第58話:秤と焼き鳥
6月25日、日曜日。雨。昨日の快晴とうって変わって、灰色の空からざんざん雨が降り続いている。いつも通り起きはしたものの、走る気になれなかったので、ラウンジでぼんやりしていると、玄関が騒がしい。セリアさんが駆け込んできた。
「大変です。王宮から火急の使者が参りました。秤の件で今から一刻後、雑貨ギルドが訪問するそうです」
早いな。今日来るだろうと思っていたが、まさか朝イチとは。俺はセリアさんに頼んで平野・羽河・江宮と先生を呼んでもらった。ついでにカウンターにいたサラさんに頼んで、打ち合わせ用に会議室を一つ用意してもらった。
大慌てでサンプルを用意できた頃に、雑貨ギルドの担当者が到着した。何とか間に合ったぜ。とりあえず、俺・平野・羽河と先生で対応する。雑貨ギルドの担当者は灰色の髪に緑色の目をした針金のように細い男だった。
「お忙しいところ急な訪問で申し訳ございません。雑貨ギルド・調理部門のニエット・ミクサーと申します。王女様から『秤を改良せよ』との命を受け参上しました。ご指示を承ります」
一通り自己紹介してから、平野が作って欲しいものとその要求仕様を説明した。主な内容は以下の通り。
1.計量スプーン1:5ccが測れる
2.計量スプーン2:10ccが測れる
3.計量カップ:10cc単位で容積が測れる。最大500cc。
4.秤1:10グラム単位で重さが測れる、最高で1kg。
5.秤2:100グラム単位で重さが測れる、最高で5kg。
秤の補足として、例えば85グラムの場合は、80グラムと90グラムの間に針がくるようにという指定を付けた。調理台の上に置いて使えるように、小型軽量にすることを条件にした。
サンプルとして、透明なガラス瓶に10cc単位の目盛りを書いたものと計量スプーン、そして重さの見本を三種類(10グラムと100グラムと1kg)渡した。スプーンは江宮に頼んで急遽作って貰った。
「これでどうでしょうか?」
サンプルを渡すと、ニエットさんは破顔一笑、明るい声でこたえた。
「これだけ揃えていただければ十分です。この短期間でここまで用意して頂けるとは思いませんでした。流石は勇者様でございますな。早速取り掛からせて頂きます。雑貨ギルドの総力を挙げて取り組みますのでご期待ください」
なんとなく金の匂いを嗅ぎつけた商人のたくましさを感じた。いや、もちろん良い意味でだが。地味な商品だが、王室御用達とあれば売れるよな。
費用その他は全て王宮に請求するとのことなので、書類は要望書とサンプルの預かり書だけで済んだ。チェックは全て先生に任せた。ニエットさんは書類にサインすると、サンプルを入れた鞄を抱えて風のように去っていった。朝からバタバタで疲れたぜ。
ニエットさんを見送ってからラウンジに戻ると羽河が紅茶を飲んでいた。なぜかカウンターにはエプロン姿の江宮がいる。バイト?俺は江宮に頭を下げた。
「朝からすまん」
江宮はエプロンを脱ぐと急いで席までやってきた。
「いや、いいんだけど。セリアさんに叩き起こされて何かと思ったら計量スプーンのサンプルだろ。びっくりしたよ。時間がないから自分ちで使っているものを複製したけど、よかったのかな?」
「問題なし」
俺は断言した。あったらどうしよう?羽河も続けてくれた。
「平野さんも軽量カップと重りの見本を用意してくれていて助かったわ」
「秤はいつできるのかな?」
「今週中には出来るんじゃないの?」
「明日持ってきたりして」
「いくら何でもそりゃ無理だろ」
みんなで笑っていると、江宮が急に真面目な顔になった。
「ドライヤー、明日か明後日にはできそうなんだ。脱衣場において試験的に使って欲しいんだけど、どうかな?」
「何台できる?」
「四台の予定」
「三台じゃなかった?」
「一台は予備だ」
「それなら予定通り、男用に一台、女用に二台で良いんじゃないか」
「凄い凄い、本当に出来たの?」
羽河が素直に喜んでいる。
「ああ、ちょっとでかいけどな」
出来上がり次第、男女の脱衣場に設置することにした。羽河に魔石の手配を頼んでから解散した。
