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第93話:湖沼地帯へ出発進行

 平野からクラス全員と護衛の方のお弁当&おやつを預かって外に出ると、道には既に馬車が六台停まっていた。六台の内訳は、伯爵と教会で各一台、班ごとに各一台となる。護衛の騎士達の前で伯爵が満面の笑顔で待っていた。

「おはようございます。今日からいよいよ遠征ですな。皆様の武器・防具は馬車の中にいれてありますぞ」

「おはようございます。準備万端ですね。でも、大丈夫でしょうか?」


 伯爵は俺の心配を大声で笑い飛ばすと肩を軽く叩いて、小声で話しかけた。

「いろいろ相談がございましてな、ひとまず私の馬車にご乗車頂けませんか?」

 俺もギルドのことを相談しなければと考えていたので、丁度良かった。

「いいですよ。ちょっと皆に断ってきます」


 まずはヒデをはじめとする一班のメンバーの所に行って、伯爵と馬車で打ち合わせることを告げてから洋子におやつ(マドレーヌ)とジュースを預けた。

 なんとなく回りの注目を浴びたような気がするので、平井と工藤と羽河にも同じものを預けた。ついでに教会の馬車にもお裾分けした。イリアさんが笑顔で受け取ってくれた。うーん、気が弱い俺。


 参加者が全員揃ったので出発となった。俺たちの旅の始まりだ。なんちゃって。今日のルートは王宮の北門から環状線に入り、西の大通りから西門を出てそのまま西にまっすぐ進むそうだ。目的地は王都から馬車で半時間(三刻)ほどの所にあるらしい。馬車が動き出すとまずは、伯爵に頼まれていた見本を渡した。


「ブーメランを三種類とボーラを二種類です」

「思ったより重いですな。はたしてこれで空を飛ぶのでしょうか?」

 伯爵はブーメランを持って首を傾げた。

「大丈夫です。開けた所で存分にお試しください」

 ついでにボーラの投げ方を伝授した。続いて囲碁&将棋のギルド化とカップ戦について相談した。


「驚ぎです。言い方は悪いのですが、たかが遊戯と考えておりました。ギルド化とはいよいよ大事になってきましたな」

 伯爵は結構深刻に捉えているみたいなので、控えめに聞いてみる。

「設立資金は生活向上委員会が負担しようと思うのですが、軍として投資する気はないですか?」

 伯爵は腕を組んで考え始めた。顔が百面相みたいになっている。数秒の沈黙の後、伯爵は決然とした声を上げた。


「分かりました。猿を食らわば犬までです。私はこの馬に乗りますぞ。設立資金の三割は軍がお出しします。その代わり・・・」

猿を食らわば犬までって、どういう意味だよ?とりあえず俺は確認した。

「もちろん利益の三割は配当しますが、何か要望がありますか?」

「二つお願いがございます。まず、お飾りで結構ですので、ギルド長に我らが推薦する人間を据えてくだされ。ギルドの定書さだめがきを作る際に、その旨明記して構いません」

「誰を推薦されるおつもりですか?」

「退職した将軍や参謀長などを想定しております」


 うーん、天下りみたいなものか。確かに人は次の就職先が決まってないとなかなかやめないよな。人事って難しいな。まあ実権が無ければ問題ないかな。

「分かりました。もう一つはなんですか?」

「カップ戦のタイトルに王族の名を冠するとお聞きしましたが、歴史的に有名な将軍や英傑の名を冠するタイトルを検討して頂けませんでしょうか?」


 アーサー王杯とかそんな感じ?いや、日本人だったら徳川家康杯とか?古すぎかな?とりあえずイベントを利用して軍の存在感を高めることを狙っているのね。天下り先の確保といい、伯爵って結構頭が切れるかもかーも。

「分かりました。まずは持ち帰って検討させて頂きますが、少なくても初回の注文数を今の十倍にして頂くことが必要かと」


 なんか俺、商談に来たサラリーマンみたい。

「無論承知の上です」

 伯爵は即座に答えた。覚悟していたみたい。とりあえず、軍のやる気を確認出来て良かった。それにしても碁盤&碁石、将棋盤&駒、それぞれ初回出荷が千個か。仮に定価が銀貨一枚とすると、合計で金貨二百枚、仮に七掛けで降ろしても金貨百四十枚の売り上げだ。原価がいくらかかるか分からないが、出来たばかりのギルドの売り上げとしては悪くないんじゃない?


