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第五十九話 「参加」


 遂にその時はやってきた。

 結局、母親との不和は拭えないままお茶会当日を迎えてしまった。


 公の場に姿を見せるときには、いつもメルロがある程度の情報を教えてくれていた。

 参加する人たちの家柄、肩書、社会的な評判と長く貴族社会で生きてきた経験もあって、あらゆる情報を持っているし、それを得ることが出来るだけの盤石な人脈も築き上げていた。

 あまり関係性の良くない親子ではあるが、クロエにとって尊敬できる点ではあった。


 具体的に誰が参加するのかも良くわかっていないまま、王城へと赴く。

 招待状を持っているうえに『大公令息の婚約者』でもあるので、勿論丁寧に快く迎えられるが、会場に揃っている夫人たちはどうだろうか。


 不安な気持ちを抱いたまま、正直参加することにすら積極的にもなれない。

 お茶会の会場は、王城の中庭で行われるようで城に勤める使用人に先導される。中庭は、手入れされたお花が揃っていて、植物園の一角のようにも感じられた。

 会場には既に何人か到着しているようで、一斉にクロエへと視線が集まった。


 その面々にはクロエは見覚えがあった。みんな年齢が殆ど同じで、クロエがまだ若くフレデリックの婚約者として社交界に出ていた時には、結婚相手を探している真っ最中の令嬢たちだった。

 あの時とは全く立場が逆転してしまっている。今は、クロエのみ結婚をしておらず、他の参加者は貴族夫人としてこのお茶会に参加をしているのだ。


「ごきげんよう」


 集まっている夫人の中で、もっとも爵位の高い侯爵夫人が挨拶をしてくれたところで、クロエもお辞儀をすることで挨拶を返した。


 夫人たちの一部には、なぜここにいるのかという視線を送る者たちもいる。

 勿論彼女が大公令息の婚約者という立場で参加していることは理解しているが、それでもかつて『婚約破棄された令嬢』という不名誉な称号を与えられて、社交界を去った一連の流れを目の当たりにしていた夫人たちとしては、やはりこの名誉ある場所にクロエが呼ばれていることは納得できない部分があるのだろう。


 そして、その感情を最も抱いている夫人は周囲よりも一層クロエに冷たい視線を送っている。

 マリメル・ゴーズフォードだ。

 クロエはなるべく彼女と関わらないように最も遠いところを位置取った。


 そのあとも少しずつ夫人たちが集まって招待客が全員揃うまでに時間はかからなかった。


「殿下がお見えです」


 王妃付きの侍従の声で夫人たちは背筋を正す。

 結局、クロエは王妃が現れるまで誰とも大して言葉を交わすことがなく過ごすことになった。


 コツコツと足音を鳴らしながら、気品に溢れた殿下が姿を見せる。


「みなさん、今日は集まってくださってありがとう。若いみなさんの意見を聞いて、是非この国の在り方をより良いものに出来たらと思っています」


 凛とした声で響き渡った言葉に、集まった女性たちは頷いて同意の意を示した。

 きっと、この場にロージーが居たら、いい機会だと様々な意見を殿下にぶつけていたことだろうとクロエは感じた。だけれど、この場には政治的な意見を伝える者はいないだろう。当たり障りない世辞を並べて、この場をのらりくらりとやり過ごして、如何にして自分と家名を王妃へ売り込むかということしか頭にないのだから。

 それでいうと、クロエも考え方は夫人たちと似ていた。

 何も問題を起こさず、穏やかにこの時間がただ過ぎていくことが彼女の本懐だ。


 かくして、若い女性が集ったお茶会は、王妃が席に着いたことで始まりを告げた。


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