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第89話:晩餐会1

 食堂に行くと既に今日のメニューの匂いで溢れていた。少しばかり煙い。平野が両手を組んで待っていた。

「たにやん、遅いよ」

「すまん、すまん。やっぱり王女様が参加することになった」

「分かった。もう準備してある。でも、今日のメニューを王女様が気に入るかどうか分からないよ」


 確かにテーブルは奥側に十二人分の席が用意されている。窓側が王女様、左右に先生とユニックさんかな?護衛の騎士が追加されたみたいで、既に四隅に一人づつ彫像のように立っていた。


「ありがとう。それと先日渡した赤ワイン、同じものを熟成させていたんだけど、二十年物ができたぞ」

 プレゼンが終わってからアイテムボックスを確認したら、熟成二十年で設定していた赤ワインのフォルダが完了していたのだ。二本あった樽の一本を出した。平野は大喜びでグラスを用意すると早速試飲したのだが・・・。変な顔をしている。失敗したかな?


「どうだった?」

「谷やんも飲んでみて」

 平野が渡してくれたグラスの残りを飲む。これって間接キス?なんて言っている暇はない。一口飲んで俺は呆然とした。なんだこれは。はっきり言って、うますぎる。


「今まで飲んだ赤ワインで一番おいしいかもしれない・・・」

 平野が静かに呟いた。俺も同じ意見だが、お店でそれなりのワインを味わってきた平野の言葉には重みがあった。


「専用のボトルを作った方が良いかもな」

 俺の言葉に平野は頷いた。今度雑貨ギルドが来たら頼んでみよう。ラベルのデザインは浅野に頼めばいいや。


「今日出してもいいかな?」

「もちろん。みんなもびっくりすると思うぞ」

 今日のメニューにはぴったりだし、プレゼンがうまくいったことの祝杯に相応しい出来だと思う。平野が笑顔で頷いたら、丁度オープンの時間になった。


 一番奥の細長いテーブルに適当に座っていたら、入ってきた羽河に席の移動を指示された。王女様から指定があったらしい。王女様の左が先生で、その隣に木田と浅野、王女様の右手がユニックさんで、その隣が俺という並びをご希望なのだそうだ。


 生活向上委員会のメンバーは揃ったが、王女様の登場はもう少し先になりそうなので、皆に相談を持ちかけた。

「今食堂で出している赤ワインなんだけど」

「この前教会から貰った奴だろ?結構良いワインだよな」

「そう、それなんだけど、試しに二十年熟成させたらさらにうまくなってさ、今日みんなにも飲んでもらうけど、専用のボトルを作ってもいいかな?」


 特に反対は無かったので、一安心。早速江宮に見本の作成を依頼した。ついでに、浅野にもラベルのデザインを依頼した。江宮が質問した。

「ボトルの形はボルドータイプか?それともブルゴーニュタイプ?」

 当然ブルゴーニュタイプ(ボトルのカーブが撫で肩になっている)をリクエストした。


「ロマネコンティもどきか?」

 志摩が笑いながら聞いた。俺は黙って頷いた。

「もどきと言えるくらいうまかったらいいな」

 志摩はさらに笑ったが、一口飲んだからたまげるぞ、きっと。


 で、ここからが本番だけど、新規のアイディアとして菜種油用のランタンと気化熱を応用した携行型のクーラーを提案してみた。この世界にもクーラーはあるのだけれど、室内タイプで無駄にでかいのだ。燃費も悪そうだし。


「どっちも良いんじゃないの?」

「ランタンは菜種油が普及してからだね」

「光の魔石も蝋燭も高そうだから良いんじゃない」

「クーラーは今すぐ欲しい。馬車の中が暑い」

「気化熱を使ったら、魔石だけより効率的になると思う」


 見本の作成については、明日江宮と打ち合わせることにした。見本が出来次第、プレゼンだな。俺は続けてリクエストした。

「囲碁・将棋が忙しくて忘れていた五目並べとリバーシを再起動して欲しい」

 工藤が頭を掻きながらあやまった。


「すまんすまん、囲碁と将棋の取説が思ったより手間がかかっているんだ。誰か五目並べとリバーシの取説をやってくれないか?」

 ゴミのリサイクルプランがひとまず手を離れたので、五目並べとリバーシの取説は水野に頼むことにした。水野はマニュアルを作るのは初めてだけど、工藤の作った取説を参考にすると言っているので、大丈夫だろう。


 五目並べとリバーシは準備が出来次第のプレゼンとなった。まずは江宮にリバーシの見本を作って貰うことにした。ここで工藤から追加のお願いが出た。

「前回将棋について話した時にチェスみたいな将棋の話が出たと思うのだが、あれやってみようと思う」


 みんな意外だという顔になったが、工藤の説明を待った。

「ただし、時期は将棋が受け入れられるかどうか見てから、ということでどうだろうか?」

 俺は手を上げた。


「いや、将棋とチェス将棋を両方存在させるのは難しいと思う。迷うくらいだったら、ユニックさんとエントランスさんに相談して、どちらか片方に決めるのはどうだ?」

 しばらく皆考えた後で志摩が発言した。


「同じようなゲームで一部ルールが異なる、というのはまずいかもしれん」

 江宮が続けた。

「確かに紛らわしいな」

 浅野がまとめてくれた。


「それなら、将棋の見本と取説が出来た時点で、二人に相談するのはどう?こっちの世界に受け入れらそうな方を採用するという事で」

「二人って誰?」

「ユニックさんとエントランスさん」

「ユニックさんは分かるけどエントランスさんは何で?」

「プレゼンの時に、囲碁と将棋に凄く食いついてきたもの。あの人絶対ゲーマーだよ」


 例え異世界でもゲーマーとしての匂いみたいなものが伝わるのだろうか?志摩がうんうんと頷いていたのでそうなのだろう。工藤は何かものすごく言いたそうな顔をしたがあきらめた。


