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【コミカライズ】「きみを愛することはできない」と言った旦那さまは、前世で愛を告白してきた教え子でした  作者: 葵 すみれ
本編

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21.覚醒

「遠路はるばるお越しになったので、数日程度は滞在してお休みになっていくとよろしいでしょう。ですが、こうも筋を通さず、身勝手な言い分を承ることはできません。疲れが取れたら、どうぞお帰りください」


 まさかコーデリアが反抗するとは、かけらも思っていなかったようだ。キャンベル伯爵とイライザは、しばし唖然としていたが、ややあって怒りの形相を浮かべた。


「なっ……何様のつもりだ……! お前はただ従っていればいいんだ!」


「頭がおかしくなってしまったのかしら? 不細工で無能のお姉さまは、私たちに尽くすことでようやく価値が得られるのよ。何を勘違いしているのかしら……!」


 二人の罵声を聞き、コーデリアは顔を上げたまま、微笑む。


「お休みになる気もないのでしたら、どうぞお引き取り下さい」


 穏やかに、しかしはっきりとコーデリアは二人を拒絶する。

 もはや二人の言葉など、意味のない鳴き声にしか思えない。まともに相手をしたところで、無駄だ。


「この……思い上がった身の程知らずが……! 魔力なしの出来損ないの分際で……少し思い知らせてやる……!」


 憎悪をたぎらせたキャンベル伯爵が、魔力を手に集め始めた。たちまち、彼の手が魔力の炎に覆われていく。

 火球の魔術だ。当たれば、火傷を負うだろう。

 前世のリアであれば、軽くあしらえる程度の力量でしかないが、今のコーデリアにとっては対抗する術はない。


「安心しろ、死ぬほどではない。もともと醜いお前が、さらに少しばかり醜くなったところで、さほど変わらないだろう。慈悲に感謝しろ」


 嘲りの笑みを浮かべながら、キャンベル伯爵は火球を放つ。

 魔術で防ぐことはできないので、よけるしかない。コーデリアは、火球の動きを見極めようとする。


「奥方さま!」


 だが、そこに突風が吹いた。

 コーデリアの後ろから、キャンベル伯爵に向かって巻き起こった風により、火球の威力が弱まっていく。

 明らかに魔力の風だ。

 吹き飛ばされそうになるコーデリアの前に、ジェナとミミが割り込んできた。すると、風の発生位置が彼女たちの前に変わる。


「ジェナ、ミミ……」


 呆然としながら、コーデリアは火球が消えていくのを見つめる。

 ジェナとミミが魔力の風により、火球を消滅させたのだ。

 彼女たちは熱心に訓練していたが、これだけのことができるようになっていたのかと、コーデリアは感慨深い。


「なっ……なんだ、今のは!? 平民のメイドごときが魔術だと!?」


 キャンベル伯爵が驚愕の叫びを上げる。

 眺めていたイライザも、唖然として立ち尽くすだけだ。


「奥方さま、大丈夫ですか!?」


「……ありがとう、大丈夫よ」


 コーデリアは微笑んで二人に答える。

 まさかキャンベル伯爵が、いちおうは娘であるコーデリアに対して、火球まで使ってくるとは思わなかった。

 見通しが甘かったと、コーデリアは悔やむ。


「……イライザ、手を貸せ。生意気な平民どもと、愚か者に思い知らせてやるのだ」


「は……はい……!」


 案の定、キャンベル伯爵は諦めなかったらしい。

 今度はイライザと二人で、より強力な炎の嵐を編み上げていく。


「お……奥方さま……」


 炎が一面の壁のように燃え上がるのを見て、ジェナとミミは震え出した。魔術を使えるような余裕はないようだ。

 戦闘経験のない二人では、仕方が無いだろう。

 先ほどの火球を防ぎ、コーデリアの前に割り込んでかばったことも、素晴らしい勇気だったのだ。それ以上を求めるのは、酷だろう。


 キャンベル伯爵はすっかり頭に血が上り、少しこらしめる程度の威力ではなくなっている。

 このままでは、三人とも黒焦げになってしまう。


「お待ちください! お詫びいたします! せめて、どうか私だけに……」


「今さら遅い! 悔やんでいろ!」


 身を投げ出して哀願しようとするコーデリアを遮り、キャンベル伯爵は魔術を放つ。

 震えて動けないジェナとミミをかばおうと、コーデリアは二人の前に立ちはだかった。

 炎の嵐がコーデリアに迫ってくる。熱気を感じながら、コーデリアは既視感を覚えていた。


「ああ……そうだった、あのときも……」


 前世のリアとしての意識が強く出てくる。

 孤児狩りで捕まり、魔力の素質を認められたリアは、手っ取り早く覚醒させるために、魔術を浴びせられたのだ。

 痛めつけられているうちに、気付いたら魔力は発動していた。

 そのときも炎の魔術だったはずだ。

 孤児時代は痛めつけられることなど、よくあることだったので、すっかり忘れていた。


「確か……」


 そのときの感覚を思い起こし、コーデリアは己の魔力に意識を向けた。

 これまで探ってもたどり着けなかった魔力の流れが、今は分かる。

 まるで蓋をされているように、うまく流れていない魔力を突き止めることができた。ここまで分かれば、後は一気に流すだけだ。


 魔力さえ発動すれば、魔術師リアとしての知識と技術が使える。

 コーデリアは集中して、滞っている魔力を全力で押し流して放つ。

 難しい術式や制御を必要としない、単純に大きな魔力を叩き付けて相手の魔術を打ち消す方法だ。

 迫り来る炎の嵐は、一瞬にして消え去った。


「なっ……」


 キャンベル伯爵とイライザが、愕然とした表情で固まる。

 魔力なしのコーデリアが魔術を使ったのだ。それも、一般的な貴族の魔力をはるかに超えているだろう。

 前世のリアよりも、魔力は明らかに高い。コーデリアは、己がかなりの才能を秘めているようだと、どこか他人事のように思う。


「あ……」


 ところが、コーデリアは全身から力が抜けていく。

 滞った魔力を流すのに、かなりの力を使ってしまった。しかも、その流れが完全に止まらず、どんどん魔力が失われていくのだ。

 ここで倒れてしまっては、キャンベル伯爵とイライザが次に何をしてくるか、わかったものではない。


 どうにか踏ん張ろうとするコーデリアだが、流れ行く魔力を止められず、とうとう立っていられなくなってしまう。

 コーデリアは、吸い込まれるように地面に向かっていく。

 目を閉じるコーデリアだが、いつまで経っても衝撃はやってこなかった。代わりに浮揚感に包まれる。

 しかも、魔力の放出が止まったようだ。何があったのかと、コーデリアはおそるおそる目を開けてみる。


「大丈夫か」


 すると、心配そうなクライブの顔が目の前にあった。

 驚愕に包まれながら、コーデリアの心には安堵が広がっていく。もう大丈夫だと、力が抜けていくようだった。

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