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第95話:湖に着いた

評価ありがとうございます。励みになります。

06/13:修正しました。リベートに関する記述を削除しました。

 俺は湖の岸辺の手前で立ち止まった。というか、足が進まなくなった。

「でかいな」

 いつの間にか横に来たヒデが話しかけてきた。

「ああ、でかいな」

 俺も同意した。もちろん、湖がでかいという話だ。


「行くか?」

 ヒデが珍しい質問をした。いつもならば、何も言わず駆け出しただろうに。

「いや、やめとこう」

 俺は河童を見ながらこたえた。河童もまた無言で湖を見つめていた。


 ヒデはしばらく考え込んだが頷いた。

「そうしよう。一応俺たちは湖まで来たと言えるよな」

 俺も頷いた。

「浜辺まで来たんだ。ここは湖だ。ミッションクリアと考えよう」

 後続の連中も異論はなかった。唯一不満そうだったのは三平だった。すまんな。今日はここまでにしてくれ。


 俺たちは河童を連れて来た道をそのまままっすぐ戻った。他の班は途中寄り道をして討伐しながら帰ったみたい。

 伯爵は河童を見ると目を丸くして驚いた。

「そ、それはリザードマンの亜種ですか?それもとまさか亀人?」


 冬梅が静かに答えた。

「違います。河童です。由緒正しい日本の妖怪です」

 冬梅は河童について詳しく説明した。河童は誇らしげな顔をしたが、冬梅から貰ったズッキーニを咥えたままではカッコつかないぞ。


 俺は鯉と巨大ザリガニ以外の獲物をマジックボックスに入れて伯爵に預けた。俺たちに代わって後で冒険者ギルドに持ち込み、買い取ってもらうそうだ。

 他の班も預けていたので中身を聞くと、蛇と蛙とザリガニ、そしてスライムを退治した後に残る水の魔石だった。野生のスライムの魔石は養殖物より一回り大きく、高値で売れるらしい。


 当然利根川は薬草採取に余念が無かったそうだが、ちゃっかり蛇と蛙もゲットしたそうだ。いよいよもって魔女っぽくなってきたな。お願いだから、怪しげな薬を作るのは絶対にやめて欲しい。ついでに、佐藤も盗賊シーフの本領を発揮して、蛇探知機として活躍したそうだ。


 ちょっと遅くなったが、木陰にシートを引いてお昼ご飯にした。今日はオーク肉のパテをメインに野菜とチーズがバランスよく入ったハンバーガーと熱々の紅茶だ。副菜としてポテトフライがたっぷりついている。

 デザートはキウイのジェラートだった。甘さと酸味のバランスが良くて、後口が爽やかだった。


 食後は紅茶を飲みながら各班のリーダーと湖の攻略について打ち合わせた。決まったのは、パーティ別では撃破される可能性があるので、まずは各班から選別したメンバーでアタックすること、ただそれだけ。ついでに俺は平井に頼みごとをした。


「明日は例の鉄の斧(戦神の斧)を持ってきてくれないか」

「いいわよ。ただし、あんたが運んでくれる?」

 重くはないが、かさばるので持ち歩きたくないのだそうだ。俺はもちろん了解した。伯爵が興味深そうな顔で俺たちを見ていた。


 馬車が出るまでまだ時間があるというので、俺は生活向上委員会のメンバーを集めて伯爵の提案を説明した。真っ先に発言したのは志摩だった。


「俺は良いと思う。設立資金の負担も減るし、天下り先を確保できるならば軍も本気になるだろう」

 工藤が質問した。

「俺たちはどうかかわるんだ。設立だけで、後はロイヤリティを貰うだけ?」

 志摩は首を振った。


「ルールの普及やカップ戦の開催もあるから、軌道に乗るまでは顧問として誰かが無報酬で参加するのはどうかな?」

 みな拍手で賛成してくれたので、一件落着だ。顧問は誰にするって?それはもちろん工藤だろ。


 俺たちは道路を挟んだ北側に行ってみた。先週まで行っていた草原とほぼ同じだった。道路を一本挟んだだけなのに、ここまで違うもんだろうか?そして驚いたことに、ロボがいた。


 浅野が大きな声を上げた。

「ロボ~」

 途端に灰色の狼がダッシュして浅野に飛びついて甘えた。浅野が「何かない?」てな顔をしたので、ブラックスネークの胴体を取りだしてロボの前に置いた。ロボは数回匂いを嗅いでからガツガツ食べ始めた。問題なかったみたい。


