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異世界転生したらヒロインちゃんが可哀想なことになってた

作者: 雪塚

思い付きとノリと勢いだけで書きました。出来心なんです…。


 突然だが私、魔王に転生してしまった。

 死因は食中毒という流行のトラック事故とは全く無縁のやつである。

 そして気付いたら事務机に座るお姉さんが目の前にいた。


「ようこそおいでくださいました。こちらは転生振り分け課、私は異世界担当の『おいでませ異世界』と申します」

「いや名前」

「それでは異世界転生の前に、いくつか質問がございますのでお答えください」


 私のツッコミを華麗にスルーし、素っ頓狂というかある意味そのまんまな名前のお姉さんは事務的に言うと、ぺらりと一枚の紙を取り出した。


「まず、転生にあたりキャスティングにご要望はございますか」

「……モブで」

「では次に、ご希望の転生先はございますか? 乙女ゲーム、RPG、育成ゲーム、バトルマンガ、少女マンガなど」

「育成ゲームですかね……」

「ネーミングについて生前ご利用になっていたもの、もしくはデフォルトネーム、どちらをご希望されますか?」

「デフォルトで」

「かしこまりました」


 お姉さんはサラサラと紙に私には読めない字で何かを書き綴ると、すっと右手で机の隣を指し示した。つられて視線を向けると、先ほどは何もなかったそこに「いかにも」なつくりのドアがどどんと出来上がっている。


「こちらのドアの先が転生先となっております。それでは、良き異世界転生ライフを」


 ぺこりと頭を下げるお姉さんに「はあ、どうも」と頭を下げてドアを潜った。

 そして私は転生したのだ。



 質問の返答がまっっったく反映されていない世界に!



 まずここは私が以前やり込んでいたクソゲーとしてわりと有名な乙女ゲームの世界である。

 何がどうクソゲーなのかと言うと、攻略対象の好感度を上げるのは学園生活の中でなのだが、学力、魅力、魔力、体力などのステータスを上げなければ、選択肢が正解でも好感度が上がらない。

 ひたすら作業を繰り返してステータスを上げ、攻略対象と恋愛関係になったところでハッピーエンド、かと思いきや、突然世界に危機が訪れる。そう、魔王の登場だ。

 攻略した相手と共になぜか仲間を集めて、そこから突然のバトルRPG仕様。そしてレベルカンストでも運が良ければ勝てるかも? というほどステータスのバグった魔王と戦って勝ち、ようやくトゥルーエンドが訪れるのである。

 ちなみにこの流れ、どの攻略対象でも同じ。難易度の高いハーレム状態だと、魔王を倒せる確率がちょっと上がる。だがそれだけだ。

 なお学園生活でゲームが終わりを迎える場合は、バッドエンド、友情エンドのみという心の底からクソ仕様なゲームだった。


 そして私はそのクソゲーで、かつてヒロインにつけていた「ジェラティーヌ」という名前で魔王をやっている……。


 モブ希望で育成ゲームがよくてデフォルト名がいいって言ったのに、ガン無視である。冗談もほどほどにしてほしい。

 しかし冗談ではなく現実になってしまったので、私は仕方なく魔王をやっている。やるしかないので。仕方なく。

 ——ところで魔王になってから知ったことなんだけど、実はこの魔王という役どころ、実は神のしもべらしい。意味が分からない。

 何でも発展し過ぎた世界、溢れかえり傲慢になる人間たちを排除して、あたらしく世界を作り直すために魔王が存在するようなのだ。つまり、リセットボタンである。

 人間は地上に、魔族は地下に。基本はそれが覆ることはないのだが、人間が増え過ぎて世界の秩序に乱れが生じると、魔界と人間界が繋がるようにできている。

 そして魔族に魔界とくれば魔獣だが、魔界にも人間界にも魔獣はいる。最も人間界にいる魔獣は、いわゆる迷子の子なんだけど。魔獣は魔界では家畜とか普通の野生動物みたいな感じで、魔族のゴハンなのだ。それがふらりと人間界に迷い込んでしまうと、人間にとっては危険なものになる、と。

 ちなみにこの魔獣、魔界では死んでも消えないが、人間界では胆石とか結石をのこして消えてしまう。そしてその胆石やら結石を、人間は魔核と呼んで大事に使っているという……。

