公爵庶子リリアの心配
夕食の席、相変わらずソフィアお姉様は食卓には居ない。一体こんな時間まで何をしているのだろうか?
まぁ良いか。
公爵家の料理人が腕を振るった豪華な夕食を食べ終わった後、お父様に声を掛けた。
「お父様、少しお聞きしたい事が有るのですが良いでしょうか?」
「ん? 何だいリリア? 何でも聞きなさい」
「では……」
私は課題として出された領内の鉱山の経営に関する質問をお父様に投げかけた。しかし……。
「ん? 何だそれは? そんなどうでも良い事など気にしなくて良いよ」
「え?」
いやいやいや、そんな訳ないだろう?
鉱山からの収益は税収を除いた公爵家の収入の40%を占めている大事業のはずだ。
それを如何でもいい事なんて言えるとは思えない。
お父様は何を考えているのだろうか?
「それよりも明日はリリアの一緒に観劇に行かないかい?」
「いえ、明日は教養の先生が来られるので……」
「また勉強かい? 可愛いリリアの時間を無駄にするなんて、私が家庭教師を全てクビにしておこう」
「ええ⁉︎ い、いえ、その様な事は不要です!」
「しかし、リリアは可愛いのだから勉強などする必要なんて無いだろう?」
「私は公爵家を継ぐ為に勉強を……」
「はっはっは、そんな物は必要ないよ。リリアは何も心配しなくて良いんだよ」
心配するでしょう。
私は元々平民だったのだから尚更勉強しないといけないはずだ。
宿の女将も言っていた。学を得られるって事は贅沢な事なのだと。
とにかくその場を誤魔化して家庭教師を外されるのを防いだ私は、課題を終わらせる為に書庫へ行く為に席を立ったが、お母様に呼び止められる。
「リリア」
「はい」
お母様が何かを差し出したので、反射的に受け取った。
「コレ……」
大きなエメラルドのブローチだった。
すごく見覚えがある。
「ソフィアさんに貴女に譲る様に言ったのよ」
「おお、そうか。宝石もあんな女よりリリアが持っていた方が嬉しいだろうな」
ドン引きである。
宝石ならお父様が買ったくれた物が沢山有る。
それなのにわざわざお姉様から奪ってまで私に渡すか?普通。
「い、いえ、コレはお姉様の物ですし……」
だいたいこのデザインは私には似合わない。
お下がりで貰っても嬉しくないのだ。
「そうだ! いっその事、殿下との婚約者もリリアに変えたら如何かしら?」
「良い考えだな!」
何言ってんの?
両親が突然意味の分からない事を言い出した。
そのまま盛り上がろうとしている2人をなんとか諫めて逃げる様にその場を後にする。
王族の婚約者をそんなに簡単に変える何て出来るのだろうか?
そもそも王族の婚約者なんて絶対に面倒臭いし危ない。
ドロドロとした権力争いに巻き込まれると相場が決まっている。
私は婿を迎えて公爵家で安泰に暮らすのが良い。
全く、余計な事をしないで欲しい。