 予定より早いが、今日の課題が終了したという事で帰ることになった。馬車の中で洋子が聞いてきた。

「どうして水辺までいかなかったの?」

 俺とヒデが顔を見合わせていると、冬梅が説明してくれた。


「あそこの浜辺は結界じゃないけど、誰かの縄張りになっているみたいだったんだ」

「え?そうなの?」

 洋子は驚いた顔で叫んだ。

「多分、あそこから一歩でも先に踏み込んでいたら、攻撃された可能性があったと思う」


 冬梅の説明に洋子は絶句したが、初音や俺たちが黙って頷いているのを見て納得したようだ。三平がニコニコ笑いながら聞いた。

「でも明日は行くんだよね?」

 俺とヒデは同時に応えた。

「もちろん!」


 宿舎に着いたのは八時(日本時間の16時)だった。まずはラウンジのカウンターに行って明日以降必要となる物の手配を頼んだ。明日の朝までに間に合えばよいのだが。晩御飯までのんびりしようと思ったらカウンターから声がかかった。

「商業ギルド様がお見えです」


 昨日プレゼンが終わったばかりなのにどうしたのだろうか?とりあえず会議室を一つ押さえて、たまたまラウンジにいた羽河と一緒に待っていると、ジョージさんがギルドの女性もの担当の三人を連れて入ってきた。なぜか分からないがみんな目がキラキラ、いやギラギラしている。こ、怖い。


 俺は回れ右したくなる気持ちを抑えて務めて冷静な声で尋ねた。

「いかがなさいましたか?」

 女の子三人の右端、小柄でくすんだ灰色のショートカットの子がこたえた。

「リタと申します。シャンプーとリンスです。あれは今すぐ商品化すべきです」


 左端の軽くウェーブのかかった金髪の子が続いた。

「シュアーと申します。昨日使って驚愕しました。全ての女性が欲しがるでしょう」

 真ん中の背が高い栗色のストレートの髪の子も続いた。

「パーナナと申します。完全に同意します。王女様の仰せの通りでした」

 後ろでジョージさんがうんうんと頷いた。

「妻と娘が狂喜しておりました。自分でも使いましたが、あれは良いものだと思います」


 思っていたより相当高評価のようだった。だとしたら今すぐ交渉すべきだな。

「分かりました。売上の一割と引き換えにレシピをお譲りしましょう」

 四人は歓声を上げて喜んだ。ジョージさんが代表してこたえた。

「ありがとうございます。早速、契約書を用意します」

 俺は追加の注文を出した。


「出来れば、契約書は今後許諾する製品が増える時に、別紙の追加で対応できるような作りにしてください」

 ジョージさんは驚いたように目を見開いた。

「ありがとうございます。末長いお付き合いになるよう努力致します」


 ここでリタさんが口を挟んだ。

「シャンプー絡みでお願いしたいことがございます。出来ましたら、ドライヤーの見本を貸していただけませんでしょうか?」


 江宮の負担が増えることになるが仕方ないかな。俺は頷きながらこたえた。

「分かりました。用意出来次第、連絡します」

 リタさんは花のような笑顔になった。

「ありがとうございます。職人には現物を見せるのが一番早いんです。助かります」

 四人は挨拶もそこそこに風のように去っていった。


 ドアが閉まったので、羽河に頼みごとをした。

「連絡箱を使って木工ギルドに簡易トイレを二台追加で発注してくれないか?」

「どうして?」

「遠征に行って、予備の必要性を痛感したんだ。どうだろうか?」

 羽河は笑顔で頷いてくれた。


 ラウンジに戻ると江宮がしみじみ紅茶を飲んでいたので、ドライヤーの見本作りを頼んだ。一回作ったら、再製造は簡単にできるので、特に問題はないみたい。

 次には食堂に行って平野に今日のお土産を渡した。まず、ジャイアントロブスターを見せると目を丸くして驚いていた。


「これは何?ロブスター?」

「いや、でっかいザリガニだ」

「本当?大きいね。びっくりだよ」

 続いて鯉を見せた。

「立派な鯉だね。何にしようかな?」


 サリガニが十匹、鯉が二十九匹あることを伝えると、「保管場所が無い」と悩みながらも受け取ってくれた。


 今日の晩御飯は、香草と一緒に焼き上げたポークソテーだった。厚さ二センチ位の分厚いロース肉を弱火でじっくり焼いたそうだ。少し硬いけど、臭みの無い上質の肉で、とにかく脂がうまかった。多分、この前草原で狩った野生豚の肉だと思う。付け合わせのポテトサラダとの相性もバッチリ。


 デザートはイチゴ・オレンジ・林檎・ブルーベリー・桃・キウイなど細かくカットされたフルーツがたくさん入ったヨーグルトだった。はちみつがたっぷりかかっている。口の中の脂をきれいさっぱりしてくれた。今日のお供えはこれにしよう。

湖にはいったい何がいるのでしょうか?

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