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婚約破棄された令嬢のそのあと 〜現実は物語のように甘くない〜  作者: みるくコーヒー


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第十一話 『救済』


「お゙え゙ぇ!!」


 婚約破棄をされてすぐ、まだクロエに不名誉なレッテルが貼られていない頃は、母親に連れられて夜会やパーティーに出ていた。


 その度にフレデリックとマリメルの幸せそうな姿を目の当たりにしては、会場のトイレで吐いた。


「ドレスは……無事ね」


 いつも身に纏っているドレスが汚れていないかだけ気になる。外聞を気にする母親がクロエの今の所業を許すわけがない。


 ドレスの無事を確認して、クロエはトイレから出た。

 体調が優れず、よろよろと体を揺らしながら歩く。


 終わりの時刻まで、会場の隅で大人しくしていよう。

 クロエはそう決意しながら会場へ向かう途中、突如目眩に見舞われて倒れそうになる。

 今にも倒れる、というところで誰かにぶつかり相手がクロエを支えたおかげで彼女は倒れずに済んだ。


「大丈夫かい? お嬢さん」


 優しい声音でクロエに声をかけたのは老人だった。

 少し腰が曲がっていることもあり、一般的な女性よりも少し身長の高いクロエと背丈が同じくらいだ。


「あ……ごめんなさい」

「少し座って休んだ方がいいね」


 老人に連れられて、クロエは会場の外にある椅子に座る。

 座って深呼吸をしたことで少し落ち着いたような気がした。


「人がたくさんいるから疲れちゃうよね。僕も仕事で来ているんだけどね、そうじゃなければ参加は出来ないよ」


 ふふふっと柔和に笑う老人に心が和む。

 それからすぐに老人は目を見開いてから困った顔をした。


「お嬢さん、泣かないでおくれ」


 その言葉を聞いて、クロエは自身の頬に手を当てる。


 手が濡れた。

 どうしてかわからないが、クロエは涙を流していたのだ。


「わ、私、何で泣いて……ごめんなさい、すぐに止めますから」


 泣き止まなければ。

 そう思えば思うほどに涙が止まらない。


 久しぶりに人の優しさに触れたからだろうか。


「これ、良かったら使って」


 差し出されたハンカチを受け取って涙を拭う。

 その後にもうひとつ何かが差し出された。


 受け取ってからよく見ると、それは名刺だった。


「僕、魔導所の所長をしていてね、もし何か困ったことがあったらいつでも訪ねて来なさいね」


 名刺には『ジョゼ』という名前が記載されていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 頼るあてもなく、数ヶ月前に貰った名刺を頼りにクロエは魔導所を訪れた。


 クロエに『婚約破棄された女』というレッテルが貼られ、道を歩くだけでエシャロット家は周囲の貴族から白い目を向けられた。

 母親は少しの間クロエの不名誉な評判を払拭しようと躍起になっていたが、途中でそれを諦めて彼女をエシャロット家からいないものとして扱った。


 納屋に追い出されて、少しの間はどうにかやっていたが、結局食べるにも何をするにもお金が必要になった。

 父親の伯爵もロージーもクロエのために母親に口添えをすることはしなかった。エシャロット家で1番強いのが母親で、伯爵は家にいないことも多く面倒は避けたいと思っており、ロージーも母親には逆らえなかった。


 そうして、クロエは名刺を貰っただけの老人に頼るしかなかったのだ。


「あの、ジョゼさんという方はいらっしゃいますでしょうか」


 クロエから声をかけられた女性は、大きな声で「ジョゼさーん!」と名前を呼ぶ。


「はいはい、どうしたのかな?」


 奥から老人が姿を現す。

 紛れもなく、クロエの記憶の中にあるジョゼだった。


「あの、私……以前にパーティーで名刺を頂いて……それで……」

「あの時の泣いていたお嬢さんだね、覚えているよ。さぁ、中へお入り」


 ジョゼはクロエを優しく迎え入れて、暖かい暖炉の前に座らせた。


「寒い中来てくれてありがとうね。それで、どうしたのかな?」


 にこりと向けられた笑み。

 クロエは俯きながら「えっと……」と吃るが、意を決してジョゼの顔を見た。


「お金を稼がなければならなくて、こちらで働かせては貰えませんか?」


 ジョゼは意外だという表情を浮かべる。

 そこでクロエは、こんな働いたこともないような小娘を易々と雇ってはくれないだろうということに気がつく。


「あの、私あまり魔法は使えませんが、公爵夫人になるためにたくさんの教育を受けてきました! だから、だから何かお役に立てると思うんです!」


 クロエはどうにか自分の出来ることを必死な形相でアピールする。

 それをジョゼは笑顔でうんうんと頷いた。


「働いてくれるというのなら、こんなにありがたい申し出はないね。エシャロット家のお嬢さん」


 クロエは「え」と小さく声をあげる。

 失礼な話だがクロエは自己紹介をすっかり忘れていて名乗ったことなどなかった。それなのにジョゼは彼女のことを知っていたのだ。


「大変だったろうね。僕でよければ、いつでも助けになるからね」


 どうして、こんなに知らない人間に親切になれるのだろう。どうして、助けてくれるのだろう。


 涙が溢れてきて、クロエは声を上げて泣いた。


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