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第295話:王家の依頼1

 まずは鍛冶ギルドとの交渉は無事に終わったことを伝えると、伯爵は大きく頷いて礼を言った。そして勿体付けることなく話してくれた。

「この巻物は先日、メアリー侍女長からお伝えしました王家からの依頼でございます。番号が振ってありますが、優先順位ではございません。皆様のご助力が可能なものが無いか、何卒ご検討頂けませんでしょうか」


 うやうやしく差し出された巻物を羽河が受け取った。中に書いてあったのは・・・。

1.干ばつの対策

2.トリヒドの捜索と捕獲

3.下水処理場跡の再開発

4.誘拐事件の捜査

5.西門横の工場跡の再開発

6.特産品の開発

7.暖房器具の開発

8.肥料の開発

9.軍の行進曲の作曲

10.軍用嗜好品の開発

11.北の飛び地の訪問

12.国境の砦の慰問


 俺は羽河と顔を見合わせてから幾つか質問した。

・2の「トリヒド」って何ですか?

→ネーデルティア共和国から入手した良質の油が取れる食虫植物です。背丈は人間より高く、三本の根を足代わりにして歩行します。茎の最上部には大きな花があり、花の根元から三本の鞭のような長い触手が生えています。触手には鋭い棘が生えており、麻痺毒を分泌しております。倒した小動物の上に移動して根っこから消化吸収します。

 黒の森近くの専用の農場で昨年から数十本、試験栽培しておりました。危険な植物なので、鉄の首輪と鎖で動かないように固定していたのですが、先月全て脱走しました。世話をしていた農奴の半分は惨殺され、残りは行方不明です。恐らく襲われて食われたものと思われます。


・4の「誘拐事件」とは?

→きちんと調べた訳ではないので詳細は不明ですが、王都では理由や原因の類推すらできない行方不明者が毎年数十人ほど出ております。犯罪に関しては我々よりも詳しい裏のルートを使っても犯人どころか誘拐された理由すら不明で、煙のように消えた、神隠しにあったとしか考えられません。犯人を捕まえ、行方不明者を救出して頂けませんでしょうか?


・5の「再開発」とは?

→王都の西門の脇には昔大きな紡績の工房が幾つも立ち並んでいたのですが、水や廃水の問題があって軒並み郊外に移転しました。跡地を再開発しなければならんのですが、景気が停滞しているため、いまだ手を上げる者がおりません。

 このままでは一帯がスラム化する可能性がございますが、相応の規模を持つ新しい産業が見当たらず苦慮しております。何か良いお考えはないでしょうか?


・7の「暖房器具」は既にあるのでは?

→グラスウールの冬は厳しく、11月半ばには雪が降ります。経済的に余裕があれば薪を使った暖炉やストーブ、あるいは火の魔石を使った魔道具で暖房するのですが、貧民にはその余裕がありません。凍てつく夜を一家四人がろうそく一本で耐えることも珍しく無いのです。毎年百人ほど、寒さが厳しい年には数百人の凍死者が出ることもございます。またその弊害として冬場は貧民街を中心に火事が多発します。安価で安全な暖房器具を考案していただけませんか?


・9の「軍の行進曲」とは?

→先日、来年の三か国の合同軍事演習に備えて軍用の戦闘糧食を開発して頂いたのですが、軍事演習の行事の一つとして陛下をお迎えしての観閲式かんえつしきがございまする。王都の大通りを各国の精鋭部隊が行軍するのですが、その際に随伴する音楽隊が演奏する行進曲を新たに作っていただけませんでしょうか?我が国の曲は古式蒼然としておりましてな、評判がよろしくないのです。


・11の「北の飛び地」って何ですか?

→我が国とハイランド王国はデホイヤ山脈を境に南北に分かれているのですが、実はハイランド王国の中に我が国の飛び地がございます。大地溝帯の東を流れるオロノフ川が北の海に注ぎ込むトンチンカン湾一帯ですな。

 川以外は荒海と切り立った山々に囲まれた盆地のような土地でございまして、ハイランド王国が我が国から独立した際も、我が国の旗を守り抜いた土地でございます。その後、ハイランド王国と度重なる交渉の末、四年に一回訪問することを認めさせました。

 今年が訪問の年に当たるのですが、使節団に参加して頂けませんでしょうか?勇者様方がお越しになられますと民の士気が上がり、ハイランド王国にも一定の示威効果があると思われます。民を安堵させるためにもご協力いただけませんでしょうか?


・12の「国境砦」って何ですか?