「分かった。ただし、チェス将棋になった場合でも、元祖はこういうルールだった、という感じで説明だけは入れさせて欲しい」

 工藤の至極まっとうな発言に皆、拍手で応えた。羽河がこれからの課題をまとめて整理してくれたので、担当を割り振った。


1ー1.囲碁・将棋の取説の校正と翻訳(工藤)

1ー2.囲碁・将棋・五目並べ・リバーシの名前の決定(工藤)

1-3.碁盤&碁石の見本の作成(江宮)※3セット:ユニック/エントランス/水野

1-4.将棋盤&駒の見本の作成(江宮)※2セット:ユニック/エントランス


1-5.リバーシ盤&駒の見本の作成(江宮)※2セット:ユニック/水野

1-6.リバーシと五目並べの取説の作成(水野)

1-7.囲碁&将棋のギルド化について伯爵に相談(谷山)

1-8.将棋の方向性の選択(工藤)


2.ブランドのロゴ作成(浅野)

3.生理ショーツの試作(浅野&木田&利根川)

4ー1.ワインのボトルの見本の作成(江宮)

4ー2.ワインのラベルの作成(浅野)


5.菜種油ランタンの試作(谷山&江宮)

6.気化熱を応用した小型&軽量で携行可能なクーラーの試作(江宮)

7.五目並べとリバーシの取説の作成(水野)


それ以外で待機中のものは以下の通り。

・ウイスキー用の樽の納品時期と場所:連絡待ち

・濾過器、菜種油、砂糖、ドライヤー:契約書の雛形待ち

・シャンプー、リンス:商業ギルドの評価待ち

・スリットスカート・ワイドパンツ・トートバッグ・ブラジャー:商業ギルドの検討待ち

・囲碁・将棋:カップ戦とギルド化について商業ギルドの検討待ち


 全員納得した所で俺は手を上げた。

「まだあるの?」

 羽河が聞いた。

「ある」

 俺は即答した。大事な提案が残っているのだ。


「実は農業プロジェクトについて考えていることがあってさ、王女様にご協力をお願いしようと思うんだけど、どう思う?」

 羽河は冷静に聞いた。

「具体的なアイディアを聞かせて」

「いや、そんな大したことじゃないんだ」

「何?」


「今困っていることはないか聞いてみたらどうかな、と思って」

 みんな気が抜けたみたいだが、志摩が即答した。

「良いと思う。聞いてみようぜ」

 俺は少し驚いた。

「返事が早いよ。どこが気に入ったんだ?」


 志摩は顎を搔きながら答えた。

「農業に関することをやろうと思ったんだが、具体的に何をやればいいのかわからなくて困っていたんだ。いろいろ情報は集めたんだが、なにもかも問題だらけで、どこから手を付けていいのか途方に暮れていた。お前の考えは急がば回れと言うか、一番の近道みたいな気がする」


 志摩の発言が俺の意見を後押ししてくれた。助かったぜ。どうやら全員異議はないみたいだ。その時、先触れの声が聞こえた。

「エリザベート・ファー・オードリー王女のおなりです」


 夜明け直前の空のような深い紺地に金糸銀糸の見事な刺繍が入ったドレスに着替えた王女様が侍女と騎士を従えて入ってきた。ちゃんとお着替えを持ってきてたのね。俺たちは全員立ち上がって礼を取る。王女様が優雅に着席すると、俺達も座ってお言葉を待った。


「皆様、本日の会合は誠に有意義でした。これからこの国は変わる、その思いを確信することができました。皆様の創意工夫と熱意と努力に対し、王家を代表して深く御礼申し上げます」


 優雅に挨拶した王女様に一礼すると、羽河は話し始めた。

「お褒めの言葉を頂き、誠に恐縮でございます。本日の会合を滞りなく行うことができたのは、ひとえに王女様が同席して見守って頂いたからでございます。これからもどうぞよろしくお願いします。ささやかですは、私達でできるおもてなしを用意いたしました。至らぬこともあるかもしれませんが、何卒ご容赦願います」


 食前酒の梅酒サワーがピッチャーで届いたので、皆のコップに注ぎ分けた。

「毒は入っていません」

 ユニックさんはマイペースだった。ついでなので、ユニックさんの発声で乾杯した。


 「王女様のご壮健とグラスウールの繁栄を願って!乾杯!!」

乾杯の後で王女様は笑顔で話しかけた。

「申し遅れましたが、今日はあくまでお忍びでございますので、いつもどおりでお願いします」

 それができたら苦労はしないよ、なんて言えないのでございます。

持ち歩ける小型のスポットクーラー良いですね。

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