来世は幸せに暮らせよ……
そう祈った瞬間、驚きの光景が目の前で広がった。
なんと、一匹のタスクボアの身体が、眩い黄金色に輝き出したのだ。
「おいおい。な、なんだこりゃ!?」
余りに驚愕の光景にスミスさんが声を挙げた。
しかし、そんな事はお構いなしにとタスクボアは輝きを増して行く。そして、タスクボアは光の粒子になると夜空へと消えて行った……
……かと思ったら、その光の粒子は少し夜空に上がると、突如として行き先を変え、俺の方向に飛んで来た。
「え?」
そう思った時には既に俺の身体が眩い光に包まれていた。まるで光輝く蚊柱に包み込まれた様だ。
目がチカチカする。
それに、なんだか目が悪くなりそうだ……
それにしても、全く意味がわからん。
俺はどうすりゃいいんだ?
「だ、大丈夫かい!? アイラちゃん!?」
「え!? あ、はい!! 大丈夫です!!」
よくわからんけど、大丈夫です。痛くも痒くもありません。眩しいだけです。それに、なんだか少し温かくて元気が湧いてくる気もします。
その時、ふと不思議な感覚が再び訪れた。
何か“力”の様な物を感じる。
俺の中にある力。本の中にある力。
そして、他の新たな力。それが本の中に流れ込んで来ている様な感覚がする。
気のせいなんかじゃない。
確かに何かを感じる。
そう思った矢先、光の粒子は俺の持っている本に集まると、そこに吸い込まれる様にして消えていった。
なんとなく感じる。
きっとこの本の中に入って行ったんだ……
見ると、先程までいたタスクボアが一匹。影も形もなく消えている。
なんだか、少しだけわかってきたぞ……
「こりゃ、一体なんだぁ? 一体何が起きたんだぁ?」
スミスさんが驚いた様に声を上げると俺に視線を向け、シーナさんも同様に俺の方に視線を向けている。しかし、残念な事に何が起きたのか、詳しいことは俺にもわからん。
なんなら、俺の方が聞きたい。
しっかり教えて欲しい。
チュートリアル的なのが欲しい。
ぶっちゃけ、少しわかってきた程度で、俺も人に説明出来る程、状況を理解できた訳ではない。
しかし、取り敢えず事態の収拾には努めなければいけない。俺は先程の珍事を誤魔化す為、二人に向かって口を開いた……
その瞬間、突然視界がぐにゃりと歪んだ……
そして、それと同時に身体中の力が一気に抜け、俺は膝から地面に崩れ落ちてしまった。
「は、はれ?」
酷く籠った様な声でスミスさんとシーナさんの声が聞こえる。
口々に「大丈夫か!?」「しっかりしろ!?」と言う声が聞こえる。その声に「大丈夫です」と答えようとするが、酷く重い身体は言うことを聞かず、唇すら動かす事も叶わなかった。
そして、心地好い浮遊感が俺を襲うと、それと同時に俺の意識は深い深い場所へと落ちて行った。




