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真面目ホラー

遺書の一部

作者: 七宝

※R15制限が必要な下ネタが少し出てきます。

『僕は今から死にます。生きることに疲れました。あのラジオが僕の人生の邪魔をしたんです。なのでもう、死ぬしかないんです』


 これから語る内容は、当時13歳だったDくんが書いた日記と遺書の一部である。これらには彼の気持ちと、彼が体験した奇妙な出来事が細かく記されていた。


 ある日Dくんは下校途中の道で小さなラジオを見つけた。Dくんはラジオのことはあまりよく分からなかったが、一緒にいたAくんが「それ、1万円くらいするやつだぞ。貰っておけば?」と言ったので、持ち帰ることにしたそうだ。


 落ちているものを勝手に自分のものにしてしまうのはいけないことだが、彼らは法律のことはよく分かっていなかったのだろう。


 家に帰って早速電源を入れると、問題なくラジオ番組を受信したそうだ。今どきラジオを聴いている中学生は珍しく、彼も初めてだったのでとても新鮮で、すぐにどハマりしたという。毎日聴いているうちに、好きな番組がいくつか出てきたそうだ。彼はその番組を楽しみにして毎日を過ごした。


 初めの頃は家に帰ってきてから聴いていたラジオだが、それだけでは満足出来ず、学校に持っていって休み時間も聴いたりしていたという。


 そんなある日、ポケットに忍ばせていたラジオがあろうことか授業中に流れてしまったそうなのだ。しかも、普段聴いているような番組ではなく、『あぁ〜ん♡あんっあんっあんっあ〜ん♡』というドエロい音声が大音量で流れたそうなのだ。


 先生もだいぶ焦った様子で「えー、そういうものは学校に持ってこないように、うん、うん」とラジオを持ってくるなと言うことだけを彼に伝えたそうだ。Dくんは顔から火が出る思いだったそうだ。


 しかし、ラジオの暴走はそれだけではなかった。


 それはDくんが家族3人で晩御飯を食べている時のことだった。電源のついていないはずのラジオが勝手に流れ始めたのだ。


『ちゃんと勉強しないとダメだぞ? もう3回連続10点以下だからな。ご両親はなんて言ってるんだ? 私から言おうか?』


『いえ、親には帰ってから自分で伝えますので、連絡はしなくて大丈夫です』


 大音量で担任とDくんとの会話が流れたのだ。


「これは本当なのか? いつも80点以上取ってるって言ってたじゃないか」


「Dはあなたに似て勉強は出来るはずよ。嘘なんてつかないわよね?」


 Dくんは両親に成績が良いと嘘をついていたのだ。今日のテスト返しの時の会話をラジオに勝手に録音されていたようだ。


「う、うわあああん! ごめんなさい!」


 Dくんは必死に謝ったそうだ。両親も今回だけは、と許してくれたようだ。それからDくんは塾に行くことになった。


 塾の講師は髪の薄い小太りの中年男性だったのだが、Dくんは少し彼に対して不満を持っていたようで、いつも心の中で悪口を言っていた。


 その日も、なんで遊ぶ時間を削ってまでこんなハゲの講習なんか受けなきゃいけないんだ。口も臭いし太ってるし、なんなんだこのおっさんは。などと心の中で思っていると、次の瞬間ありえないことが起きた。


『なんで遊ぶ時間を削ってまでこんなハゲの講習なんか受けなきゃいけないんだ。口も臭いし太ってるし、なんなんだこのおっさんは』


 先程自分が思っていたことがそのまま音声としてラジオから流れたのだ。講師の男性は激怒し、Dくんの両親を呼んで別室で話し合いをすることとなった。


「すみません、すみません、すみません⋯⋯」


 Dくんの両親が必死に頭を下げながら講師に謝っている。Dくんは「言っていない」とずっと主張したそうだ。


 帰り道、彼は両親にこっぴどく叱られた。こんなふうに育てた覚えはないだの、思ったとしても口に出してはいけないだの、30分ほど言われたそうだ。


 翌日、世界史の授業中にも同じ現象が起きた。


『浅野先生、おっぱいデカいよなぁ。1度でいいから好きにしてみたいな、へへ⋯⋯今度保健室に誘ってみようかな。1回くらい良いよな、どうせいろんな男とやってるんだろうし』


