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第296話:王家の依頼2

第295話を修正しました。

 遊園地の入場料については改めて検討することにして、追加の提案をした。

「実は遊園地と合わせて考えていることがあるんだ」

 利根川が疑わし気な顔をしながら言った。

「なーにー?」


「動物園!じゃなかった、魔物園だ」

 またまた歓声が上がる中で、木田が静かに聞いた。

「魔物なんて誰が見に来るの?」

 俺は自信たっぷりにこたえた。


「この世界じゃあ街の防壁を出ることなく一生を終えることも珍しくないそうだ。冒険者や商人や軍人でもない限り、生きている魔物を目で見る機会はほぼ無いと思う。怖いもの見たさで人は集まると思うぞ」

 江宮が聞いた。

「魔物は何を集めるんだ?」


 俺は一呼吸おいてからこたえた。

「危険度を考えるとオークが上限だな。死霊系は避けた方が良いし、昆虫系もやめた方がいい。スライム、角兎、コボルト、ゴブリン、オーク、レイジングブル、ブラックスネーク、お化けカズラ、緑の牙でどうだろうか?」

 

 利根川が目をキラキラさせながら話に加わった。

「いいわそれ!入場料は銀貨一枚取れるかも」

 現金な奴だな。団地&遊園地&魔物園については志摩・工藤・木田・利根川が検討してくれることになった。なんでも住宅には女性の視点が必須だそうだ。とりあえず現場を視察することになった。


 次に難易度低の案件について話した。まず、6の「特産品」は特に期限を決めないで皆でアイディアを考えることにした。次に7の「暖房器具」は江宮から「火鉢あるいは炬燵こたつはどうか?」というアイディアが出たので、ひとまず試作品を作って貰うことにした。炬燵に必須のたたみはないけど大丈夫か?

 8の「肥料」は既に都市計画で「堆肥センター」を提案しているのでこれを検討して貰うことにした。9の「行進曲」は野田に、10の「軍用嗜好品」は平野に頼むことにした。


 問題は1、2、4、11、12の難易度高の課題だ。まず1の「干ばつ」について補足した。

「濾過機が普及すれば飲み水はぎりぎり足りると思うが、問題は農業用水だ。雨が降らず川が干上がれば小麦を始めとする農産物が壊滅的な被害を受ける。畜産も影響を受けるだろう」


 重苦しい沈黙の中で羽河が言った。

「一国の天候を操る魔法なんか無理よ。現時点では私たちの手に余ると正直に言いましょう。それとも浅野君に巫女衣装を着せて雨乞いの儀式でもやってもらう?」

 それもいいなとは思ったが、浅野が全力で首を左右に振っていたので口には出せない。羽河の意見に誰も反対しなかった。


 次に2の「トリヒド」については一度農場跡を見せて貰ってから検討することにした。時期的には夏祭りの後だな。

 4の「誘拐事件」についてはまず行方不明者のリストを作って貰うことを提案した。リストが出来たらその分析と、現場の調査だな。そのうえで調査可能かどうか判断するのはどうか?工藤は名探偵気取りでやる気満々だが、おそらく犯罪絡みなのでくれぐれも注意せねば。魔物相手とはまた違う難しさがあると思うので、正直言って俺はやりたくない。


 意見が分かれたのは11の「北の飛び地」と12の「国境の砦」だ。北の飛び地は浅野と水野が、国境の砦は浅野が行きたがった。木田が安全を理由に、羽河が軍や王政に過度に巻き込まれることを危惧して反対した。


 議論は白熱した。行きたがる浅野と何としてでも止めたい木田の間に険悪な火花が飛び散った。いつもは姉妹(?)のように仲が良い二人の対立を心配した平野がデザートの梅酒のジェラートを持ってきたので、話はいったんストップした。


 ほんのり梅とアルコールの香りがするジェラートはまさしく大人のデザートで、議論で熱くなった俺たちの頭を冷やしてくれた。結論から言うと、「北の飛び地」はぎりぎりセーフ、「国境の砦」はアウトになった。妥当な線だな。今日のミーティングの結果は羽河がまとめて、伯爵に返事することにした。


 とりあえず一段落ということで紅茶でのんびりしていたら、木田のお傍係のハンスさんがやってきた。合唱団の制服が出来たそうだ。木田と浅野は紅茶を置いたままで受け取りに行った。このまま孤児院に行くそうだ。


 残りも二人に続いて席を立とうとしたが、志摩と羽河に声をかけて残って貰った。

「どうした?」

 俺は二人に頭を軽く下げて話した。

「悪い、ちょっとだけ相談だ。下水処理場跡の再開発に団地だろ、大規模な建設・建築をやる場合に必要なものってなんだ?」


 志摩は軽く腕を組んでからこたえた。

「いろいろあるけどまずは建設資材と作業員の確保だな」

「建設資材は土魔法でゼロから作るというのは難しい?」


 志摩は眉を潜めながら言った。

「さっきも言ったけど、小規模なものなら魔法でもなんとかなると思うけど、高さ五メートル・長さ約六百メートル以上の石壁を三つなんて、大規模な魔法陣と複数の魔法使いが共同で行う儀式魔法レベルだと思うぞ」


