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第293話:まとめてプレゼン2

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 江宮は立ち上がって一礼するとプレゼンを始める前に、手に持った小さな機械の説明を始めた。

「これは魔力計です。接続された機械に含まれた魔石の種類・最大魔力量・現在魔力量を計って、魔石ごとに種類と現在の魔力量を表示します。今後発売するすべての魔道具に追加したいと思います」


 江宮が魔力計をトースターの上に置くと、細長い魔力計の一番端が〇の形で赤く明るく輝いた。

「トースターは火の魔石を使うので、赤の〇で表示します」


 次にマルチボックスの上に置いた。魔力計には赤・青・透明の三色の光がついた。青は□、透明は△の形をしている。

「青は水の魔石を、透明は風の魔石を表します。マルチボックスは水・火・風の魔石を使うので、三色で表示します。魔石に含まれる魔力が減るに従って光は暗くなります。魔力の残量が一割を下回ると点滅するようになっています」


 ジョージさんは唸るように聞いた。

「細かいことですが、魔石の判別は色だけで十分と思うのですが、なぜ〇とか△とか形も異なるのでしょうか?」

 江宮は笑顔でこたえた。

「種族や障害によっては色の判別が困難なことを想定しました」


 俺も内心で感心していた。文字を使わずに直感的に判断できるとは、ユーザーインターフェース魂のかがみだ。俺の賞賛の視線を感じたのか、江宮は自慢そうに呟いた。

「SE30(サーティ)のアクセラレータ付きを持っているんだ」


 江宮がMacオタクであることが分かった。SE30とはMacintosh Plusよりもある意味渋いような気がする。なぜか分からないが負けたような気分。まあそんなことはどうでもよい。


 ジョージさんは大きく息を吐くと感心したように言った。

「魔道具はそれなりの歴史があるのですが、今まで誰も残存魔力量のことなど考えもしませんでした。確かにこれがあれば、魔石の交換時期を前もって予想することができます。魔力計単体でも製品化する価値があると思いますぞ」


 江宮は笑顔で頷いた。

「既存の魔道具に追加しても活用できると思います」

 ライセンスする製品が一つ増えてしまった。まあいいか。


 江宮が特に力を入れて説明したのは、扇風機、マルチボックス(大・小)、携行型エアコン、温度計付き沸騰型魔法瓶、目覚まし時計、網戸、蚊取り線香だった。説明の概要は以下の通り。


・扇風機:風の魔石を使っています。部屋の隅々まで風を送れる首振り機能付きです。

・マルチボックス:蓋・側面・底全てが二重になっており、内部を冷凍・冷蔵・保温した状態を維持したままで持ち運ぶことができます。大きさは二種類用意しました。水・風・火の魔石を使います。

・携行型エアコン:扇風機は送風だけですが、エアコンは冷房と暖房が可能です。持ち歩きが可能なので、人がいる部屋だけで使うこともできるし、馬車や仕事場に持ち込むことができます。水・風・火の魔石を使います。

・温度計付き沸騰型魔法瓶:マルチボックスと同じく全面二重構造です。水を沸騰させ、そのまま保温することができます。逆に冷やすこともできます。さらに自動で水を補充することもできます。温度計が付いているので、茶葉に最適な温度かどうか目で確認することができます。水・風・火の魔石を使います。

・目覚まし時計:現在時刻を表示するだけでなく、指定した時刻にベルを鳴らすことができます。魔石は使用しません。動力はゼンマイを使用しています。時計については別途、腕時計を計画していますが、貴族向けの高級路線でいくか、軍人や冒険者向けのミリタリー路線でいくか、あるいは腕時計に至る中間的な製品として懐中時計にするか検討中です。

・網戸:窓から虫が入ってくることを防ぎます。夏場に窓を開けたままでいたい時に最適です。当然ですが魔石は使用しません。

・蚊取り線香:殺虫成分を含む線香を渦巻き状に成形したものです。最大で約二時間燃焼し、殺虫効果のある煙を出し続けます。蚊が媒介する病気を防ぐことができるので、夏場に網戸とセットで使うことをお勧めします。これも魔石は使用しません。


 プレゼンが終わると、ジョージさんは呆然としていたが、両手で頬を叩いて気合を入れると、製品を触ったり手で持ったりして質感・重さやサイズ感を確かめていた。さらに、携行型エアコンや温度計付き沸騰型魔法瓶を動かして感嘆していた。ジョージさんは俺の顔を見て言った。


「私はいつにもまして感動しております。単に機能が素晴らしいというだけではありませんぞ。複数の魔法を適切かつ自在に組み合わせる先進性、洗練されたデザイン、使う人のことを考え抜かれた分かりやすさ・使い勝手の良さ、あらゆる意味でこれまでと次元の異なる魔道具と言えます」


 俺は江宮の顔を見た。江宮は苦笑いしていた。まあ気持ちは分かる。ほとんどが現代日本にあった家電製品のパクリみたいなものだからな。いくら大げさに褒められても、ちっとも嬉しくないのだ。

 しかし・・・魔法と科学のハイブリッドとも言える江宮謹製の魔道具は、ある意味で現代の家電よりも便利かもしれない。そう考えると、魔法ってやっぱり凄いな。


 ジョージさんは続けて言った。

「お二人はこの世界の人間にとってこれらの製品がどれほどの価値を持つかお分かりにならないのかもしれませんな」


 確かにそうかもしれない。沈黙することで同意した俺たちにジョージさんは聞いた。

「私にしたらどれも素晴らしい製品に見えるのですが、この中で特におすすめの製品はどれでしょうか?」


 俺たちは顔を見合わせてから、江宮は網戸を、俺は蚊取り線香を指さした。するとジョージさんは首を傾けながら聞いた。

「予想外です。どちらも魔法を使わない道具ですが・・・」


 江宮が俺の顔を見たので、頷いた。

「都市が滅びる要因はいろいろあります。他国との戦争、異民族の侵略、大規模な火災、地震や水害を始めとする自然災害、干ばつ、食料不足による飢饉などですが、感染症つまり疫病は人口が増えれば増えるほど危険性が高まります。網戸と蚊取り線香は病害虫による病気の予防に効果があると思います」


 江宮の説明を聞いてジョージさんはあっけにとられた顔をすると、両手を上げた。万歳かな?