 まあそんな感じで人間をお掃除するために魔族は存在するもんだから、多分遺伝子レベルで人間はお掃除するものって刷り込まれてるんだろう。


 で、現在私は適度に人間をお掃除しながらヒロインちゃんが来るのを待っている。

 待ってるっていうか、普通に生活してるだけだけど。

 魔族だからって全員が魔王城にいるわけじゃなく、ちゃんと家があって街がある。店もあるし。だから法律なんかも存在していて、私にも仕事があったりするのだ。

 じゃあ魔族も増え過ぎて世界の秩序を乱すんでは? という話になるが、なんと人間と違って魔族は増えない。そもそも性別がないし、子供も生まれないからだ。一定の年数を生きた魔族は消滅して魔王の元へ還り、新しい魔族がどっかから勝手に生えてくる——そう、生えてくるんですよ……。キノコかよ……。


 で、だ。肝心のヒロインちゃんだけど、どうもこちらも転生者っぽい。使い魔からの情報では、ものすごい積極的に動き回って、何と高難易度のハーレム状態にまでこぎつけたとか。

 ヒロインちゃん、根性あるな……。

 これはもしかするとトゥルーエンドありかなー、なんて思いながら明日お掃除する地域を吟味していると、私の右腕であるシャリート・ネータデ・オスシが執務室に飛び込んできた。


「大変です、魔王様!」

「騒々しいな。どうした」

「聖女の一行が魔界の門を突破し、この城へ向かってきているようです!」


 険しい顔のオスシを一瞥し、私は立ち上がった。


「貧弱な人間の分際でやるものだ。よかろう、敬意を表し、この私が直々に迎えてやろうではないか」


 ニヤリと悪い笑みを頑張って作りながらマントを翻すと、深々とオスシが首を垂れた。

 ……ちなみにオスシの名前、私が付けたんじゃないからね。私が魔王になった時はもうオスシだったんだよ……。多分誰かがヒロインに付けた名前なんだろうな、これ。他にも「ピザデモ・クッテーロ・DB」ってやつがいたりする。勘弁してほしい。

 ともあれ魔法を使って魔王城の外に転移すると、ヒロインちゃんたちがやって来るのが見えた。既に満身創痍っぽい感じで。

 どう見てもレベルカンストしてないんだけど、これ大丈夫? 破滅エンドコースじゃない?


「貴様が魔王か」


 そう剣を構えたのは、一応メイン攻略対象の王太子様だ。顔がいい。薄汚れてるけどサラッサラの金髪に碧眼のいかにも王子様な王子様だ。


「テメェに世界を滅ぼさせたりなんかさせねえ!」


 続いて声を上げたのは、格好から多分騎士団長のご令息。ちなみに強引俺様系で、私はあんまり好みじゃなかった。

 すると今度は、魔法を得意とする宰相のご令息がヒロインちゃんの肩に手を添えながら言った。


「震えているな。トイレ行けよ。大丈夫か?」


 ……何言ってんだコイツ。

 突然のトイレ行け発言とはこれいかに。何でここでトイレが出て来るんだ。お前の頭が大丈夫か。

 私が(顔には出さず)宇宙を垣間見ていると、彼らは口々に言った。


「安心しろ! トイレ行け! 魔王など恐るるに足らん!」

「そうだぜ、トイレ行け! オレたちがついてる!」

「トイレ行け……お前は俺が守ってみせる!」


 キリッとした攻略対象の面々とは裏腹に、ヒロインちゃんは顔を真っ赤にして俯き、ぷるぷる震えている。

 ヒロインちゃんの、大丈夫、大丈夫だからちょっと静かに……という蚊の鳴くような声な声が耳に届いて、察した。


 ヒロインちゃん……あんた……やっちまったんだな……。

 悪ふざけでヒロイン名、「トイレ行け」にしちまったんだな……。

  空からの私にしか聞こえない爆笑、絶対神様じゃんよ。ヒロインちゃん……自業自得とはいえ、ご愁傷様です。


「トイレ行け、か……。どうやらその女が聖女のようだ。ではまず、貴様から片付けるとしよう。覚悟しろ、トイレ行け!」


 そう口にしながら私は手に魔力を集める。風が舞い髪が揺れてマントがはためき、本来なら超かっこいいシーンになるとこなんだけど、全然格好つかない。トイレのせいで。

 ちなみにストーリーではこの後すぐ、オスシが「魔王様、ここはまず私めが」と出てきて自己紹介してバトルに入るんだよ。

 オスシとトイレ行けが入り乱れるとかシリアスのかけらもないじゃないですかー……やだぁ……。


 未だ続く神様の爆笑とオスシの「魔王様」という呼びかけに私は心を無にするしかなかった。


 次のヒロインちゃんはどうかまともな名前であってほしいと切に願うばかりです。はい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ネーミングセンスに笑ってしまいました。とても面白かったです!(笑)個人的にオスシさん好きです。
[一言] 早く解放(意味深)されたくて強行軍だったんですね
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