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第51話:王女襲来1

 6月23日、火曜日。曇り。昨日の夜中から雨が降っていたが朝にはやんでいた。いつもと同じようにお掃除しながら濡れた石畳を黙々と走る。


 今日の朝ご飯は、ガレットだった。具は、ハム・卵・トマト・炒めた玉ねぎ・チーズなど。見かけの割にボリュームたっぷりで、二個でお腹いっぱいになった。いつも通り、ミックスジュースとカットフルーツをいただく。この組み合わせ最高だな。


 御飯が終わったら浅野を捕まえて、明日のピクニックの参加者を確認した。まず、浅野・木田・谷山・志摩・水野・千堂・小山・楽丸・野田・三平の十名。生活向上委員会の五人以外は、千堂は用心棒、小山は警戒、楽丸は浅野のボディガード、野田は音楽係、三平は釣り担当という感じかな。


 クラスのほとんどが参加希望だったけれど、警備の都合で十名以下にしてくれと言われて、なくなく調整したそうだ。これにお世話係が五名、護衛の騎士が十名付くらしい。メインの孤児院の子供たちが十五名とシスターが二名なので、全部合わせると四十二名もの集団になるぞ。


 いや、教会からも三名警備が来るそうなので、四十五名か。なんか凄い大事になってきたな。今度企画するときは、委員会からの参加者は少し減らした方がいいかも。それじゃあ意味ないか。


 既に先生と、平野には連絡済みとのこと。ちなみにお弁当一式の運搬を頼まれました。もちろんそのつもりだったので、問題は無し。明日の企画をどうするのか聞いたら、木田が準備中とのこと。念のため後で聞いてみよう。


 浅野との打ち合わせが終わると羽河がやってきて、委員の今日の段取りを告げた。午前中は通常通り講義を受ける。午後も練兵場に行くが、手裏剣の納品が終わったら委員はすぐ宿舎に戻って欲しいとのことだった。


 王女様は七時半にお見えになり、そのまま教室を借りて八時から八時半までお茶会。九時から十時まで晩餐会ということだった。驚くべきは晩餐会の場所で、食堂に席を設けて一般生徒に交じってお召し上がりなさるそうだ。信じられん。


「それって警備とか大丈夫なの?」

「王女様がクラス全員と交流したいと言って、押し切ったらしいわ。メニューも皆と同じものをと、強く希望されたそうよ」

 同じ釜の飯を食った仲間、という感じなのだろうか?


「王女様の分は王宮からコックが派遣されて作るんじゃないの?」

「いえ、平野さんが作る物を召し上がりたいそうよ。是非に、と」

「いったい何を考えているんだ?」

「とにかく出来るだけ普段通りにと言われたわ。だから、野田さんや伊藤君もいつもどおりにして欲しいって」


 正直言って王女様が何を考えているかさっぱり分からんが、従うしかないだろう。

「分かった。羽河もなんか大変だな」

「私は今の所ただの連絡係だから大したことないわ。それと、明日の打ち合わせはお昼ご飯の後にそのまま食堂でやるけど良い?」


 俺は頷くと野田を探した。のんびり紅茶を飲んでいる。

「おはよう」

「おっはよう。どしたの?」

「野田も明日来るんだろう?リュートを持ってくるの?」

「うん、そのつもりだけど」


 不思議そうな顔をして俺を見ている。

「ケースやスタンドはあるの?」

「スタンドはあるけど、ケースはないね」

「よし、作ろう」


 丁度隣のテーブルで江宮が難しい顔で紅茶を飲んでいた(淹れ方がお気に召さなかったらしい)ので、野田を連れて押し掛けた。

「江宮、すまん。急で悪いがリュートが入る肩掛けのソフトケースを作ってくれないか?」

 江宮は首を傾げた。


「現物を見せてくれたらすぐ作れるけど、いつまでもつか分からんぞ」

「明日のピクニック用だからそれで充分だ。後は二人で打ち合わせてくれ」

 これで大丈夫だろう。楽器を裸で持ち歩くわけにはいかないからな。


 魔法学は回復ヒールの最終回だった。もうちょっとで手が届きそうな感触はあったが、つかめなかった。素直に悔しい。

 ミドガルト語の講義はいつも通り、忍耐の時間だった。我慢するんだ(モッズ?)。


 お昼ご飯は久々にチャーハンだった。お米はタイ米風だが、バターによく合って香りが良かった。具も、ベーコンは大き目、各種野菜の細切れは米粒と同じくらいに均一な細切れになっていて、口触りが良かった。デザートはクランベリーのジェラートで、爽やかな酸味が口の中の油を洗い流してくれる。


 食後は、明日の慰問の参加者で集まってスケジュールを簡単に打ち合わせた。出発は五時で、まずは孤児院に行き、子供たちと合流して出発する。馬車に乗るのは、俺達+お世話係+子供達+シスターで計三十二名。残り十三名は騎馬で移動する。


 合流したら西門から城外に出て街道を西に進み、最初の橋のたもとから少し南側に移動したところにある広場で停車。時刻は五時半位の予定。

 ここで六時まで(日本時間で一時間くらい)子供達と遊んでからランチタイム!ご飯を食べたらショータイム!浅野と木田と野田で何かやってくれるらしい。


 ショータイムが終わったら七時半まで自由行動。オプションで三平の釣り教室を予定しているそうだ。子供たちと遊んでから帰宅。宿舎に着くのは八時の予定だ。

 俺達男組にはなるべく子供たちと体を使った遊びをしてくれと頼まれた。


 浅野と木田と野田の三人は、今日は練兵場の鍛錬は休んで(元々野田はほとんど来ていないが)、ショーの練習するそうだ。期待していいのかな?王女様が早めに来た場合に備えて、羽河は宿舎で待機しているとのこと。


