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【コミカライズ】「きみを愛することはできない」と言った旦那さまは、前世で愛を告白してきた教え子でした  作者: 葵 すみれ
本編

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36.好きになってくれるまで

「大丈夫ですか、コーデリア」


 力が抜けていくコーデリアを、クライブが抱き上げる。

 広い胸の温もりも、愛おしげに見つめてくる視線も、全てがコーデリアの心臓に悪い。


「だ……大丈夫……安心したら、力が抜けただけだから……」


 頬が熱くなるのを感じながら、コーデリアは視線をそらす。


「疲れたでしょう。ゆっくり休んでください。これから部屋まで送ります。それとも、まだ不安でしたら……俺と一緒に寝ますか?」


「ええ……っ!?」


 とんでもない提案をされ、コーデリアは絶句する。

 お飾りの妻とはいえ、夫婦なのだから何もおかしなことではないのかもしれない。いや、もうクライブはお飾りだとは思っていないだろう。

 つまり、これは本当の夫婦になろうという誘いではないだろうか。

 何と答えればよいのかわからず、コーデリアは顔が燃え上がるように熱くなるだけで、言葉が出てこない。


「冗談ですよ。あなたが俺のことを好きになってくれて、許してくれるまで、待ちます。あなたの望まないことはしませんので、ご安心ください」


 ところが、クライブはやわらかく微笑んで、誘いを引っ込める。

 コーデリアは少し拍子抜けしてしまった。わずかに残念だと思う気持ちが燻り、己の心に戸惑う。


「……ええと、どういう状況でしょうか……」


 そこに、困惑した声が響く。

 はっとしてコーデリアは、クライブの腕の中から声のした方向を見る。

 すると、そこには執事セスが動揺した面持ちで立っていた。


「なんだ、セスか。どこから現れた」


「最初からいました。むしろ突然現れたのは、旦那さまです」


「そうか。愛しい妻を取り返し、王都から転移してきた。詳しい話は後だ。俺は今すぐ、疲れ切った愛しい妻を部屋に送り届けねばならない」


「……昨日と別人のような旦那さまに困惑しておりますが、後でお聞かせ願いましょう。どうぞ行ってらっしゃいませ」


 セスは引き留めることなく、クライブは悠々と執務室を後にした。

 二人が話している間、コーデリアはクライブの腕の中で小さくなっていることしかできなかった。とにかく、恥ずかしくて仕方がない。


 クライブはコーデリアを抱えたまま、歩いて行く。

 やがてコーデリアの部屋にたどり着くと、ジェナとミミが飛び出してきた。


「奥方さま……!」


「お帰りなさいませ……!」


 涙を流しながらも、二人は晴れやかな笑みを浮かべる。

 よく見てみれば二人の目の下にはクマができているようだ。コーデリアが王家の使者に連れ去られたことで、心を痛めていたのだろう。もしかしたら、寝ないでずっと待っていたのかもしれない。


「ええ……帰ってきたわ。心配をかけてごめんなさい」


 コーデリアもうっすらと涙ぐみながら、微笑む。

 自分の家に帰ってきたのだという実感が、ふつふつとわき上がってくる。


「もう心配はいらない。積もる話もあるだろうが、コーデリアは疲れている。今日はお前たちも、もう休め。明日、ゆっくり話すといい」


 クライブがジェナとミミに向けて、穏やかにそう言う。すると、二人も頷いた。


「はい。お休みなさいませ」


「ごゆっくりお休みください」


 ジェナとミミは一礼すると、去っていく。

 クライブは部屋に入り、奥の寝室に向かう。そして、寝台の上にコーデリアを降ろした。

 今のコーデリアの姿は、薄い夜着の上に厚手のガウンを纏ったものだ。

 国王を迎えるために着せられた夜着は扇情的なもので、コーデリアは押し込められた寝室でガウンを見つけて、ずっと羽織っていた。


「クライブ……」


 何を言ってよいものかわからず、コーデリアはただクライブの名を呼ぶ。

 初夜にも似たような夜着を着せられたが、そのときは貧相な体にまったく似合っていなかった。

 だが、健康的になってきた今なら、少しは似合っているだろうか。

 そのような考えが頭に浮かんで、コーデリアは何を考えているのだろうかと、羞恥心を覚える。


「それではお休みなさい、コーデリア。今は何も考えず、ゆっくり寝てください」


 ところが、クライブはコーデリアの額にそっと口づけると、優しく微笑んで去っていった。

 取り残されたような気分になり、コーデリアは一人寝台の上で佇む。


「……いっそ、強引に奪ってくれれば……」


 無意識のうちに口からこぼれた言葉に、コーデリアははっとして口元を両手で押さえる。

 いったい自分は何を言ってしまったのか。

 あまりの恥ずかしさで、コーデリアは枕に顔を埋めて呻く。


 寝台に押し倒されることを望んでいるようではないか。

 試しに、コーデリアはその場面を想像しようとして、一瞬で打ち消した。

 刺激が強すぎる。クライブが間近に迫ってくるところを考えた時点で、思考は焼き切れてしまったかのようだ。


「あああああ……」


 顔を枕に押し付けながら、コーデリアは手足をじたばたとさせる。

 これでは駄目だと思い、今度はクライブではなく、国王で想像してみた。


「……気持ち悪い」


 一瞬で、心が冷え切った。

 冷静さを取り戻したコーデリアは、身を起こしてゆっくりと深呼吸する。

 心に残る嫌悪感を打ち消すため、普通の状態のクライブを思い出す。


「……好きになってくれるまで待つと言っていたけれど……きっと……もう、とっくに……」


 ぼそりと呟くと、コーデリアは首をゆっくりと左右に振った。

 今は何も考えずに寝てしまおう。そう思い、コーデリアは寝台に横たわると、目を閉じた。

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