33.建国王の祝福
コーデリアの剣幕に押され、国王もクライブも居心地悪そうに黙り込む。
これがお前の果たすべき義務だと外側から押し付けられたのなら、腹立たしいだろうが一定の理解はできるかもしれない。少なくとも、自分がどう感じるかの自由はある。
だが、自分がどう感じるべきかを決め付けられるのは、コーデリアの人間性を完全に無視しているといえるだろう。
「……申し訳ありませんでした。俺ごときがあなたの幸福を決めるなど、僭越でした。ただ、俺はあなたに幸福になってもらいたくて、そのための努力を惜しむつもりはないということだけは、ご理解ください……」
しゅんとうなだれながら、クライブが謝罪してくる。
その様子を見て、コーデリアの怒りが和らいでいく。
お飾りの妻だったときから、クライブは三食昼寝付きにデザートを添えて、茶と菓子の時間までくれていた。まさに幸福以外の何ものでもない。
今の言葉に嘘はないだろう。少々暴走してしまっただけだと、コーデリアはクライブのことは許すことにする。
「だが……しかし……」
国王は未だに納得しきれていないようで、ぶつぶつと呟いている。
こちらは許す必要はないと、コーデリアは冷ややかな眼差しを向けた。
「とにかく、コーデリアは俺の妻だ。返してもらう。ところで、これほど馬鹿な真似をしたのは、建国王が受けた祝福が弱まってきているからか?」
クライブが話を切り替えると、国王がはっとした表情になる。
「……何故、それを」
「とある筋から聞いてな。戦争の英雄ということで爵位を与えたが、本当は俺のことが目障りで、できれば始末してしまいたいんだろう? でも、魔鉱石のことがあるので、それができない。魔鉱石がなければ、もはや神殿も維持できないそうだな」
「くっ……」
忌々しそうに国王はクライブをねめつけるが、反論はない。
「そこで、魔力の強いコーデリアを母体にすれば、魔力の強い子が生まれるのではないかと期待したようだが……気の長い話だ。たとえ期待どおりに物事が進んだとしても、妻を奪われた俺が、おとなしく魔鉱石を提供するとでも思っていたのか」
「……しかし、このままではゆるやかに衰退していくのみだ。王族や貴族が力を持っていてこそ、国は保たれる」
国王はその考えに凝り固まっているようだ。
自らの存在意義に関わることなのだろう。
それを通そうとすれば、他がどうなっていくかに目を向ける余裕すらないらしい。
「そうか? 俺には、民を守るために力を授かったはずが、その力で民を虐げ、己を守ることにしか目が向いていないように見えるが」
「……お前ごときに何がわかる」
憎々しげな国王の声だが、クライブはかけらも怯まない。
「わからないな。それよりも、神殿からの光が弱まっているんだろう? それならば、扉を開いてしまえばよいのでは?」
「……それこそ、何もわかっておらんな。開けられれば、苦労はない」
ため息を漏らす国王がクライブを見る目には、蔑みがあった。
じっと黙って聞いているコーデリアだが、だんだん二人の話についていけなくなってきている。
神殿とはいったい何のことだろうか。
「かつて建国王が天の祝福を受け、光を授かったのだ。その場所が王宮内にある神殿で、天とを繋ぐ扉がある。扉は閉ざされているものの、そこから祝福の光が差し込んでいるのだが……それが、だんだんと弱まってきているのだ」
訝しげなコーデリアを見て、国王が説明してくれる。
「これまで、その光を使って我々は様々なことを成し遂げてきた。魔力の発現を促すものもそうだ。祝福の光によって、加護が得られていたのだ」
どうやら銀月茶も、祝福の光によって特別なものとなっていたようだ。
これまでの口ぶりから、おそらく祝福を王族や貴族で独占していたのだろう。
建国王はそのつもりだったのだろうか。王族や貴族で権力を独占するための道具としたのか、それとも徐々に裾野を広げていくはずだったのが、そうはならなかったのか。
もし尋ねられるものならば、建国王に問いかけてみたいと、コーデリアはふと思う。
「おそらく、扉はわずかに開いていて、それが年々閉ざされつつあるのだろう。それを開くことができれば、祝福も復活するはずだ。だが、扉を開こうと我々も挑戦したが、誰も開くことができなかった」
ため息と共に国王が吐き出す。
「扉を開くためには、強い魔力が必要なのだろう。だが、祝福が弱まり、我々の力も弱まりつつある。扉が閉ざされつつあるために力が弱まり、しかし扉を開くためには力が必要で……どうしようもない状態になっておる」
嘆く国王を眺めながら、むしろあるべき姿に戻ろうとしているのではないかと、コーデリアには感じられた。
これまでの話を聞いていても、国王に民を守ろうという意識はうかがえない。先ほどクライブが言ったように、己を守ること以外には目が向いていないとしか思えなかった。もはや、本末転倒だろう。
いっそ、このまま滅びたほうがよいのではないだろうか。
「その扉、俺が開いてやろうか?」
ところが、何気ない様子でクライブが衝撃的な言葉を口にした。





