恋の自覚
国の科学研究の功労者を讃えるセレモニーパーティーに出席することになった。
王女はまだ見つかっていない。
国王とお妃の後ろに立っておけばいいだけだと言われたが、国中の貴族と、オスカー王子も出席するらしい。
国王の挨拶が終わり、国王に直接挨拶しにきた貴族の列が出来ていた。
少女はシャノン王女の知り合いに話しかけられないように、コソコソと人目を避けて誰もいないバルコニーにたどり着く。
「パーティーが終わるまでここに潜んでおこう」
そう決めた直後、「シャノン、久しぶりだな。」と声をかけられ、計画がぶち壊しになる。
声に振り向くと、赤毛のイケメンだけどチャラそうな男がニヤニヤしていた。
(この人はきっと…カールね)
王女の幼馴染で、シャノン王女がオスカーを無下にしてまで惚れ込んでいた人物。
「病気は治ったのか?なんで学園に来ないんだ?」カールは馴れ馴れしく肩を抱いてきた。
学園に行くのはバレるリスクが大きいので休学していたのだ。
そんなことよりも、近い。
無愛想だけどあんなに優しくて素敵なオスカー王子をシャノン王女がなぜあんなに嫌っていたのかと不思議に思っていたが、カールを見て確信した。
王女様は男の趣味が悪すぎる。
この軽率そうな男にお熱だったのか。
いくら幼馴染で学園内では身分の差はなく平等だといっても、ここは公式の場だし馴れ馴れしすぎやしないだろうか。
「ちょっと、離してください」
「どうしたんだよ、シャノンらしくない。見舞いに行かなかったから拗ねてるのか?しょうがないお姫様だな」
耳元で囁かれて、全身の身の毛がよだつ。
「その手を離せ」
低い声が聞こえて、振り向くとオスカーが冷たい目でカールを睨んでいた。
「俺の婚約者だ。手を離せ」
「これはこれはオスカー王子。失礼いたしました。誤解しないでくださいよ。幼馴染に挨拶してただけです」
悪びれる様子もなく「じゃあシャノンまたな」と言い残してカールは去って行った。
「大丈夫か?」
「え?あ…だ…大丈夫です」
手の震えを止めようと右手で左手を掴む。
気持ち悪かった。
オスカーが来てくれなければ喰われていたくらいの威圧感と恐怖を感じた。
オスカーはシャノンを落ち着かせるようにシャノンの握った震える両手に自分の手を添えた。
オスカーの手の温もりに、肩の力が抜けて震えも止まった。
カールに触られた時とは真逆の安心感にホッとしていると、「チッ」と舌打ちが聞こえ、オスカーを見上げると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「あの男…君のことを呼び捨てにしていたな」
「え?あ、あの人は幼馴染で…だから」
「俺も、君のことを、シャノン、と、呼んでも良いだろうか」
予想外の言葉に、驚いてオスカー様を見る。
オスカー様の耳が少し赤い。
私が頷くと、少し嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、もう自分の気持ちに蓋をすることが出来ないと悟った。この人が好きだ。
私は、オスカー様に恋をしてしまった。
でも、オスカー様の目に映る私は、オスカー様が微笑んでくれる私は、私ではなく、シャノンなのだ。
シャノンではなく、本当の名前を呼んで欲しい。そう思うのは、欲張りだろうか。
思うだけなら、許されるだろうか。
せめてシャノン王女が戻ってくるその瞬間までは。
涙が出そうになったのを誤魔化して、もう少し夜風に当たりたいので、オスカーにパーティーに戻るように言った。
なかなか戻ろうとしないので、一人になりたいのだと言うと、体を冷やさないようにと私の肩に上着を掛けてしぶしぶ戻って行った。
さっきまでオスカー様が着ていた上着の温もりを感じながら気持ちを落ち着かせていると、急に後ろから現れた何者かに口を塞がれ、薬品の匂いを嗅いだ少女は気を失った。