公爵庶子リリアの発見
ブルーム商会に到着した私は、奥の応接室に通されて、商会長のブレンさんと向かい合って座っていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
ブレンさんの娘だと言う私と同い年くらいのミリアがお茶を出してくれたのでお礼を言う。
このブレンさんとは、下町の宿の居た時に何度か話した事がある。
突然貴族になって訪ねてきた私に戸惑っている様だ。
「お久しぶりね。ブレンさん」
「ああ、嬢ちゃ……あ、いや、お久しぶりです。リリア様」
口調を変えたブレンさん。
私も口調を元に戻して良いとは言わない。
昔はともかく、今は身分の差が大きいので、こうして距離を取るのがお互いの為だ。
「本日は幾つかの文具を購入させていただきたいのです。特に多く欲しいのは石筆です」
石筆はチョークに比べると使いにくいが、孤児達は書き心地なんて気にしないだろう。
コスト優先だ。石筆は消耗品なのでなるべく安く手に入れたい。
私が伝えた購入予定の物や目的、購入の目的を購入希望の金額を見たブレンさんは少々顔を顰めた。
「これは少し安すぎないでしょうか? 相場よりだいぶ低い。いくら貴族様だからってこんな値段では納品出来ないぞ」
少し苛立ちを見せながらブレンさんが言う。
「そうですか。では今回は別の方にお願いする事にします」
「待って下さい!」
私が席を立とうとしたのを止めたのは給仕の後、部屋の端で控えていたミリアだった。
「お父さん! このお話は受けるべきだよ!」
「バカを言うな! いくら貴族からの仕事だからって利益の出ない事は出来ない」
「そうじゃなくて……」
「黙りなさい! 女が商売の事に口を出すんじゃない!」
私は手を上げてブレンさんの言葉を遮る。
「少し良いかしら?」
「え、は、はい」
「ミリアは商人では無いのよね?」
「ええ、これは結婚までの間手伝いをさせているだけです。商売に口を出し申し訳ありません」
「ええ、良いのよ」
彼女は気づいている。私がヒントを出した利益に。
これに気づく人を探してこれからの仕事を依頼するつもりだったのだけど、こんなに早く見つかるとはラッキーだった。
今後を考えると使える商人とのつながりは確保しておきたい。
しかし、彼女は商人では無い。
ではどうするか。
簡単だ。商人では無いのなら商人にすれば良い。
他人を巻き込むのは気が引けるが、私が生き残る為には仕方ない。
なるべく利益をもたらすので許してほしい。
「ねぇ、ミリア。貴女、商会を作る気は無い?」