食堂に向かって歩きながらアイテムボックスをチェックすると、ウイスキーフォルダの白樺と水楢の熟成が終わっていた。早速、地下室に行ってみる。鍵がかかっていたので、ノックした。
「合言葉を言え、美少女仮面」
「ポワトリン」
何故利根川はこんな古い作品を知っているのだろうか。俺もだけれど。地下室に入ると部屋が半分ほどの広さになっていた。縦横十メートル位になっている。この前もってきた樽が十個隅に置いてあるが、それ以外の樽が見当たらない。
利根川を見ると得意げに答えた。
「蒸留で気温が上がる部屋に完成品を置いておくわけにはいかないから、半分で仕切って奥を酒蔵にしたのよ。温度管理の魔法も入れているわ」
新しくできた壁の真ん中には引き戸式の大きな扉があった。あの奥が倉庫、もとい酒蔵なんだろう。きっと温度管理するために佐藤が結界魔法を頑張ったんだろうな。まあそんなことはどうでも良い。相変わらず佐藤は机に突っ伏しているが、その手にはマニュアルらしきものが握られていた。俺の目線に気が付いた利根川が教えてくれた。
「取説が出来たわ」
「やったな。おめでとう」
「あとはこれをミドガルト語に翻訳するだけよ」
「佐藤、よく頑張ったな」
「次の仕事が待っているけどね」
利根川の言葉を聞いて佐藤が机から滑り落ちそうになったのを慌てて止めた。
「こっちも出来たぞ」
「何が?」
「白樺と水楢の熟成が終わった。それぞれ十年物・二十年物・五十年物の三種類だ」
俺は部屋の隅に樽を六本置いた。
「これでウイスキーのサンプルも全部完成ね」
利根川が感慨深げに呟いた。
「工藤と羽河にも言っとくぞ」
そう言いながら食堂に向かった。たまたま羽河と工藤が同じテーブルにいたので、ウイスキーのことを伝えると、工藤は何も言わずに席を立って走っていった。
「あいつまだ飯の途中だろ」
「よっぽど気になるのね」
「俺もまだ味見していないんだけど」
「サンプル用の瓶をまた頼まなきゃいけないわね」
「毎回江宮に頼むのも悪いからサンプル用の瓶を雑貨ギルドで作らないか?どっちみち見本は江宮に作って貰うことになるが」
「いいわね。そうしましょう」
「ウイスキーの日本語取説も出来たみたいだけど、翻訳はどうしようか?」
「先生に頼むしかないわね」
「先生だけじゃできないぞ。日本語を読み上げるやつがいる」
先生は日本語は読めないので、誰か日本語で読み上げ、言霊でミドガルト語に翻訳された音声を聞いて貰わなければならないのだ。
「幸ちゃんは?」
「ブランデー作りで忙しそうだ」
「じゃあ工藤君に頼もうか?」
「そうしよう!」
先生への依頼は羽河がやってくれるそうなので、カウンターに行った。今日の朝ご飯は、ピザトーストだった。肉系がたっぷり乗ったものと、野菜とゆで卵とチーズだけのあっさりしたものの二種類だった。俺は各一枚食べたが、人によっては肉系のみ五枚とか偏った奴もいた。いつも通り、ミックスジュースとカットフルーツをいただく。
工藤がちょっと赤い顔で戻ってきたので、マニュアルの翻訳の手伝いを頼むと快くOKしてくれた。江宮が来たので、外注するために今までお酒用に作った瓶の見本を一個ずつ作るように頼んだ。これで一通り大丈夫かな。
魔法学の授業が始まる前に羽河が先生に合図して教室の前に出た。
「毎回急で申し訳ないのですが、三回目のホームルームを行います。今日は報告です。先日、王女様が視察に来られたのですが、その際に生活向上委員会の活動について説明させて頂く場を設けて頂き、今後の活動について全面的に王家のご支援を頂けることになりました」
おお、と全員どよめいた。知っていることでも、人の口から聞くとインパクトあるな。
「二つ目の報告です。孤児院の慰問は無事終わりました。子供たちは凄く喜んでくれました。参加してくれた人、手伝ってくれた人、応援してくれた人、みんな本当にありがとうございました」
一斉に拍手が巻き起こった。