 俺は頷きながらこたえた。

「分かった。もし材料を手配するとしたら何が良い?」

 志摩は腕をほどきながらこたえた。

「土とか砂がいいな。俺的には砂が扱いやすいから、できれば砂がいい」


 俺はうんうんと頷いてから羽河を見た。羽河は警戒しながら聞いた。

「何?私は砂なんか持ってないわよ」

 俺は首を振ってから言った。

「そんなこと分かっているよ。この近所で大量の砂があるのは?」


 志摩と羽河は顔を見合わせてから同時に叫んだ。

「川!」

 そうだ、孤児院の子供たちを連れて川遊びに行った際に、川には大量の砂が堆積したのだ。


「そうだ。浚渫しゅんせつしたら大量の砂が集まると思う。それを建設や建築の資材にするのはどうだ?」

 二人がぱちぱち拍手してくれたので、俺は調子に乗って羽河に頼んだ。

「川を浚渫して砂を集めることの許可を取ってくれないか?」


 羽河は苦笑しながら頷いてくれた。

「負けたわ。先生に頼んでみる。でも許可が下りるかどうか分からないわよ」

 確かに羽河の言う通りだ。砂にはそれ自体が建設素材として価値があるので、浚渫がどこかのギルドの利権となっている可能性はあると思う。


 俺はついでに頼んだ。

「もし許可が出たら、浚渫するための船を一隻借りてくれ。砂はアイテムボックスに収納するから、二人乗り位の手漕ぎのボートで十分だ」

 羽河は笑いながらOKしてくれた。手漕ぎボートで浚渫する姿を想像して噴き出してしまったらしい。


 羽河が立ち上がった後も志摩とそのまま石壁について話した。

「公共事業的な、雇用が発生するようなやり方ってなんだ?」

 志摩に聞かれて俺は漠然としたイメージを話した。

「分かりやすく言えばピラミッドだな。あれって基本的に人力だろ」

「ピラミッドか、なるほど・・・」


 志摩は頷きながら帰っていった。参考になっただろうか?ラウンジに行く途中、江宮の工房によると、利根川と打ち合わせしていた。机の真ん中には建物の模型みたいなのが置いてあったので、聞いてみた。


「打ち合わせ中にごめん。それって何だ?」

 利根川は振り返って得意そうにこたえた。

「私の新しい工房よ。江宮君にパースを作って貰ったの」


 設計図を起こすのも大変なので、模型を作ることにしたらしい。近寄ってみてみると、大部屋が二つと小部屋が四つあった。

「大部屋の一つは研究室、もう一つは資料室、小部屋は四つとも醸造室よ」

 打ち合わせは長引きそうなので、部屋に戻って木っくんとブラックパールと遊んだ。まあ木っくんはじっとしているだけだが。


 早めに風呂に入って食堂に行くと、浅野と野田と伊藤が練習リハーサルしていた。浅野の手元でキラキラ輝くのは・・・タンバリンだった。

「70年代やるのならこれが無いとね」

 浅野によると70年代の音楽にはタンバリンは必須らしい。見た目も可愛くてきれいだし、音も派手で明るくて良いかもしれない。


 今日の晩御飯はうどんの丼を使った巨大な茶わん蒸し、即ちごちそう茶わん蒸しだった。魚・エビ・カニ・貝・すり身・ささみ・各種野菜を出汁をたっぷり含んだ卵でとじてある。栄養たっぷりで胃にも優しいのが嬉しかった。先生がスプーンを一杯一杯味わうようにゆっくり食べていた。


 デザートはアズキがたっぷり入った水羊羹だった。夏の暑さを和らげてくれるスイートでクールなお菓子だった。遅れて入って来た木田と浅野によると、孤児院の制服の試着はうまくいったそうだ。多少の問題はあったが、その場で全部手直ししてきたとのこと。よって徹夜対策のユンケルは必要ないみたい。流石だな。

 

 いつものようにお供え用に一人前貰っていると、平野が話しかけてきた。

「差入れの調理が始まったよ」

「何個できた?」

「197個。まあまあかな」


 部屋に戻って窓枠にお供えを並べる。今日は白いガスパチョ・ドリア・梅酒のジェラート・ごちそう茶わん蒸し・水羊羹の五点だ。「美味うまし!」の声と共にペタン・ペタン・ペタン・ペタン・ペタンという音が響いた。

川の浚渫までやるなんで流石にやりすぎな気もします。

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