「恐れ入ります。私は商人としてしか見ておりませんでしたが、お二人は既に為政者の視点をお持ちなのですな。感服しました。全てサンプルとしてお預かりした上で、契約の手続きに入りたいと思います」


 もちろん俺たちに異存はない。ジョージさんは予備のマジックボックスまで使って全て収納した上で、魔法コンロ・魔法ロースター・食洗器の契約書の雛形を渡してくれた。後は羽河に任せよう。ジョージさんは笑顔で帰っていった。


 契約書の雛形を羽河に預けてから部屋に戻ると異変を感じた。誰かがいる・・・。緊張しながら回りを見渡すと、木っくんの鉢の陰から登場したのは・・・二等身のSD雪女だった。か、か、可愛いけど・・・。


 俺は思わず言った。

「おかしいな。冬梅しか見えないはずだが」

 SD雪女はにんわり笑うと宣った。


「先だってお主から手渡しで皿を受け取ったからな。名残雪ほどの細いきずなであったが見事繋がったようだ。流石、我が妖力!たにやまよ、我を褒めよ讃えよ」

 なぜ褒めなけなければならないのだ?俺は疑問を感じながらも頭を下げた。

「流石は雪女様にございます」


 雪女は満面の笑みを浮かべながら告げた。

「うむ、苦しゅうない。あの氷菓子が我を呼んでおるのじゃ。至急手配せよ」

 呼んでいるのはお前だろうと思いながら、アイテムボックスのおやつフォルダの中に入っているバニラアイスを全部渡した。十人分位あるだろうか。


「恐れ入ります。バニラアイスはこれで全部でございます」

 雪女は満足そうな顔で受け取ると、笑顔を見せた。

「大儀である。既に用意済みとは流石たにやまよ」

 お褒めの言葉をいただいたので、頭を下げた。一呼吸して頭を上げた時には雪女は消えていた。なんて奴だ。


 今日の晩御飯はチーズフォンデュだった。削ったチーズを鍋に入れ白ワインで溶かしてる。パン・肉・魚・カニ・エビ・各種野菜を食べやすい大きさに切ったものを串にさし、チーズに浸して食べる。各テーブルごとに魔法コンロが置いてあるので、自分の好きな具を自分のペースで食べられるのが良かった。まあ肉ばっかり食ってるやつもいたが。


 魔法コンロについて江宮に聞いたら、改良を重ねる段階で複数作った試作品を平野が全部保管していたそうだ。素晴らしい。これで冬になったら鍋物が楽しめそうだ。みんなで一つの鍋を囲むことに先生が慣れていないようだが、まあなんとかなるだろ。


 デザートが出るタイミングで羽河が立ち上がった。

「千堂君の交通事故を減らす原案をもとに水野君がまとめた防火・防犯・防疫に配慮した安全で清潔で快適な都市計画の原案が出来上がったので、概要を発表します。問題が無ければミドガルド語に翻訳して王家に献上します」


 おお!というどよめきの中、羽河に指名された水野が都市計画の概要を読み上げた。その中で俺が気になったのは以下の通り。

1.交通法規を制定することによって交通事故を減らす。具体的な施策としては、

・主要な道路にはセンターラインまたは中央分離帯を設置する。

・馬車は左側通行を原則とする。

・主要な交差点は手旗信号によって交通整理を行う。また横断歩道を設置する。

・乗合馬車用の馬車停を歩道を削って設置する(現在は適当)。

・将来的には馬車を登録制にしてナンバープレートを付けるようにする。

・交通法規に著しく違反する場合は、何らかの罰則を課す。

2.新たに保健所を制定して保健衛生の啓蒙に努める。

3.新たに消防署を設置して大火事を防ぐ。

4.新たに交番を複数設置して、各担当地区を定期的に巡回し犯罪者を取り締まる。

5.公衆トイレを増やす。新たに堆肥センターを設置し、糞尿を積極的に回収して堆肥化する。

6.上記の活動を行う組織として新たに「衛士」という職種を制定する。

7.共同トイレ・共同シャワー室・共同炊飯所付きの衛生的な賃貸アパートを同一規格で大量に作り、人民に安価で提供する。

 

 警察と保健所と消防と堆肥作りを行う衛士ってなんか凄いな。公務員になるんだろうな。7は公団または団地?水野の発表が終わるとみんな大拍手だった。羽河に促されて千堂・志摩も立ち上がったので、みんなでもう一度拍手した。


 今日のデザートはイチゴのロールケーキだった。甘く柔らかい生クリームと甘酸っぱいイチゴの組み合わせが最強だった。


 部屋に戻ると窓枠にお供えを並べた。今日はガスパチョ・ローストビーフバーガー・緑茶のジェラート・チーズフォンデュ・イチゴのロールケーキの五点だ。「美味うまし!」の声と共にペタン・ペタン・ペタン・ペタン・ペタンという音が響いた。

衛士や新設の役所はどこの所属になるんでしょうか。王家?軍?議会?ギルド?

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