 この内容がDくんの声で、大音量で教室中に響いたのだ。職員会議となり、彼の両親らまた呼ばれたそうだ。Dくんは思ったことをすぐに言ってしまう、知能の発達が遅い子だと言われ、病院へ通わされることとなった。


 それから数日後、彼はラジオを捨てることにした。家にあった金槌でバラバラに粉砕し、袋に入れてゴミに出したのだ。


 それからというもの、彼の周りに異変が起こることはなくなったそうだ。Dくんはやっとラジオから解放されたのだった。


 しばらくして彼は自慰行為の存在を知った。友人のAくんから色々聞いたのだ。その時Aくんは1枚のDVDを貸したくれたそうだ。そしてその夜、Dくんは精通を迎えた。


 親が寝静まったあと、自分の部屋のテレビでAくんに借りたDVDを再生し、その後初めての射精をした。


 それからというもの、Dくんは毎日自慰行為をするようになっていた。Aくんに別のDVDを借りたり、インターネットで画像を漁ったりしたそうだ。


 2週間ほど過ぎたある日、Dくんが両親とご飯を食べていると、いきなりどこからか大音量でこんなものが流れたそうだ。


『あんっ♡あっあっあっ♡あぁーっ! イクぅ〜〜〜〜♡』


『ハァハァハァハァ、ハァ、ハァ、ハァ⋯⋯あっ⋯⋯ふぅ』


 昨日見たDVDに出ていた女性の声と、押し殺しているようなDくんの声。その時Dくんの両親は何も言わなかったそうだ。


 その時彼は頭が真っ白になっていた。絶望のどん底だった。両親が気を遣って何も言わなかったのが唯一の救いだっただろうか。逆に何も言われない方が辛いかもしれないが。


 それから月日は流れ、Dくんの心の傷も回復してきていた。Dくんは昼間から例のDVDを見ようとしている。両親が2人で買い物に出掛けていたそうなのだ。


 衣服を全て脱ぎ、リモコンの再生ボタンを押す。いつものように女優が登場し、男優との行為が始まる。その時、後ろから音が聞こえた。


『ザザー⋯⋯』


 電波の悪い時のラジオのような音だった。Dくんが振り返ると、そこにはバラバラに壊して捨てたはずのあのラジオがあった。


 驚いたDくんは裸のまま立ち上がり、ラジオから離れようとキッチンへ逃げ込んだ。遠くから見ても分かる。やはりあのラジオだ。なぜここに⋯⋯


 そんなことを思っていると、喉がとても乾いているのに気がついた。人は緊張したり焦ったりすると急激に喉が渇くのだ。Dくんは冷蔵庫を開け、オレンジジュースを取り出した。


 もう1度先程の場所に視線を向けると、そこにラジオの姿はなかった。


『Dも大人になったんだなぁ』


 後ろから父親の声がする。振り返ると、あのラジオがあった。


『そうねぇ』


 続いて母親の声も聞こえた。


『まさか俺たちが寝た後にあんなことしてたなんてなぁ』


『そういう年頃なんだろうけど、なんか気持ち悪いなぁ』


 2人がした会話を録音し、それをDくんのに聞かせているのだ。Dくんはこれを聞いて自殺を思い立ったそうだ。彼はその日のうちに遺書を書き、首を吊って亡くなった。

 同じようなことが起こったら私も死を選ぶと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 携帯の着信がラジオ番組だったり、盗聴器の音声だったりしたらこうなるわけで、ラジオという題よりはスマフォという題に近い話ですが、そういうマナーの悪さの世界を感じさせるホラーでした。 [一言]…
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