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第29話:ナポリタンと一反木綿

 お昼ご飯はナポリタンだった。厚切りのベーコンがゴロゴロ入っている。ちゃんと目玉焼きも付いていた。トマトソースではなくて、ケチャップで作っている所が素晴らしい。流石、洋食屋ビストロの跡継ぎだ。

 素晴らしいのはそれだけではなかった。なんとデザートがついていたのだ。それもドーナッツ!日本にいたらコンビニでもスーパーでも、もちろんミスドでも気軽に買えるオヤツに素直に感激した。


 食べ終わって食器を返しに行った時に平野に声をかけた。なんでも、この国では菜種を使った食用油の生産が始まっておらず、ラード以外はネーデルティア共和国からの輸入に頼っていたらしい。当然量も限られるので、揚げ物のメニューそのものが存在していなかったそうだ。


「これからはまかせて」

 平野は(無い)胸を張ってこたえた。当面、顧問として厨房を取り仕切る(料理長はそのまま)とのことなので、ますますご飯が楽しみになってきたぞ。


 訓練で練兵場に着いたら早速、俺は平井の所に行った。都合よく鷹町もいる。

「平井、誕生会の時の変身、どうやったんだ?」

 平井はニコニコ笑いながら説明してくれた。


「なのかの部屋で変身を見せてもらったら、どうしても私も変身したくなってレイジングハートに頼み込んだの。最初はマスター以外はダメって断られたんだけど、それでもお願いしたら『フレンド設定』するなら、ということになったの。変身するのと光をキラキラさせる位しかできないって言われたんだけど、それでも良いからってなのかにお願いした訳」


「ゆかりちゃんがあまりにも真剣に頼むから、レイジングハートも抜け道を考えてくれたみたい」

 俺は心の中でレイジングハートに深く感謝した。「平井ゆかりを魔法少女にする会」の仲間も草葉の陰で嬉し涙を流しているだろう。よかったよかった(まだ誰も死んでいません)。


 ちなみにフレンド設定はお一人様限定だそうで、ちょっと残念。なんとなくだが羽河の魔法少女姿を見たかったような気がする。ところで肝心の鷹町の変身はというと・・・。


 鷹町はレイジングハートを右手で振り上げ凛とした声を上げた。あまりにもファンシーな杖が鷹町の真剣な表情とミスマッチだが、もう気にするのはやめよう。

「レイジングハート、セットアップ!」


 平井が変身した時の「風は空にかえり」で始まる呪文はいらないみたいだ。なんとなく残念。赤い宝石がピカピカ安っぽく光ると、鷹町は金色の光に包まれ次の瞬間には変身していた。


 はっきり言って期待外れだった。てっきり平井と同じパターンかと思っていたら、袖や裾に青いラインが入った白のロングコートに白のロングブーツで、露出ゼロ。しかし、そうではない人もいた。伯爵だ。文字通り驚愕していた。


「これは一体なんですか?鷹町様は妖魔だったのですか?」

 一刻程時間をかけて魔法少女について説明した。最終的には、魔法文化の違いとレイジングハートの機能ということで納得してもらった。

 理解をしてもらうために、一度変身を解き、再度呪文を唱えてからバリアジャケットを展開して貰った。ちなみに詠唱はレイジングハートが記憶しているので、本来は詠唱不要とのこと。うらやましいぜ。


「風は空にかえり、星は天にまたたく。輝く光はこの腕に宿り、不屈の心はこの胸にある。レイジングハート、セットアップ!」

 うーん、カッコイイのとイタイのと中間位だな。でもここは異世界だからギリギリセーフということにしておこう。微妙な所だから、鷹町がセリフ無しにしたのは賢明な判断だな。


「確かに呪文を詠唱してから衣服が変わっておりますな。そう考えればこれもまた魔法の一つと考えればよいのか・・・」

 伯爵がなんとか理解してくれたので訓練というかランニングが始まった。ところで鷹町の変身については、カッコいいけれどそれだけだ、と思った俺が馬鹿だった。


 このバリアジャケットはとんでもなく高性能で、身体能力の強化およびエアコンの機能が付いているのだ。ランニングしても、昨日とはうって変わり、涼しい顔ですいすい先頭を走っている。夜神が「あたしを置いていかんでー」と叫んでいる声が聞こえないくらい先を走っていた。やっぱちょっと魔法ってずるいと思うのだった。


 ランニングが終わった後で伯爵が調べたところ、さらに凄いことが分かった。なんと、対物理・対魔法の防御も付いているらしい。いくらなんでもチートすぎるぜ。これで攻撃魔法が使えたら無敵だな。ただし魔力を馬鹿食いするみたい。大昔のアメ車みたいだな。


 ランニングが無事(?)終わり、実技の時間になると、中心部から叫び声が聞こえた。駆け寄ると、冬梅の横で細長い布切れがひらひら風に舞っていた。

 いや、舞っているだけではなかった。ヒデが布切れにぐるぐる巻きになって宙に浮いている。近寄ると、冬梅が必死になだめていたのは、一反木綿だった。


「どうしたんだ?」

「一反木綿を召喚できたんだけど、野原君がタオルと勘違いして顔を拭いたら怒っちゃって」

「すまん、一反木綿。ヒデに代わって謝る。これやるから許してくれ」

 こっそり平野からもらったドーナッツを差し出した。


 一反木綿の頭部分がヌッと俺の正面に来た。布に顔かあるんだよ。吊り上がった目が怖いし、ギザギザの歯が並んだサメみたいな口も怖い。

 逃げ出したくなるのを我慢して口の中にドーナッツを放り込んだ。もしゃもしゃと咀嚼すると一反木綿の目じりが下がった。


「ウマイ」

 唐突に布が解かれてヒデが地面に落ちてきた。許してくれたみたい。ヒデはゲホゲホ咳き込んでいるが、大丈夫そうだ。

「オマエ、イイヤツ」


 なんだか気に入られたみたいだ。嫌われるよりは良かったと思うことにしよう。一反木綿は人一人乗せて飛ぶことができるみたいで、冬梅を乗せて練兵場をぐるぐると飛び回った。結構スピードは出るみたいだけど、高さ三メートル位の低空飛行だ。


「もっと高く飛べないの?」

 一反木綿から降りてきた冬梅に聞いた。

「多分飛べると思う。だけど・・・」

「だけど?」


「僕、高所恐怖症なんだ」

 伯爵がやってきた。ちょっと興奮しているみたい。

「高さは今くらいでちょうど良いですぞ。王都の上空は飛行禁止になっておりますからな。もし見つかったら衛兵が飛んできますから、高く飛ぶのは城外に出てからでお願いしますぞ。それにしてもこの魔物、ワイバーンのような防御力はなさそうですが、認識疎外の魔法をかけたら野外の偵察に最適ですな」


 手合わせにも変更があった。後頭部を含め頭を守るヘルメットみたいなのが追加になった。顔面および首を除き、頭への攻撃がOKになったのだ。例のごとく物理的な衝撃を緩和する魔法が付いているので、直撃しても「痛い」で済みそうな感じだった。やっぱ魔法ってすごいな。

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