第十頁 タスクボア
【タスクボア★☆☆】
【その大きな牙と大きな身体を生かした突進で、相手が動かなくなるまで痛め続ける。その攻撃性から狂暴な魔物と恐れられるが、性格は極めて繊細で臆病とされており、無闇に近付かなければ戦闘は避けられる事が多い】
んなこと言ったって。農家さんは作物を荒らされてたら傍観なんて出来る訳ないだろう。
思わず、俺はツッコミを入れそうになる。
まったく。なんて使えない本だ。害獣の駆除方法の一つも書かれてないんかい。
「眉間をバコーン!! ってブン殴ったら、この猪の化物は死にます」みたいなの書いとけよ。燃やしちまうぞ。
「アイラ? どうしたんだ? その本がどうかしたのか?」
「え? いえ、大丈夫です!」
俺の様子を見てスミスさんが心配そうな目でこちらを眺めている。見ると、シーナさんも不思議そうな表情でこちらを見ている。
二人の反応に少し違和感を覚える。
二人が今しがた、本から放たれた光を見逃したとは思えない。マシマロが鳴いてまで教えてくれたんだ、皆の視線は間違いなくこの本に集まっていたはず。
なのに二人は、本がどうなっていたのか全くわかっていない様子だ……
となると、今の光は、俺とマシマロにしか見えてないのか? それとも、ある条件を満たした者だけが見ることが出来ないのだろうか?
よくわからないが、何かあるのかもしれない。
「もあもあ!!」
不意にマシマロが声を上げた。
「あ!」
その場にいた全員が思わず同じ様な声を漏らした。
なんと、マシマロが物凄い勢いで走り出したかと思うと、丁寧にドアを押し開けて、外に飛び出してしまったのだ。
なんでこんな所で、無駄な器用さを発揮しているんだ。と思ったが、それよりも先に俺は駆け出していた。
「アイラ駄目だ!! 下手したら、怪我じゃ済まないぞ!」
「アイラちゃん!! 戻っておいで!!」
二人の声が耳に届く。
言ってる意味もわかる、理解も出来る。
だけど、俺は足を止めようとは思わなかった。
少なくとも。マシマロは、俺のこの世界で出来た初めての友達だ。正体もわからない瞳の恐怖に怯え、底知れない不安を抱えていた俺を助けてくれたのは間違いなくマシマロだ。
マシマロにそんな気持ちなんて無いかもしれない。
いや、きっと無いのだろう。
でも、彼のお陰で俺は間違いなく救われた。
だから、マシマロは俺の恩人なんだ。放っておく事なんて、絶対に出来ない。見殺しになんて、絶対にしない。
「マシマロ!! 今、行くからね!!」
俺は急いでマシマロの元へと向かった……
 