→三年前に第一王子が王位継承を確立しようと独断で軍を動かし、ハイランド王国に攻め入りました。銀山の獲得が目的だったのですが逆襲にあい、逆に国境の城を一つ失ったのでござる。

 現在は一つ手前の城に兵を集めて敵の侵略を阻止しておりますが、長期間の緊張状態が続く故に体調が悪化する兵が続出しております。苦しむ兵のためにどうか慰問に来ては貰えませぬか。扇の要に当たる砦でございまして、もしあそこを失うと、戦略的に相当の痛手でございます。


 俺は再び羽河と顔を見合わせた。羽河は黙って首を振った。そうだよな。俺は伯爵に言った。

「分かりました。まずは一度検討させてください。それからの返事で良いですか?」

「もちろんですとも。よろしくお願いしますぞ」

 伯爵は真面目な顔で頭を下げた。


 羽河が巻物をしまうと、伯爵はようやく顔を緩めた。使者の役割を無事果たしたということだろうか。俺は言った。

「なんとかなりそうなものもありますが、何をどうしたらよいか、皆目見当もつかないものもありますね」

「さようですか。本音を言うと9と10と12をなんとかして欲しい所ですな。特に12は急務でございます」


 豪快に笑う伯爵が少し憎たらしかったので、ダークスパイダーが馬車の作業所を警備することを伝えると一気に顔が青ざめた。なんだかかわいそうになったので、作業所の隣に新しくお酒の実験プラントを作ることを話すと笑顔で帰っていった。


 俺と羽河はそのまま会議室に残って頭を抱えた。とりあえず難易度で分類すると、

・難易度低:6、7、8、9、10

・難易度中:3、5

・難易度高:1、2、4、11、12

 こんな感じだろうか。続きはお昼ご飯を食べながら皆と相談することにしよう。


 食堂に行って普段はあまり使われていない隅のテーブルを確保すると、生活向上委員会のメンバーを集めて王家の依頼について相談した。ランチミーティングだ。ひき肉と野菜を炒めた具をメインにしたドリアを頬張りながら、工藤が聞いた。


「難易度の判定基準は?」

 羽河が血のように赤いトマトジュースを飲んでから答えた。

「やったことがあるもの、やったことはないけどできそうなものが低、やったことはないけどなんとかなりそうなものが中、明らかに困難なもの・危険が予想されるもの・やり方の目安もつかないものが高ね」

「3の下水処理場跡の再開発と5の西門横の工場跡の再開発は目途がついているんだな。根拠を教えてくれ」


 工藤の質問には俺が答えた。

「3は大ナマズの養殖を考えている」

えさは?」

「処理場のプールの周りにぐるっとアズの木を植えて、その実を餌にする」

「なるほど・・・。課題は?」

「外壁だな。少なくても高さ五メートルの頑丈な石壁をプールの周りに作らなければならん」

「そんなの志摩に頼めばすぐできるだろう?」


 志摩は顔をしかめて首を左右に振った。

「でけん・・・。あのプールの大きさを考えると、防壁の直径は百メートルは必要だろう。それも三つ作るとなると俺の手に余る」


 俺も頷いて付け加えた。

「そうだ。効率的な石壁の建築方法を考えなければ無理だ。それにどうせやるなら、公共事業的な、つまり雇用が発生するようなやり方にしたい」

 石壁の作り方については志摩と江宮を中心に考えることにした。工藤は続けて聞いた。


「西門横の工場跡の再開発は何を考えているんだ?」

「団地を作りたい」

「団地ってなんだ?」

「文字通りだよ。おそらくこの世界初の集合住宅だ。間取りは二部屋が基本で、シャワー室・洗面所・台所・トイレは共同の五階建を想定している。屋上は洗濯場と物干しに使用するつもりだ。シェアハウス的に使ってもいいと思う」


 みんな驚いていた。志摩が聞いた。

「分譲?賃貸?」

「もちろん賃貸だ。低所得者向けに出来るだけ安く提供したいと思う」

「五階建てか・・・エレベーターは?」

「無い」


 みんなため息をついたが反対意見はなかった。水野が聞いた。

「運営はどこがやるの?」

「新たにギルドを作るしかないだろうな」

「団地ギルド?」

「まあそんな感じ」


 再び工藤が聞いた。

「工場の跡地と言えば相当広いだろう?団地だけで足りるのか?作りすぎて余っても問題だぞ」

 俺は首を振ってこたえた。


「大丈夫。団地の隣にある施設を作ろうと思う」

「何だ?勿体付けずにさっさと言えよ」

「遊園地だ!」


 思わず歓声が上がった。回りから注目を浴びたので、俺は手の平を下に向けて抑えろのポーズをしてから説明した。

「ネズミーランドを作る訳じゃないからそんな期待するな。遊具を置いた公園を想像してくれ」


 みんなはがっかりしながらも同意してくれた。利根川が聞いた。

「遊具は何を置くの?」

「基本的に動力や電気を使わないものだな。砂場・鉄棒・シーソー・滑り台・ブランコ・ジャングルジム・雲梯うんていとか。きっとブランコが一番人気になると思う」

「ジェットコースターは?」

「無い。今後の検討課題だな」


 利根川が沈んだ声で嘆いた。

「砂場・鉄棒・シーソー・・・小学校?地味すぎるわ」

 俺は言った。

「敷地が許せば高さ三メートルのグラスウール山も作ろう。トンネル付きだ。ミニ迷路も考えていいぞ」

 利根川が何も答えなかったので続けて言った。

「その代わり入場料は安くする。銅貨一枚でどうだ?」


 利根川がびっくりした顔で叫んだ。

「金取るの?」

 俺は大きく頷いた。

「もちろんだ。俺たちからするとしょぼく見えるけど、この世界では結構画期的だと思うぞ。それに製造費や維持・管理費を考えると無料は無理だ」

またまた新しいプロジェクトが始まりました。魔王討伐はどうなるんだ?

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