公爵庶子リリアの閃き
私の護衛に付けられたのは寡黙な巨漢だった。
ロデリックと言う男は見るからに威圧的で強そうだが、話してみると気さくで礼儀正しい好中年だった。
彼はメイド頭のロクサーヌの旦那さんで2人の子供を溺愛しているらしい。
そのロデリックとサラを連れて私が向かっているのは王都の外れにある孤児院だ。
リスクとリターンを勘案した結果、ソフィアお姉様から受け取った予算の使い道はやはり慈善活動に決めた。
王都の孤児院を調べ、大きな貴族や商人の援助が無い孤児院をいくつかピックアップして支援する事にした。
しかし、ただお金を渡して終わりと言う訳には行かない。
何かソフィアお姉様に認められる様な事を考えないと。
教会に併設された孤児院に着いた私は、管理しているシスターと面会した。
「リリア様。この度は当院へご支援頂きありがとうございます」
「頭を上げてください、シスター。子供達は国の未来を担う存在なのですから、手を差し伸べるのは貴族として当然の事ですわ」
私がそう言って微笑み掛けると、シスターは更に恐縮して頭を下げた。
うんうん。本当に頭を下げる必要は無いのよ。ただ私の名声を広げてくれればそれで良いの。具体的にはソフィアお姉様の耳に入るくらい。
「私はこう言う活動は初めてなのですが、何かお困りの事は有りませんか?」
「い、いえ! こうして御寄付を頂いただけで十分で御座います。お陰様で子供達にお腹一杯食べさせてあげる事が出来ます」
「そうですか。ではもし困った事が有ればご連絡下さい」
「ありがとう御座います。リリア様」
それからシスターに孤児達の事や教会の活動などを教えて貰う。
当然、下町育ちの私は知っている事が殆どだったが、サラやロデリックは朝から晩まで働く孤児達の生活に驚いた様だった。
ある程度話を聞き、今日の所はこの辺でお暇する事にする。
「では私はコレで」
「はい。リリア様に神の御加護を」
シスターに挨拶して孤児院を出る。
あまり収穫は無かったな。
こんな支援ではただソフィアお姉様のお金を横に流しただけだ。
ダメでは無いが、凄く良い訳では無い。
孤児院の庭で楽しそうに騒いでいる孤児達に視線を向ける。
子供達は年嵩のシスターに群がる様に集まっている。何をしているのかと見れば本を読んで貰っている様だ。
なる程。孤児達は自分で本を読む事が出来ないから、ああやって読んで貰っているのだろう。
仕事の合間の僅かな楽しみと言う訳だ。
この国の平民の識字率は高くない。
私も、公爵家で教わるまでは自分の名前と簡単な言葉しか読めなかったし、計算だって50より多いと出来なかった。公爵家の優秀な家庭教師の指導を受けたお陰で現在では文字も計算もなかなかの物だ。
今の私なら平民でもそれなりに良い仕事に…………そうだ! これだ!
孤児達に勉強を教えるんだ。文字が読めて計算が出来れば孤児院を出た後に良い仕事に就けるかも知れない。
ソフィアお姉様から貰った予算で子供達が勉強出来る様にしよう!
そう思いついた私は、サラとロデリックに帰りに文具を取り扱う商会に寄って貰う様に頼むのだった。