 時間になったので、練兵場に行った。伯爵とイリアさんの他に、身長二メートル近く、がっしりした体格で頭をツルツルのスキンヘッドにした世紀末世界の暴走族のようなサングラスのお兄さんがいた。あまり近寄りたくなかったが、とりあえず挨拶に行こう。


「お待たせしました」

「谷山様ですな。初めまして。お待たせしたのはこちらの方です。鍛冶ギルドのバーニンと申します」

 スキンヘッドの強面兄さんは、意外なほど理知的な声で返事してくれた。


「谷山様、紹介が後になりましたが、こちらは鍛冶ギルド・武器部門のバーニンさんですぞ」

 伯爵が慌てて説明してくれた。

「はじめまして。谷山と申します。今回は急な依頼にも関わらず引き受けて頂いてありがとうございます」


 バーニンさんは笑顔でこたえた。

「本日は、投げナイフ二種と生還サバイバルナイフの納品に参りました」

 そのまま後ろを向くと、いかにも手下といった感じの若い兄ちゃん二人がミカン箱位の大きさの木製の箱を二つと袋を持ってきた。箱の中には十字手裏剣と棒手裏剣、そして苦無くないが入っていた。俺は小山とヒデを呼んだ。まずは品質チェックだ。


 二人が無作為に選んだ手裏剣をそれぞれ十個位、投擲とうてきして、切れ味・大きさ・重さ・バランスを確かめてもらった。次に苦無も試したが問題ないとのこと。断ってから数を数えたが、丁度そろっていた。


「ありがとうございます。品質・数量とも問題ありません」

 横で小山も頭を下げていた。

「こちらこそ、大変興味深く参考になる仕事でありました。勝手ながら知り合いの冒険者に試して貰ったら、大層気に入りましてぜひ購入したいとのこと。是非ともこの武器、鍛冶ギルドで扱わせて頂けないでしょうか?」


 バーニンさんはサングラス越しに期待を込めた眼で俺を見つめている。

 しかし、正直言って俺の頭の中は王女様のことで一杯だった。考えるのも面倒なので、横を見たら伯爵がいた。よし、丸投げだ。

「その件については、全て伯爵に一任しております」


 俺は伯爵の肩に手を置きながらこたえた。悪いな。がんばってくれ。バーニンさんはぽかんと口を開けた伯爵を見つめながら、深く頷いた。

「了解しました。この件については伯爵とご相談させて頂きます。おい、あれを」

部下Aが例の魔法の連絡箱を持ってきた。


「何かまた新規の案件がございましたら、是非この箱でご連絡くださいませ。すぐに駆けつけます。また、細身の片刃剣と大型の投げナイフは26日に納品いたしますので、しばしお待ちを」

「重ね重ねありがとうございます。良い出来上がりを期待しております」


「お任せください。長いお付き合いになりますよう気張らせていただきます」

 イリアさんに書面を確認して貰った上で受取にサインすると、バーニンさんは意気揚々と引き上げていった。おまけの袋の中には手裏剣を格納する革製のポーチが三十三個入っていた。サービスだそうだ。三個は予備だね。何も頼んでいないのに用意してくれてたみたい。流石出来る人は違うねえ。


 俺はみんなを集めて革のポーチと一緒に手裏剣を配った。なぜかポーチの方が男女共に人気で、手裏剣を使わない奴も含めてほぼ全員が受け取った。小山はたくさんいるかもしれないので、二個渡したら喜んでいた。

 配っている途中で頭が一周遅れで追いついた伯爵に首を絞められた。


「く、苦しい」

 俺がもがくと伯爵は慌てて指を離した。

「あれはどういう意味ですかな」

 おれは数回咳き込んでからこたえた。


「文字通りあのままの意味ですよ。鍛冶ギルドと好きなように交渉してください」

「ど、どうしてでふか?」

 驚きすぎて口がうまく回っていないみたいだ。

「伯爵も今回の召喚にお家の繁栄をかけているのでしょう?良いきっかけになればと思っただけです」


「しかし、谷山様達に何のメリットが?」

 俺はニヒルに(自分では)笑うと、悪い顔で(自分では)こたえた。

「交渉は信頼してる伯爵に全てお任せした方が良いと考えただけです。それと来月から始まる野外訓練ですが、安全面の配慮をお願いします」


 交渉とかいろいろ面倒だからとは言えなかったので適当にこたえたが、伯爵は納得してくれたようだ。

「合点承知の助でございますぞ。最大限努力いたしまする」

 伯爵が目をキラキラさせながら力強く宣言した。ひょっとするとまた利根川に怒られるかもしれないけど、まあいいや。


 練兵場に来られなかった奴がいるので、残った手裏剣とポーチはアイテムボックスに入れた。持って帰って後で配ろう。

 とりあえず納品が終わったので、生活向上委員会のメンバーは待っていた馬車に乗って宿舎に戻った。宿舎に着くとまずは羽河をはじめ、数人のメンバーに手裏剣とポーチを渡した。まだ王女様は来ていないみたいだ。

長くなったので分けます。

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