第76話:来客だらけで忙しい2
評価をくださった方、ブックマークして頂いた方、ありがとうございます。
俺たちはラウンジに戻ると、安楽椅子で読書中の先生にお酒に関する契約書の雛形を渡してチェックをお願いした。そのまま羽河と濾過器の状況の変化について説明した。
「最初は教会に作り方を伝授してそれで終わりかと思ったんだが、思ったよりすごい発明だったみたいで伯爵からも情報開示を求められたんだ。その時伯爵から王家にも見本を送った方が良いと言われて慌てて送ったんだ」
「それでか・・・。さっき王女様からそれはそれは丁寧なお礼状が届いたわよ。叙勲ものの大発明みたいよ」
「そこまでいくのか・・・。いや、だからウケるかと思ってついジョージさんにもプレゼンしてしまったんだ」
「いや別にお金儲けはしないという方針に変更は無いからいいんじゃないの。でも一応現状報告だけは必要ね」
結局、今日の議題は、1.濾過器の状況報告、2.各プロジェクトの進捗状況、3.来訪者ギルド、4.ブランドについて、で決定した。
一息つく間もなく、カウンターから呼ばれた。
「谷山様、木工ギルド様がお見えです」
急いで玄関に向かう。外にはテイラーさんが二台の荷馬車と共に待っていた。それぞれの荷台には木造の物置小屋みたいなのが乗っかっている。三角屋根になっていて、大きさは縦三メートル、横二メートル、高さ三メートル位だ。
「お待たせしました。お持ちしましたぞ。入荷したばかりの新品でございます」
「ありがとうございます。助かります」
「来月から始まる街道沿いの伐採作業用に仕入れたばかりでございます。我らの分は追加で注文しましたので、どうぞ遠慮なくお受け取り下さい」
タイミング的に丁度良かったみたい。横側の真ん中にあるドアを開けて中に入ると左右に洗面台があり奥は個室が二個並んでいた。なんと天井裏には水タンク、床下には汚水タンクが備えられていて、水洗式になってるそうだ。素晴らしいじゃないか。
「冒険者を見習うのもありですが、野外でお尻丸出しでしゃがむのは安全上問題がありますからな」
俺もその通りだと思う。
「言う事なしです。ありがとうございます。おいくらですか?」
昨日注文した時には不要と聞いていたが、念のために聞いてみる。
「この分は王家に請求いたしますので必要ございません。ご安心ください」
俺は受け取りにサインするとアイテムボックスに二つとも収納した。ついでに竹を十本預ける。テイラーさんはニコニコ顔で帰っていった。
玄関に立っていて一部始終を見ていた羽河が拍手してくれた。
「これで問題は解決?」
「まあな。もう一工夫いるけど」
「何するの?」
「秘密。知らないほうがいいぞ」
「えーーー」
羽河は不満そうだが教えるわけにはいかないのだ。ラウンジに戻ると先生に呼ばれた。契約書は特に問題は無いそうだ。カウンターに行って、商業ギルドのジョージさんに契約書に問題は無かったとを伝えるようお願いした。
とりあえず来客の予定は終わったので、風呂に入った。湯船につかってぼんやり富士山を見ていると疲れがちょっとずつお湯に溶けていくような気がする。
今日の晩ごはんはオークカツだった。厚さ二センチほどで手のひらほどの大きさのオークのロースを二枚、しっかり揚げたものだった。もちろんウスターソースとケチャップを混ぜた特製ソースでいただきました。うまい、うますぎるよ、先生のテーブルを見ると笑顔でエールをお替りしていた。揚げ物にビールは鉄板だから仕方ないよな。
デザートはカヌレだった。フランスの代表的な焼き菓子だ。外側はカリッとしているが、内側はしっとり柔らかい。食感・程よい甘さ・バターの風味で美味しく頂きました。
食後の紅茶を味わってから生活向上委員会の臨時会議に出席した。議題は、1.濾過器の状況報告、2.各プロジェクトの進捗状況、3.来訪者ギルド、4.ブランドについてだ。