「三つ目の報告です。浅野君が教会の合唱団の指導係になりました。これから先、私たちが普段聞いていた歌がこの世界に広がっていくことになると思います」
おおお、と再び全員どよめいた。「浅野頑張れ」という声がかかったので、浅野が恥ずかしそうに手を振った。
「四つ目の報告です。孤児院の慰問に関連して教会から大量のおいしいワインを頂きました。みんな、ほどほどに楽しんでください」
酒好きが大喜びしていた。
「最後の報告です。ドライヤーの試験運用を明後日目標で開始します。使っていて何かおかしいところがあったらすぐにお知らせください」
拍手と歓声が教室に満ちた。今日の報告の中で一番盛り上がった。みんなの期待みたいなのを感じる。江宮良かったな。
なんかこう前進しているという感じで高まった雰囲気をさらに上げたのは、今日の講義だった。図解を交えた魔物の解説だったのだ。今日は草原に出没する魔物ということで、角兎から始まった。来月からの野外演習を考えての講義なのだろうが、皆真剣に聞き入っていた。
ミドガルド語の講義は・・・聞かないでくれ。
お昼ご飯は、ハヤシライスだった。俺は個人的にはカレーライスよりハヤシライスが好きなので、ひたすら嬉しかった。デザートの無花果のジェラートも甘さ控えめで好感が持てました。
食後紅茶でのんびりしているとセリアさんが走り込んできた。今日はこのパターンが多いな。
「今度は木工ギルドが来ました」
なんだろ?疑問に思いながらラウンジで待っていると、天然パーマのテイラーさんがやってきた。後ろにはでかい木箱を持ったお供がいる。樽の納品以来だな。
「谷山様、お久しぶりです。前回の話に出た食器を持ってきましたぞ」
テイラーさんのお供が持ってきた木箱を開けると、竹の節の部分を使ったお椀と、節と節の中間の部分を使った長方形の小皿、竹の皮で格子状に編んだ直径三十センチ位のざる、小さな竹のスプーン、そして竹串が入っていた。ざるは編み方に一工夫あって、水きりに使えるようになっている。竹串はバーベキューに使えそうな長さ二十センチ以上の大きなものと、十センチ位の小さなものの二種類だった。
竹串を見て俺はショックを受けた。なんで思いつかなかったんだろ。テイラーさんは俺の顔を見て、してやったりとばかりに笑った。畜生、一本取られたぜ。
「お気に召したようでなによりですな。串は大きな方が百本、小さな方は五百本作りましたので、どうぞお役立てくださいませ」
俺は素直に降参した。
「竹のお椀は素朴でいいですね。小皿も品があって、ペン置きにしても良さそうです。ざるは厨房の即戦力ですね。それにつけても、この串にはまいりました。流石は木工ギルドさんです」
「なんのなんの、お褒めの言葉を頂き恐縮です」
上機嫌のテイラーさんによると、家具作りは順調に進んでいるらしい。そこで俺は前回から考えていたアイディアを話した。
「これは別に竹とは関係ないアイディアなんですが・・・」
「谷山様、存分にお話しくだされ」
テイラーさんの目がきらきら輝いた。期待しているみたい。
俺が話したアイディアは安楽椅子、つまりはロッキングチェアだった。ぐらぐら動く椅子という概念にとまどっていたけど、紙にへたくそな絵を描くとすぐに理解してくれた。ついでに、赤ん坊を抱えた夫人が座り、それを後ろから旦那さんが優しく揺するというイメージを伝えると、それだとばかりに膝を叩いた。
「素晴らしい。これは椅子の革命ですぞ。椅子はしっかり安定すべしと思っておりましたが、遊び心があって何とも洒落ております。是非商品化と販売をお許しくだされ」
「こういう時のライセンス料はお幾らくらいなんですか?」
「え?それを私めにお聞きになられるのですか?」
テイラーさんはしばらく悩んでから提案した。
「それでは販売した価格の一割ということでいかがでしょうか。これが私が決済できる上限でございます」
最後は絞り出すような声になっていた。まあいいだろう。
「それでいいですよ。お願いします」
テイラーさんは満面の笑顔になってこたえた。
