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幻想のグリモアール  作者: ふたばみつき
第0話 プロローグ~open your grimoire~
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微睡む日々の終わり

 漫然とした微睡みの様な日々が無意味に過ぎ去っていく。それは良く有る高校生の日常。将来への些細な不安。

 そして、自らの未来には何かが起きるのではないかと根拠の無い期待が心の片隅をそっと埋めている。

 そんな、どこにでもいる一人の男子高校生の当たり前の日常が突然終わりを告げるとは誰が思ったのだろう。


 少なくとも俺はその時、微塵も思いもしなかった。

 

「おーい、響。先生ちょっと用事があるから。戻って来るまで準備室の整理しててくれないか?」


 この準備室と言うのは図書準備室の話しをしているだろう。

 何せ、明日からは全国の高校生が愛してやまない夏休みだ。先生の話によると新学期に新しい本を購入するらしく、事前に図書室や準備室の整理をしなければいけないらしい。

 俺は取り敢えず先生に向かって「めんどくさいなぁ~」と言った様な表情を見せつけると重々しい足取りで準備室へと向かった。


「ははは、そんな面倒臭そうな顔するなよ響!! じゃあ、後はよろしくな!!」


 準備室のドアを閉める寸前。そんな声が耳に届いたので俺は今にも閉まりそうなドアの隙間から勢いよく手を出してみせる。

 そして、力一杯親指を突き立て「任しとけと」とハンドサインを作って見せた。我ながらノリが良い。

 すると、先生の声が扉の向こうから微かに届いて来た。


「じゃあ、よろしく頼むな!!」


 その声がして暫くすると準備室に静寂が訪れた。

 そう。図書室とは本来こうあるべきだ。なにげなく外を眺めると野球部が青空の下で激しい練習に励んでいる姿が目に入った。

 しかし、ガラスに遮られているからか彼等の活気に溢れる声はこちらには届いては来ない。そっと耳を済ましてみると時折甲高い金属音が微かに聞こえてくる。

 しかし、それよりも耳に届いてくるのは吹奏楽部の演奏の音だろう。幾つもの遮蔽物に遮られているが一応何を演奏しているか。それがわかる程度には音色が耳に届いて来る。

 と言っても、一度その音色から意識を離してしまうと準備室の中には再び静寂が訪れる。


 確か、この高校は自衛隊の駐屯地が近くにある。そのお陰で部屋の一つ一つに防音設備が付けられているらしい。なんと冷暖房も全室完備されており一人の学生としてはありがたい限りだ。特に体育の後の冷房の効いた教室なんて、居眠りには持ってこいだ。

 そんな、考えを頭に巡らせていると不意に何かの声が耳に届いて来た。


(こっち…… こっちだよ…… こっちを見て……)


 なんと言うか、耳に届いたと言うより頭の中に響くと言った感じの不思議な雰囲気の声だ……


「な、なんですか? 誰か居るんですか?」

(だからこっち…… こっちよ……)


 なんだか、とても不思議な感覚だ……

 頭に響く声は、確かに俺の視線をある一点に誘導して行く。そして、声に誘われるがままに視線を滑らせると、そこには一冊の本があった。

 なにやら非常に古めかしい本だ。英和辞典ほどの厚さがあるだろうか。結構厚く重さもある。余りにも古くなっている為か、表紙も何が描いてあるのかよくわからない。

 取り敢えず読んでみようとその本を手に取ってみる。そして、少しばかり眺めるとおもむろにその本を開いてみた。

 するとその瞬間、本が開かれると同時に大量のホコリが舞いあがった。俺はその大量のホコリをもろに喰らってしまい思わず咳き込みと溜まらずに本を床に落としてしまった。

 

「まったく、ホコリまみれだよ……」


 溜め息と共に息を整えると、床に落ちた本へと視線を戻した。

 見ると、本はあるページを開いており。そこには可愛いらしい少女が書かれていた。


 肖像画と言う奴だろうか。とても写実的に描かれている。


 黒く長い綺麗な髪の毛に大きく丸い瞳。それと優しそうだけど。どこからおっとりとしていると言うか。ポケーとした様な表情をしている様に見える。

 なんと言うか虚ろと言うか。なんだか眠そうな顔と言うか。そんな感じの顔をしている。

 なんだろうか、一言で表すなら天然ちゃんと言った印象を受ける。それと情報を付け足すなら、かなりの巨乳だ。


「誰なんだろう、この人……」


 俺は思わずそう言いながら本を拾い上げた。

 すると、やはりと言うかなんと言うか絵の直ぐ下に彼女の名前らしき物が描いてある。

 しかし、その文字は外国語なのだろうか、全く読めない文字で書かれていた。


 そう読めない文字で書かれていた。なのに……


「召喚師アイライン……」


 自分がその言葉を発した瞬間、背筋が凍った。

 なんで俺は見たことも無い文字の意味が“わかる”のだろうか。


 そう。いま無意識に“わかる”と表現したがこれは“読める”ではなく意味が“わかる”だ。何故だかわからないがこの文字の意味が勝手に頭に流れ込んで来る。


「な、なんだこれ……」


 何か不味い予感がする。

 しかし、その不味い予感とは裏腹に俺の身体は勝手に動き出し。本のページを次から次へと勢い良くめくって行った。

 その度に本に刻まれた文字や絵が視界に映り。その内容や意味が頭の中に勢い良く流れ込んで来る。


「な、なんなんだこれは!!」


 その現象に思わず叫び声を上げてしまう。

 あまりの情報量に頭がパンクしそうだ。


 しかし、俺はなんとか自らの叫び声を切っ掛けになんとか頭へと流れ込む情報の数々を遮断した。そして、本から手を急いで放すとそれと同時に勢い良く本を宙へと放り投げた。


 だがその瞬間、事態が自分の認知の範囲外に有ることを悟った。


 なんと、今しがた放り投げた本が俺が放り投げたままの高さでふわふわと浮かんでいるのだ。そして、今もなおページをめくり続けている。

 まるでポルターガイスト現象とでも言えばいいのだろうか。目を疑う光景が目の前で繰り広げられている。まるでそこにいる透明な誰かが本をめくり続けているようだ……


 そして、暫くするとめくられたページ達が独りでにちぎれ出した。本から離れたページは紙切れとなって一枚一枚が蝶の様に宙を舞い始めた。


 なんだか良くわからないが不味い。それだけは明確にわかる……


 咄嗟にそう思うと俺は急いで部屋から出ようとドアに向かって駆け出した。

 しかし、部屋を舞う紙切れ達がそれをさせまいと一斉にこちら目掛けて飛んで来た。一枚や二枚ならどうってこと無い紙切れだったが、それは瞬く間に何十枚と重なると身体の自由を奪って来た。  そして、それは幾重にも重なり俺は遂に成すすべがなくなってしまった。

 

 その時、不意に足をすくわれ床に倒れてしまった。

 そして、それを待っていたかの様に全ての紙切れ達が一斉にこちらに向かって飛び掛かって来た。


 その光景に恐怖を覚える。そして、瞬く間に視界を紙切れが塞いでいくと遂に呼吸すら困難な状況になってしまった。


 ま、不味い……


 く、くるしい……


 息が、いきができない……


 い、意識が遠退いてい、いく……

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