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第318話:王女来襲5-5

 王女様が移動の準備をする間に平野の所に行って、お帰りの際に渡す品を確認した。塩キャラメルが入っていたので、一安心。ついでに俺からの献上品を入れるための箱を一つ用意して貰った。カムフラージュのためにお菓子を入れておいてもらう。紙箱の外装がちょっとファンシーな感じがするけどまあいいか。


 次に江宮と羽河を呼んで、今日王女様達に披露するゲームを打ち合わせる。羽河が提案した。

「先日先生に披露したババ抜きに七並べと神経衰弱を追加したらどうかしら?」

 俺と江宮に異論はなかった。


 ここでジョージさんが話しかけてきた。

「先ほどの宴席でお伝えするのを忘れていたのですが、夏祭りの際にも絵師を何人か派遣するのでよろしくお願いします」


 羽河が返事した。

「結構ですが、私たちを描くのは本番のステージだけでお願いします。楽屋・ステージの脇や後ろには入らないでください」

 ジョージさんは少し残念そうな顔をしたが了承してくれた。


 下見と護衛の配置が決まったので、ぞろぞろと移動する。食堂のすぐそばの江宮の工房では先日見たテーブル炬燵と火鉢が置かれていた。王女が感嘆の声を上げた。

「まあ素敵!見たこともない生地ですわ」


 王女が注目したのはテーブル炬燵に掛かっていたダイヤ柄のキルティングだった。毛布の上に掛かっている。江宮が頭を掻きながら説明した。

「すまん。毛布だけじゃ雰囲気がでないと思って、タオルを木田に貰った布で挟んで適当に縫ったんだ」


 江宮は「適当に」と言ったが、匠の技を持つ江宮が縫ったのだ。まるで機械で縫ったかのように、約三センチ四方のきれいな斜めの格子状に縫われていた。もちろん足を入れる部分はスリットが入っている。

 

 江宮が炬燵と火鉢について説明すると王女は大いに感心した。

「どちらも素晴らしい発明ですが、魔石にも炎にも頼らず暖が取れ、火事の危険を抑えた火鉢には感心しました。それに炬燵に使っているこの生地、見た目も蝕感も素晴らしいですわ。ソファのカバーなど、いろいろ使い道がありそうです」


 ここで木田が手を上げた。

「炬燵のカバーについては、いくつかデザインを考えていますので、それも合わせてご検討をお願いします」


 せっかくだから俺も言っておこう。

「火鉢に関して一つ提案がございます」

 王女は落ち着いた顔で聞いた。

「何でしょうか?」

「火鉢が売れると炭の需要が高まります」

「仰る通りです。一時的に炭の値段が上がるでしょうが、その分増産すれば良いだけでは・・・」


 俺は首を振ってこたえた。

「俺たちの世界の過去の都市文明が滅んだ原因を調べたことがあります。地震・津波・洪水・火山の噴火などの自然災害、火事などの人為的な災害、天候不順による食料の枯渇、伝染病や戦争・内乱・財政の破綻などいろいろありますが、一番多かったのは人口が増えていく中で、水と木が枯渇することでした。現在主に煮炊き用に使っている炭が暖房用にも使われるようになったら、木材が足りなくなる可能性があります」


 王女は眉を潜めながら聞いた。

「植林すればよいのでは?」

「もちろん植林は必要ですが、木が大きくなるには時間がかかります。植林が間に合うまでの一時的な対策を試したいのですが、今使われていない小さな荘園を一つ手配していただけませんか?」


 王女は聞いた。

「何をするのですか?」

 俺はにやりと笑いながらこたえた。

「悪木を使います」

 王女は首を傾げた。

「悪木は成長が早い分木質が軽く、炊きつけにしかならないと聞きますが・・・。分かりました。肥料の製造用と合わせて二つ以上荘園を手配しましょう」


 王女はテーブルの上を見ながら聞いた。

「炬燵の販売を助けるための施策まで考えておられるとお聞きしましたが、これでしょうか?」

 王女が指さす先にはトランプが置いてあった。

「そうです。プレイングカードまたはカードと申します」

 王女は続けて聞いた。

「それ以外のものは何でしょうか?」


 俺は江宮を見ながら言った。

「江宮が説明します」

 テーブルの上には、湯たんぽ・アンカ・懐炉かいろが置いてあった。キルティングもそうだが、いつの間に作ったのだろうか?


 江宮は淡々と説明した。

「湯たんぽとアンカは就寝時にベッドの中に入れて使う個人用の暖房器具です。湯たんぽはお湯を、アンカは炬燵と同じく発熱の魔法陣と火の魔石を使用します」


 江宮はそこで説明を止めると、軍手をはめて火鉢の上に掛かっていた鍋のお湯を湯たんぽに入れて見せた。伯爵が叫んだ。

「その手袋は何ですかな?」


 江宮は不思議そうな顔をしながら軍手を外して伯爵に渡した。

「これは軍手と言って作業用の手袋です。軍用手袋を略して軍手と呼んでいます。寒い時や土や石、木や金属や危険物を扱うときに重宝します。メリットは伸縮性があるので誰でもフィットすること、汚れても洗って使えること、安いから使い捨てできることですね」