まずは濾過器の現状を説明した。教会だけでなく軍と王家にも情報開示したこと、そして商業ギルドにも開示しようと考えていることだ。要するに小さな親切で始めたことが思ったより大事になったが、特に利益は上がらないということだ。水野が真っ先に手を上げた。
「それはこの世界のためになることなんだな」
「もちろん」
「なら俺は賛成する」
生死にかかわる案件を安易に商売にしたくない、という俺のセンチメンタルな意見に利根川以外は全員賛成してくれた。助かったぜ。
次の各プロジェクトの進捗は以下の通り。
1.ウイスキー:開発済み、ラベル修正中、契約締結前、樽百五十個受注予定
2.シャンプーとリンス:開発済み
3.スカート・ワイドパンツ・ブラジャー:準備中
4.サイダー:開発済み
5.お箸:開発済み
6.ナプキン:開発中
7.ドライヤー:開発済み
8.ゴミの分別・リサイクルプロジェクト:準備中
9.農業プロジェクト:準備中
10.食品関係:レシピ提供開始、料理用語辞典準備中
11.苦無と手裏剣:開発済み、契約締結前(鍛冶ギルド)
12.ピアノ&ギター:準備中、要音叉
13.囲碁・将棋・五目並べ・リバーシ:要取説&将棋の駒のデザイン
14.砂糖:要見本
15.菜種油:無償で情報提供の予定
16.濾過器:教会・軍・王家に情報提供済み、商業ギルドにも提供予定
17.安楽椅子:契約締結済み、販売中(木工ギルド)
18.グラス:開発済み、契約締結前(雑貨ギルド)
19.音楽:採譜中
20.聖歌指導:週に一度実施中
1については浅野が書き直したラベルを一枚見せてくれた。美しくそして毅然とした超越者たる女神様の姿が描かれていた。神々しすぎるような気がしたが、皆口々に褒めてくれたので、浅野は嬉しそうだった。これを元に、木の種類ごと・年代ごとで計九種類のラベルを作るそうだ。頑張れ。
関連して、正式な発注は契約後になるが、商業ギルドから樽一個につき金貨三枚で百五十個受注予定であることを伝えると皆、特に利根川が大喜びしてくれた。なんせ、金貨四百五十枚の大商いだからな。利根川の目に¥マークが浮かんでいた。
4については大量生産のめどが立たないので一休み、5と9についてはタイミングを見て提案することにした。
8のゴミの分別・リサイクルプロジェクトについては、水野が資料をまとめることになった。
13の囲碁・将棋については、軍にもライセンス料を分ける代わりに碁盤&碁石、将棋盤&駒を各百セット導入の約束を取り付けたことを報告したが、利根川を除いてあまり反応は無かった。囲碁・将棋の普及のためにトーナメント大会を企画することを提案しても反応は薄かったが、賞金と参加料について説明するとやはり利根川が食いついてきた。
将棋の駒のデザインについて浅野から提案があった。武器は苦手なので他の人、できれば江宮にお願いしたいとのことだった。江宮も俺達も異存は無いのでこれできまり。取扱説明書は工藤が書き起こしているそうだ。試案が出来たらユニックさんに確認をお願いすることにした。
諸々のプロジェクトの商業ギルドへのプレゼンを行うのは、2・3・6・7・8・13・14・15・16の予定だ。日程としては7月6日、月曜日の午後を目標にすることにした。
来訪者ギルドの構想については全員、特に利根川が大賛成してくれた。
18のグラスについては製造販売を雑貨ギルドに許諾する代わりに、対価だけでなく五種類各五十個を無料で作って貰えることになったことを報告するとみな喜んでくれた。
対価については、ロイヤリティ方式ではなく一アイテムにつき幾らというやり方で意匠代つまりデザイン料を徴収することにも反対は無かった。ただし、利根川から安売りしないように、という注文が付いた。確かに3の契約の問題があるのでもっともな意見だと思う。
ブランド化についても全員が賛成してくれた。ブランド名については全員で考えて次回に決めることになった。
会議が終わって部屋に戻った。疲れたぜ。カヌレをお供えし、アイテムボックス内のトイレに一工夫したところで意識が切れた。
お休みなのに来客で全部潰れた一日でした。




