表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】「きみを愛することはできない」と言った旦那さまは、前世で愛を告白してきた教え子でした  作者: 葵 すみれ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/43

30.前世発覚

「クライブ……」


 コーデリアはふらふらとクライブのもとへと歩いて行き、しがみつく。

 この場にクライブがいるはずがない。つまりこれは、コーデリアの願望が見せた幻だろう。

 それにしては温もりが感じられるような気もするが、もしかしたら無意識に魔術で作り出した幻覚なのかもしれない。


「養成所が……私のせいで潰されてしまったというの……」


「それは、どういう……」


 コーデリアの独白に、返事があった。

 最近の幻覚は問い返す機能まであるようだ。話の聞き役としての幻覚が作り出されたらしい。


「私が、魔力は後天的に得られるものだなんて言ってしまったから、余計なことに勘付いた平民がいると、始末されたの。それだけならまだしも、同じことが起こらないようにって、養成所ごと潰されて……」


「……え」


 今度の返事は、短い呻きだった。相づちなのだろうか。


「みんなに申し訳ないわ……私を生かしてくれた養成所に、恩を仇で返すなんて……どうすればいいの……? どうすれば、償えるの……?」


 答えを期待しない問いかけだった。魔術で作り出した幻覚が、簡単に返せるような内容ではないだろう。

 罪を吐き出し、懺悔をしたいだけだ。


「まさか……まさか……先生……?」


 震える声が問いかけてくる。

 答えは期待しなかったが、かなり高性能な幻覚だ。


「ええ……私は養成所の教師リアだったわ……もしかしたら、生まれ変わってリアの記憶が蘇ったのは、罪を償えということだったのかしら」


「そ……そんな……いつから、記憶が……」


 ずいぶんと迫真の声を出す幻覚だ。

 だが、問いかけに答えればよいだけで、何も考えずに気が紛れるのはありがたい。


「初夜に愛することはできないって放置された後、思い出したの」


「どうして言ってくれなかったんですか!?」


 突然、幻覚が叫んだ。

 コーデリアは驚きでびくりと身をすくませる。


「だって……前世の記憶なんて言っても頭がおかしいと思われるかなって……それに、クライブはリアに恨みを持っているようだったし……」


「恨み……?」


「そうよね、養成所のことを潰したんだから、恨みを持っていて当然よね……」


「ちょっ……何を言っているんですか」


 目の前の幻覚に、コーデリアはぐらぐらと揺すられる。

 コーデリアは何かがおかしいと違和感を抱く。

 この幻覚は、本当に幻覚なのだろうか。


「……クライブ?」


「はい」


「本当に、本物のクライブ?」


「そうです」


 返ってきた答えに、コーデリアは血の気が引いていく。

 目の前にいるのは幻覚ではなく、本物のクライブだったらしい。


「そんな……どうして、ここに……」


「あなたがさらわれたので、取り返しに来ました。さすがに王宮だけあって、結界が幾重にも張り巡らされていたので、気付かれないよう侵入するのに手間取ってしまったのです」


 どうやら、クライブはコーデリアを助けに来てくれたらしい。

 コーデリアとしてはとても喜ばしいことなのだが、それよりも現状のことが重くのしかかってくる。


「あああああ……!」


 奇声を上げながら、コーデリアはクライブから離れると、頭を抱えてうずくまる。

 クライブを幻覚だと勘違いして、秘密を暴露してしまったのだ。

 穴を掘って地中深く落下したいほど、恥ずかしい。


「先生……?」


 クライブの戸惑った声が響く。

 まともに顔を上げられず、コーデリアは縮こまる。


 しかし、考えようによっては、良かったのかもしれない。

 クライブは養成所出身で、一番の出世頭だ。いわば代表者とも言えるだろう。

 その相手に、裁きを委ねることができるのだ。

 コーデリアが教師リアの生まれ変わりだとわかった今、クライブは恨みを晴らすときだろう。

 だが、その前に一つだけ気がかりがある。


「……クライブ、一つだけお願いがあります」


「はい、何でしょう」


「向こうに、前世で飲めずに終わってしまったお酒があります。許されるのなら、それを飲んでから断罪されたいのです。だから、どうか……」


 コーデリアは立ち上がり、寝台近くのテーブルを示しながら、クライブに懇願する。

 前世の心残りの高級酒を、せめて一口だけでも飲みたかった。

 だが、クライブは何も言わずに、コーデリアに近付いてきた。指し示した酒の方向には、見向きもしない。


 許されなかったかと、コーデリアは心が沈んでいく。

 しかし、仕方が無い。それだけのことはしている。救いなど与えられなくて、当然なのかもしれない。

 コーデリアは目を閉じ、裁きを待つ。

 ところが、コーデリアはクライブに抱き締められた。どういうことなのかと、コーデリアは戸惑う。


「何を言っているかさっぱりわかりませんが、先生なんですよね。酒なんて、これからいくらでも用意してあげます。それよりも、今は俺が唯一愛し、心を捧げた先生が、俺の妻だったという奇跡を噛みしめさせてください……」


 コーデリアを抱き締めるクライブは、震えていた。

 感極まった想いが、震える体から伝わってくる。

 だが、コーデリアの頭は疑問に覆い尽くされていく。

 まるで教師リアが想い人であるかのような言い草だ。クライブの想い人は、フローレス侯爵令嬢ブリジットではなかったのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