ついでに気になっていることを質問した。

「今日、先生から聞いたんですが、そうまとうって何ですか?」

伯爵は一瞬驚いたような顔をすると申し訳なさそうに説明した。

「厄介な魔物だそうです。水辺に出没する魔物ですが、希少な存在でしてめったに遭遇することはございません。かくゆう私も噂に聞くだけで、詳しいことは知らんのです」

 俺はあきらめた。とりあえず珍しい魔物であることだけは分かった。


「伯爵のお話はなんでしょうか?」

「今の打ち合わせで解決しましたぞ。実は上の者から囲碁&将棋へのかかわり方が中途半端だと叱責を受けましてな、どうしたものか相談しようと考えておったのです」

 伯爵が笑顔でこたえたので、一件落着となった。伯爵は設立資金の拠出について、今から早速上申書を書くそうだ。書類仕事は苦手なので、早めに手を付けないと間に合わないのだと暗い顔で呟いていた。丁度馬車が西門を出た所だったので、一度馬を止めてもらって馬車を降りた。俺は心の中で密かに伯爵にエールを送った。


「どうだった?」

 一班の馬車に戻ると真っ先に声をかけてくれたのは三平だった。そう、俺が湖沼地帯出撃に当たってリクルートしたのは三平だった。川や湖など、水のある所ではきっと戦力になるはずだと考えたのだが、とんでもないことを言い出した。

「伯爵はたにやんみたいなのが好みなの?」


 洋子が心配そうな顔で俺を見た。

「タカ、私信じているからね」

 初音が意外そうな顔で俺を見た。

「タカは両刀だったの?ヒデに手を出しちゃだめよ」

 俺は思わず怒鳴った。

「お前ら何を考えているんだ。ブーメランとボーラの見本を渡して、囲碁と将棋のギルド化の問題を打ち合わせただけだ!」


 なぜかみんながっかりしたような顔をした。いったい何を期待しているんだ?俺の声で目を覚ましたヒデが背伸びしながら聞いてきた。

「今どのへんだ?」

「西門を出た所だ。もう少ししたら、いったん休憩するって」

 馬車は杉並木をのんびり進む。せっかくヒデが起きたので、伯爵にブーメランの投げ方を指導するよう頼んだ。ついでに、洋子にもボーラの投げ方の指導を頼んだ。


 しばらく進むと大きな杉の木の下で、馬車が止まった。機械と異なり馬は生き物なので馬車で移動するときは定期的に休憩が必要なのだ。

 伯爵は早速ブーメランとボーラを持って馬車から降りている。一番小さいブーメランを持った伯爵にヒデが話しかけた。後ろには洋子が控えている。大丈夫そうだな。伯爵は見かけによらず運動神経が良いみたいで、ヒデに教わってから数回投げただけでブーメランのコツをつかんだようだった。流石は元冒険者!


 イリアさんが寄ってきて俺に話しかけた。

「あれは遊具ですか?」

「いえ、あれもれっきとした武器です」

「だとしたら私も確認せねばなりません」


 草原で披露した時はよく見ていなかったらしい。イリアさんは伯爵の所に行くと伯爵が持っていたブーメランを無理やり取り上げて投げ始めた。三個あるのだから他のを使えば良いと思うのだが・・・。その後も伯爵が別のを手にする度に取り上げようとするのだ。

 ひょっとすると、イリアさんっていじめっ子?ただ、一つ言えることは、イリアさんには投擲とうてきの才能は無かった。何回投げても明後日の方向に飛んでいく。ついにあきらめたようで自分の馬車に戻っていった。


 ブーメランに慣れた伯爵は続いてボーラの投げ方を洋子に教わった。初めてなのに俺よりうまいや。数回投げると、にこにこ笑いながら俺の所に来た。

「やはりこのブーメランは素晴らしいですな。投擲型の武器は投げた後の回収が大変なのですが、外れたら戻ってくる所が画期的です。繰り返し攻撃できるではありませんか。洞窟や森の中では使えませんが、草原の魔物や空を飛ぶ魔物にはかなり有効ですぞ」

 地対地あるいは地対空ミサイルみたいなものだろうか?


「ボーラはどうですか?」

「こっちは直接攻撃するのではなく、攻撃する前の仕掛けとして使えますな。地味ですが有効だと思いますぞ。鍛冶ギルドと打ち合わせますので、両方ともお預かりしてよろしいですか?」


 俺に断る理由は無い。丁度休憩が終わったので、トイレを回収すると、動き始めた馬車に一人飛び乗った(ちあきなおみのヒット曲みたい)。

 杉並木を走っているうちに、王都の防壁も見えなくなった。休憩からニ刻程過ぎた所で幅五十メートル位の大きな川を渡った。ふいに頭の中を文字が横切った。

「短小包茎 昼川を渡る」

 残念ながら原本は何か忘れてしまったが、とりあえずごめんなさいと呟いた。

谷山君が思い浮かべた大元の詩句は「鞭声粛粛べんせいしゅくしゅく夜河を渡る」です。それを筒井康隆先生が「短小包茎・・・・・」とパロディにしています。

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