「かしこまりました。次回、サンプルと契約書を持ってまいります」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「早速取り掛かりまする。これにてご免」
テイラーさんは木箱を置いて風のように去っていった。タイムイズマネーの人なのだな。単なるせっかちかもしれんが。それにしてもライセンス料はあれで良かったのだろうか。利根川のことを考えるとちょっと憂鬱になるのであった。
俺は食堂に戻り、片づけを指示している平野に声をかけた。
「木工ギルドからいろいろ貰ったぞ。後で見てくれ」
木箱をテーブルの上に置いてから手を振って部屋に戻った。練兵場に行くと伯爵につかまった。
「先日の鍛冶ギルドの件ですが、鍛冶ギルドの売り上げの一割を七対三で軍と分けるのはいかがでございますかな?もちろん七が生活向上委員会様ということで」
ライセンス料としては一割って結構妥当な額なのかな?よく分からんが、伯爵が「頼むからOKしてくれ」というような顔をしていたので、俺は鷹揚に頷いた。伯爵はお礼の言葉を言いながら抱きついてきた。暑苦しいぜ。ついでにあの人のことも聞いてみよう。
「ユニック・カル・マットイニーさんってどういう人なんですか?」
伯爵は抱擁を解くと同時に一歩後ろに下がった。
「何か無作法なことをしませんでしたでしょうか?」
昨日と一昨日のことを話して、少し変わった人ですね、というと渋い顔をした。
伯爵によるとユニックさんは公爵家の三男で、王女様とは親戚なのだそうだ。天才的な魔法使いで、魔物退治で大功を上げ、子爵位を賜ったほどだ。それゆえ、王女様の家庭教師みたいなことをしていたらしい。ただし、天才故なのか三男ゆえか、とにかくマイペース!貴族的な価値観は皆無で、この世界でチェスに当たる遊戯の名人らしい。
ようやく俺の中でユニックさんのイメージが固まった。ようするにあの人はオタクだ。それもゲームオタク。今後のことを考えると、仲良くしていた方が良いかも。伯爵からすると扱いにくい部下第一号らしい。
手裏剣等については兵器関係のライセンスに関する包括的な契約書を用意しており、今日決まった数字を入れて持ってくるそうだ。俺は伯爵に礼を言うと、小山を探した。丁度ランニングが終わったみたいなので、声をかけた。
「昨日はありがとう。小山が警備してくれたおかげで安心して楽しめたよ」
「こっちも手裏剣と苦無の実地検証ができた」
小山は息も切らさず淡々とこたえた。
「兎や野鳥もありがとう。平野に渡したら喜んでいたよ」
「思ったより獲れなかった。動くものを仕留めるのは難しい」
「初めてであれだけ獲れたら凄いと思うぞ」
「それよりも後継者の候補が見つかったことが嬉しい」
え、一緒にいた女の子ってただのファンじゃなかったんだ。
「帰還までに『飯綱落とし』まで仕込む」
小山さんは静かに燃えているみたいですが、それって何の役に立つのでしょうか?怖いよ。
壁際にイリアさんがたたずんでいたので、声をかけた。
「昨日はどうもありがとうございました」
「こちらこそ、馳走になった上に毬投げで景品まで頂き、ありがとうございました」
「浅野の件ですが、本人に話したところ二つ返事で引き受けるとのことでした」
イリアさんは微笑んで深く礼をとった。
「早速ですが、今週の月曜日からお願いして良いでしょうか?」
「え、もうですか?」
「善は急げと言いますから」
イリアさんの目は澄んでいて感情も思惑も何も読めない。俺はあきらめた。
「分かりました。何かあれば連絡します」
「四時半にお迎えに上がります。指導はひとまず五時半までということでよろしいでしょうか?行きも帰りも馬車は教会で手配いたしますので、ご安心ください」
俺は不安を解消するために一つ提案した。
「指導に関して一つお願いがあるのですが」
「なんでしょうか?」
「浅野は音楽を修行したことも教職を志したこともありません。何かあった時のために手伝いを同行させてもよろしいでしょうか?」
イリアさんは数秒考えてから頷いた。
「もちろん結構です。馬車に乗れる人数でお願いします」
