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第3話:スキル「縁の下の力持ち」ってなんですか?

 俺はごくりと唾を飲み込むと、かすかにしわがれた声でセリアに問いかけた。

「俺はどうなのかな?」

 セリアは笑顔でうなづいた。

「すぐわかります。そのまま『ステータスオープン』と、呪文を唱えてください」

 俺は期待と不安で声が裏返りそうになりながら呪文を唱えた。

「ス、ステータスオープン!」


 なんかゲームの主人公みたい。勇者は無理そうだとしても、無難に剣士?それとも槍士?王道の魔法使い?戦士は嫌だな。それとも意表をついて魔法剣士?僧侶はないよなあ。やべえ、どうにかなりそう。


 黒板の画面が一瞬白く光ると、例の白いミミズ文字が現れる。そして機械音声のような冷たい声が俺の希望を無慈悲かつ粉々に打ち砕いた。

職業クラス:無し、スキル:縁の下の力持ち」

 世界が止まった。時が止まった。お父さんお母さんすみません、あなたの息子は卒業前に無職ニートが確定しました。俺は心の中で血の涙を流した。何か続けて声を聴いたような気がしたが耳に入らなかった。


「そんな馬鹿な!」

 叫びながらセリアは俺の手から黒板をひったくると、穴のあくほど見つめてからへなへなと座り込んだ。周りが「やった、勇者だ」とか「私、魔法使いだって」とか歓声を上げている中で異質な空気を感じたのか、深緑のローブ姿の二人組がやってきた。


「イリア様・・・」

 セリアは背の高いほうを見上げながら泣きそうな声を上げた。

「セリア、立ちなさい。そして説明しなさい」

 俺より背が高いから男と思っていたら凛とした女性の声だった。

「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。私は本神殿の神官長、イリア・ペンネローブと申します」


 フードをかき上げると濃い緑色の髪(比喩としての緑の髪ではなく、本当に緑色だった)をした30代前半くらいのキャリアウーマンぽい女性だった。広い額の下のアイスブルーの瞳が少し気持ちを落ち着かせてくれた。

「た、大変なんです。谷山様のステータスを見たら、職業クラス:無し、スキル:縁の下の力持ち、だったんです」

 セリアは立ち上がりながら早口で簡潔に報告した。


 イリアは瞬き一つせずに落ち着いて応えた。

「それではこちらに。セリアも付いてきなさい。アーネスト、後をたのみます」

 背の低いほうがフードを上げながら答えた。こっちは男だった。

「かしこまりました、イリア様。何かあれば宰相様に相談します」


 イリアはうなずくと、くるりとターンして扉に向かって歩き出した。俺はあわてて彼女の背中を追った。扉を出ると広い廊下が左右に広がっている。壁には十メートルおきに小さなランプがついているが、なんか薄暗かった。

 左に進み階段を下り、右に曲がって渡り廊下をしばらく歩くと、小さな扉の前でイリアさんが立ち止まった。当然、俺も立ち止まると小走りでついてきたセリアが背中にぶつかり、尻もちをついた。


「ふぎゃ」

 セリアの手を引いて助け起こすとイリアさんの姿が無い。

「失礼します」

 一声かけて部屋の中に入った。俺は礼儀正しいのだ。六畳間位の何もない部屋だった。窓はなく、花瓶の一つも置いてない。置いてあるのは、正方形のテーブルが一つと向かい合わせに置かれた椅子がニつだけ。テレビドラマに出てくる警察の取調室みたいだった。

「ここは普段は信者の告解に使用している部屋です。殺風景で申し訳ないのですが、この中で話すことは外に聞こえることは絶対にありません」


 テーブルの右側にいたイリアさんから勧められ、俺は反対側の椅子に座りこんだ。人生初の異世界召喚に続く、「無職」確定という衝撃の二連発で俺のメンタルは崩壊寸前だった。

「セリアは誰も近寄らないよう外で見張っていなさい」


 セリアが扉の外に出ると、イリアさんは椅子に座りテーブルの上で手を組むと話し始めた。筋張ってがっしりした大きな手だった。働く人の手だ、と俺は思った。

「申し訳ないのですが、『職業クラス:無し』も『スキル:縁の下の力持ち』もどちらも初めてのケースでして、正直なところ何を意味しているのか分からないとしか言えません」


 そんな馬鹿な!と言おうとしたら、イリアさんの両目が金色に光りだした。

「だからもう少し深く視させていただきます」

俺は言葉もなく金色の目に魅入られた。見つめていた時間は、ほんの数秒だったような気もするし、三十分ほどもあったような気もする。まるで時計が止まっていたように感じた。

 イリアさんの目がアイスブルーにゆっくりと変わっていくと、時計の針が動き出した。俺は期待をこめて彼女の口元をみつめた。


「申し訳ありません。それぞれ付帯事項が付いているようでしたが、伏せ字のようになっていて私の鑑定では内容を見ることはかないませんでした。本当に申し訳ありません」

 イリアは頭を下げた。

「伏せ字ってなんですか?」

 全身の力が抜けていくようだったが、悲鳴のような言葉を絞り出した。


「おそらく谷山様のレベルが上がれば可視化されるのではないかと考えられます」

「そうなんですか?」

 俺は期待を込めて叫んだ。

「あくまで個人的かつ希望的観測です。この後関係者で再度検討させていただきます」

 彼女は微笑むとつづけた。

職業クラスやスキルが何であれ、我々が谷山様を召喚したことに変わりありません。帰還の日まできちんとご支援させていただきますので、ご安心ください」


 イリアはセリアを呼び戻すと次のように提案した。

「谷山様はひとまず召喚の間にお戻りください。後はそのまま他の皆様とご一緒でお願いします。職業クラスとスキルは隠さなくて結構です。この後レベルアップしなければならないことを考えると、隠し通すことはできないでしょうから。私は至急確認したいことがありますので、このまま残ります」


 イリアは続けてセリアに指示を出す。

「セリアは谷山様をお連れしてから、宰相様に至急の相談があると報告してください。アーネストにもその旨伝えてください」

 イリアさんは再び俺の顔を見ると続けた。

「谷山様の今後については改めてご相談させてください」


 俺は黙ってうなづくと、セリアに連れられて召喚の間に戻った。十五分ほど道に迷ったことは黙っておこう。扉を開けると「今すぐ帰せ」と文句を言った工藤も、「ふざけるな」と叫んだヒデも、みんな一様に高揚した顔で騒いでいた。俺に気が付いた洋子が心配そうな顔でかけ寄ってくる。


 身長は165センチ位、テニスで日焼けした肌、肩までのストレートをヘアバンドでまとめ、笑うと大きく広がる口のふっくらした唇から心配そうな声が聞こえた。

「タカ、どうしたの?何かあったの?」

「いやー、実はさー」

「どうしたん?」

 ヒデも後ろから声をかけてきた。俺は覚悟を決めて話した。


「俺、『職業クラス:無し、スキル:縁の下の力持ち』だったんだ」

 洋子もヒデも絶句してから顔を見合わせた。予想通りの反応に肩が落ちたが、ヒデから返ってきた言葉は俺の予想外だった。

「お前もか・・・」

「え?どういうこと?」

 俺が聞き直すとヒデは言いにくそうにしながらぽつぽつ話し始めた。

「縁の下の力持ち」の意味はまだ不明です。

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