 元々は鉄砲を素手で触って錆びることを防止するために始まったことや、布ではなく編み物で出来ていることを説明すると伯爵は言った。

「皮手袋はそれなりに高価でして、兵士全員に配ることなど到底できません。これがあれば屋外の作業の危険や苦労が相当軽減されるでしょう。是非製法を伝授してくだされ」


 伯爵の熱意は十分伝わったので、別途検討させていただくことになった。江宮は次に懐炉について説明した。

「これは懐炉と言って主に野外で使う暖房具です。スイッチを入れて服のポケット等に入れると魔石が切れるまで暖かいです。炬燵やアンカと同じく発熱の魔法陣と火の魔石を使用します」


 真っ先に反応したのはまたもや伯爵だった。

「素晴らしい。素晴らしいですぞ。これがあれば冬季の巡回・行軍・偵察・野営で凍えることがなくなるでしょう。いやあ今回のプレゼンは軍にとって有用な品ばかりですな。今から準備して、今年の冬に間に合せてましょうぞ」


 伯爵によると正規軍同士の戦いの場合、境界を挟んで睨み合いになり戦闘開始まで塹壕にこもって何日も待つことがあるそうだ。塹壕の中にある暖房道具は一人一日当たり蝋燭ろうそくが一本だとか。思ったよりは暖かいそうだが、心細くないか?伯爵の熱気にあてられたのか、今まで黙っていたジョージさんが声を上げた。


「さすれば火の魔石が値上がりしますな」

 江宮は慌てることなくこたえた。

「その対策の一つとしてとして魔石ポケットを改良しました。割れた魔石や極小の魔石でも量があれば利用可能です」


 江宮がさらっと凄いことを言った。通常魔石は一定以上の大きさで割れていないことが買取の条件になる。条件に満たない魔石は何にも使えないので、くず魔石と呼ばれる。その屑魔石が使えるのであれば・・・。


 ジョージさんが聞いた。

「炬燵も同じでしょうか?」

 江宮は笑顔でこたえた。

「炬燵も同じです。今まで屑魔石として捨てられてきた魔石が使えるのであれば、値上がりを少しは抑えられるのではないかと」

 

 静まり返った工房の中でイリアさんが聞いた。

「火の魔石以外でも同じ仕組みが使えるのでしょうか?」

 江宮は首を振った。

「今の所、火の魔石だけ、さらに発熱の魔法限定です」


 場の温度が少し下がったが、イリアさんが呟くように言った。

「それでも小さな魔物しか倒せない子供、なりたての冒険者や老人には朗報です。今後の魔石の高騰を見込んで、今からでも買い取っていただけたらと思います」

 俺はかって見たスラムの景色、その中にいるであろう子供達の姿を思い浮かべた。


 ジョージさんが大きく頷いた。商業ギルドから冒険者ギルドに注文が入れば、火の魔石限定で屑魔石の買取が始まるだろう。計り買いみたいな感じかな。

 俺は置いてあった大小の火鉢三個を見た。どれも五徳の上に水を張った鍋やヤカンが置いてある。俺の視線に気が付いたのか、王女が聞いた。

「この火鉢の上では全て湯を沸かしていますが、何か理由があるのでしょうか?」


 江宮に代わって羽河が説明した。

「まず沸かしたお湯を飲むことで体を温めることができます。さらに煮炊きに使えます。冬場に風邪がはやるのは寒いだけでなく、空気が乾燥することで喉を傷めることが大きな原因ですが、お湯を沸かすことでそれを防ぐことができます。付け加えると肌や髪にも良いですよ」


 王女は大きく頷いた。

「部屋を暖めるだけでなく、煮炊きや病気の防止さらには美容にも役立つのですね。これは何か何でも普及させねばなりません。ジョージ殿、よろしくお願いします」

「かしこまりました。しかと承りました」


 水野が付け加えた。

「火鉢で炭を焼いた後に出る灰は良質の肥料になります。暖炉や煮炊きの灰も含めて回収の仕組みを作る必要はありますが、肥料センターと合わせて検討します」


 王女は目を細めて満足そうに頷いた。

「炭を燃やした後の灰まで有効利用できるのですね。素晴らしい。皆様の献策には細部まで配慮が行き届いており、感嘆させられるばかりです。ついでにお伺いしますが、馬車の改善の進み具合はいかがでしょうか?」


 江宮は真面目な顔でこたえた。

「現在の馬車の仕組みはおおよそ理解したので、改善する箇所を考案中です。ほとんど新規で作るような感じになると思います。量産化するために、部品ごとに部品番号を割り振り、部品名・材質・サイズなどを明記した仕様書を作ります」


 王女は聞いた。

「部品の数はどのくらいになるのですか?」

 江宮はあっさりこたえた。

「部品点数は千点以上一万点未満の見込みです」

 王女はため息をつきながら首を振った。

「私には想像もできない世界です。さて・・・」


 王女の視線がトランプに突き刺さった。

「そろそろプレイングカードなるものを説明していただけませんでしょうか?」

 やりながら説明した方が早いと思うので、王女・伯爵・イリアさん・先生に炬燵に座って貰った。王女には浅野、伯爵には工藤、イリアさんには俺、先生には水野が付き添ってババ抜きからスタートした。

暖房器具のプレゼンも大成功だったようです。トランプはどの程度ウケるでしょうか?

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