「無理を申し上げてすみません」
これで少なくてもいつものトリオで行動することができる。まあなんとかなるだろ。
ヒデの手裏剣投げに付き合っているうちに鍛錬が終わったので、宿舎に戻ってから羽河に木工ギルド&安楽椅子のことと鍛冶ギルドとの契約のことを報告しておいた。てっきり怒られるかと思ったのだが・・・。
「契約書が届いたら持ってきて」
「え、怒らないの?」
「なんで?」
「いや、勝手に決めちゃったりしたから」
「まあ妥当なとこだと思うし、商業ギルドに全部丸投げも危ういと思うから、私は良いと思うよ」
羽河が笑ってくれたので、俺は胸を撫でおろしたのであった(小心)。
風呂に入ってさっぱりしてから食堂に行くと、チェンバロの所で野田が見かけない女にペコペコ頭を下げている。腰まで届く流れるような金髪に青い目をした女は、野田の横に置かれた小さなテーブルにツンとすました顔で座った。
鞄からペンと羊皮紙を取り出したので、王女様の言っていた譜面書きの人だろうか。大丈夫かな?と思って注目してた俺の予感は当たった。
一曲目は「ラ・カンパネラ」だった。超絶テクニックが要求されるリストの曲の中でも最難関と言われる曲だ。野田は相変わらずのノリとパワーで、多少のミスタッチもお構いなしで豪快に引きこなしているが、楽譜で言うと2ページ目に入ったあたりで女は急に立ち上がると、泣きながら走っていった。
野田を見ると凄い笑顔だった。野田の黒い面を垣間見たような気がした。あーあ、やっちゃったな。野田はその後もリストやショパンの曲を思う存分弾きまくったのであった。気持ちよさそう。
しかし、このドタバタに気が付いたのは俺だけだったようだ。なぜならみんな今日の晩御飯に夢中だったからだ。今日のご飯は、なんと焼き鳥だった。厨房に臨時の焼き台を作って平野の指示で助手AとBが次から次へと焼いている。
ネタは、オークのロース・オークのバラ・牛の赤身・牛のレバー・鳥の四つ身・鳥のレバー・つくね・手羽・ネギ・ピーマン・玉ねぎ・小さなトマト、さらに特別参加のジビエ(兎、山鳩、雉)と鳥のモモ焼きだった。
野菜が足りないような気がするが、その分甘酢のかかったキャベツのざく切りの山盛りが各テーブルごとにどかんと置かれている。もちろんお替り自由だ。話に聞く、博多の焼き鳥屋みたいだ。
レバー以外の内臓系と鳥皮と牛タンも検討したそうだが、下処理に時間がかかりすぎるので、今回はパスしたそうだ。残念。多分木工ギルドから貰った竹串を見て急遽メニューを変更したんだろうな。悪いことをしたぜ。
味付けは無論塩だけだが、何の問題もない。ジビエが人気であっという間に無くなってしまった。俺も山鳩と雉の混じった串を洋子と分け合うことになった。ヒデは左右の手に鳥のモモ焼きを持って交互に食らいついている。お前は野蛮人か。
先生のテーブルを見ると、先生がうれし涙なのか半分泣きながら食べていた。焼き鳥とキャベツとエールの無限ループに突入しているようだ。俺は黙って手を合わせた。迷わず成仏してください。
デザートはグレープフルーツのゼリーだった。爽やかな酸味と少しの苦みが口の中の油を洗ってくれるようだった。帰りがけに平野に捕まって、木工ギルドからのプレゼントについて文句を言われた。
「何でもっと早く持ってきてくれなかったの?」
「すまん、もっと早く気が付くべきだった」
「そうだよ。ほんとにそうだよ。でも、いろいろとありがとう」
竹串はできればバーベキューに使いたかったらしい。竹のお椀(節の上5センチ位でカットしただけ)は今度使う、竹のスプーンと平皿はラウンジで使うかも、ざると串は非常に助かるのでもっと欲しいということだった。
なぜ文句を言われるのか分からなかったが、それだけ嬉しかったのだろうと考えた。最後は飛び切りの笑顔を見せてくれたので、良しとしよう。
部屋に戻ってお供えを上げる。今日は兎と手羽だ。ついでに洋梨のジェラートを付けた。いつも通り目をつぶった一瞬の間にきれいに無くなっていた。
レシピを活かすためには用語の統一と秤は必須ですね。