第十一頁 マシマロvsタスクボア 前編
「もあ~!!」
心なしか雄々しいマシマロの声が高らかに響く。
見ると、マシマロは自分よりも三回り程も大きいタスクボアに向かって威嚇している。
全く意味がわからない。これがラーテルとかだったら納得もするのだが、マシマロがそれをやっている。
精々、子羊程度の大きさしかないマシマロがだ。
対して、タスクボアは大きく、その鼻っ柱はちょうど俺のみぞおち辺りに位置している様に見える。つまり、アレに突っ込まれたら俺はみぞおちをいわして、死ぬ。
そして、明らかにマシマロは余裕で殺されてしまう。
なんで、マシマロは突然こんな暴挙に出ているんだ。
「もあ!!」
不意にマシマロは声を発すると同時に駆け出し。その勢いのままにタスクボアに向かって突進し初めた。
しかし、マシマロは足も遅く、体毛はモコモコな為、見ていて滑稽な状況だ。
しかも、その突進も「ボフン!」とタスクボアに優しく当たっただけで、結局なんの意味もなかった。
さらに、それが逆鱗に触れたのか、タスクボアはとても鼻息を荒くし、目の前にいるモコモコの生命体に殺意丸出しの目で睨み付けている。
もう、お仕舞いである。
このままではマシマロが殺されてしまう。
俺は、咄嗟にその場へと駆け出そうと足を踏み出した。
しかし、その瞬間。再びあの本が輝き出した。
「へ!?」
正直、何が何だかわからないが。こんなタイミングで光るんだ、何かしら意味があるはずだ。
俺は、直ぐに本を開いてみた。
すると、何故だかわからないが、モアナの詳細が描かれたページが一際強く輝きを放っていた。
なんだかわからないが、不思議な力を感じる……
それも、本からだけではなく、俺の中からも……
そして、その二つの力は何か繋がっているような、そんな不思議な感覚がする……
俺はその不思議な感覚に誘われる様に本に手を乗せた。
何故だかわからないが“こうする物”だと、そう言われている気がした。誰に言われているのだろうか……
もしかしたら、この肉体がそう言っているのか……
本当の所はわからない。だけど、今はこの声に従うべきだと直感した。
不意に身体から力が抜けて行く感覚が襲ってきた。
俺の中にある力の感覚が極端に減り。
本の輝きが更に増し、強く強く輝き出した。
闇夜を照らす程の蒼く透き通るような光。星の輝きにも似た光は、俺の中にある力を吸い上げると同時に、輝きを更に更にと増して行く。
「くっ……」
不意に視界が揺れ、霞みだした。それと同時に足から力が抜け、思わず地面に座り込みそうになる。
俺はなんとか、膝を地面につき堪えるが、未だに視界が揺れている。
不味い、なんか不味い。
「大丈夫か! アイラ!」
「しっかりしな、アイラちゃん!!」
突然の声に意識が揺り戻される。
見ると、俺を支えるようにスミスさんとシーナさんが立っていて。二人は心配そうな顔で俺の事を眺めている。
「アイラちゃん、どうしたんだい!? 突然倒れ込んだりして!! ここは危ないよ、早く家に戻るんだ!!」
シーナさんがそう言うと、俺を家に連れ戻そうと腕を引っ張った。スミスさんも同様に俺の腕を引っ張っている。
「だ、駄目です!! このままじゃ、マシマロが!!」
同時に俺はマシマロに視線を移した。
その時、俺はマシマロの身に起きている、ある異変に気が付いた。
「マ、マシマロ…… お、大きくなってる?」
俺の声を聞いた、スミスさんとシーナさんが同時にマシマロの方へと視線を向けた。そして、それと同時に目を丸く見開き、驚愕の表情を浮かべた。
「な、なんだこりゃ!?」
「な、なんだいあれは!?」
二人の驚愕の表情は無理もない事である。多分、俺も驚愕の表情を浮かべているハズだ。
何故なら、俺達の視線の先には、とんでもない大きさになってしまったマシマロがいたからだ。
そして、そのマシマロは低く唸る様な声で「モア~」と声を発したのだった。
どうして、そんなに大きくなっちゃったんですか~?
真面目にやってきたからですか~?
 




