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【コミカライズ】「きみを愛することはできない」と言った旦那さまは、前世で愛を告白してきた教え子でした  作者: 葵 すみれ
本編

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16.お菓子作り

「あの……奥方さま、毎日お茶を飲んでお散歩をするだけですが、これで実験になっているのでしょうか……?」


 銀月茶を飲み、庭園を散歩するという実験を数日繰り返したところで、ジェナがおそるおそる問いかけてきた。


「ええ、しばらくこれを続けるだけよ」


 コーデリアが答えると、ジェナはまだ信じ切れないような様子ではあったが、何も言うことはなかった。

 どうやら彼女は非道な実験を覚悟していたようで、それがなかったことに拍子抜けしているらしい。


 かつてリアが教師として生徒たちを見ながら、共通点に気付いたことがあった。

 平民として生まれながら魔術の才能を持つ者はほぼ孤児で、しかもほとんどが貴族の残飯を漁った経験があるのだ。

 そのことから、魔力とは選ばれた血筋の者が持つのではなく、何かによって引き出されるのではないかと、リアは考えた。

 そして、おそらくそれは貴族のみが食べるものだろう。


 たどり着いたのが、銀月茶だ。

 前世のリアは美味しいと感じたが、今のコーデリアは苦味しかわからない。

 魔力の有無によって、味の感じ方が変わるのだと考えられる。

 そうして魔力によって左右されるのなら、魔力に働きかける要素があるのではないかというのが、コーデリアの仮説だ。


「ただ……お茶だけで摂取していると、時間がかかりそうなのよね。もっと多く摂取するには……そうだわ、茶葉をお菓子に入れられないかしら」


 貴族の子どもは、銀月茶にジャムや砂糖といった甘味を入れて飲む。大人になると苦味を感じなくなると言われている。

 それは味覚が大人になるからだとされているが、コーデリアは魔力が発現するからだと考えている。

 ただ、それはつまり、その味覚に達するまでに数年を要するということだ。


 孤児だったリアは、銀月茶など飲んだことはない。

 だが、貴族の残飯には苦いものや酸っぱいものなど、様々なものがあった。おそらく、その中には銀月茶の茶殻もあったのだろう。

 毎日摂取していたわけでもなく魔力が発現したので、淹れた茶よりも茶葉や茶殻のほうが効果は高そうだ。


「厨房に行くのは構わないと言っていたわね……料理長に相談してみましょう」


 屋敷や敷地内は、どこでも好きに行ってよいと言われている。封鎖されている場所には入るなとあったが、それは当然のことだ。破る気はない。

 コーデリアは早速、ジェナとミミを連れて厨房に向かう。


「デニス料理長、ちょっとよいかしら」


 厨房は夕食の準備前で、まだ落ち着いているようだった。料理長デニスの姿を見つけ、コーデリアは声をかける。


「はい、奥方さま。何かありましたか」


「銀月茶の茶葉を使ったお菓子を作ることって、できないかしら」


「茶葉を使ったお菓子ですか? 茶葉を砕いてクッキーやケーキに練り込むなど、色々と作れると思います」


 あっさりとデニスは答えた。

 どうやらそう難しくはなさそうだと、コーデリアはほっとする。


「もしよろしければ、奥方さまがお作りになってみますか?」


「まあ、いいの?」


 思いがけない申し出に、コーデリアは驚きながら問い返す。

 コーデリアは菓子どころか料理も作ったことがない。前世のリアも、捕まえた獣を捌いて焼いたり煮たりすることはあったが、菓子などは無縁だった。

 自分で菓子を作れるのかと思うと、コーデリアはうきうきしてくる。


「では、茶葉を使ったクッキーを作ってみましょう」


 デニスは微笑ましそうに頷くと、てきぱきと準備を始めた。

 すり鉢で茶葉をすり潰し、他の材料も分量を確認する。あっという間に、コーデリアの前に材料がそろえられた。


「これらを入れて、ざっくりと混ぜてください」


「……こう?」


「はい、お上手ですよ。次は……」


 デニスの指示に従い、コーデリアは材料を混ぜていく。

 生地を整えたり、オーブンの火加減を調整したりといった作業は、デニスが行った。どうやらオーブンは魔道具らしい。

 続いてコーデリアが行ったのは、型抜きで生地を花型や星型などに、くり抜いていくことだ。


「楽しいわね、これ」


 色々な形の型抜きがあり、目の前に可愛らしいクッキーの原型が並んでいくのが面白い。余った生地はデニスが整えて、またコーデリアが型を抜いていった。


「できましたね。オーブンも温まったので、焼きましょう。後は、しばらく待てば完成です」


 焼き上がりまではさほどかからないようなので、コーデリアは待つことにした。

 面倒な作業や難しいところは全部デニスに任せてしまったが、それでもコーデリアが初めて作った菓子だ。

 わくわくしながら、コーデリアは出来上がりを待つ。


「奥方さま、もしよろしければ旦那さまにもクッキーを持って行かれてはいかがでしょうか」


「旦那さまに? そうね、休憩時間の差し入れに良いわね」


 デニスから提案され、コーデリアは頷く。

 素晴らしい好待遇を与えてくれるクライブに、感謝の印として差し入れをするのは良さそうだ。


「旦那さま、きっとお喜びになりますね」


 ミミがにこにこしながら、声をかけてくる。


「そうだと嬉しいわ」


 こうして話しているうちに、クッキーが焼き上がった。

 デニスがオーブンから取り出したクッキーはこんがりと焼き上がっていて、甘い香りがほのかに漂う。

 とても美味しそうな出来上がりだ。


「まあ、美味しそう……!」


 早速、味見をしてみることにする。

 前世も含めて初めて作った菓子だ。コーデリアは胸を高鳴らせながら、クッキーを一枚手に取った。

 デニス、ジェナ、ミミも一枚手に取り、四人はクッキーをかじる。


「……苦い」


 そして、四人は同時に眉根を寄せながら、呟きを漏らした。

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