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第273話:王女様来襲4ー1

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 先触れの声に続いて王女様は侍女四人と護衛の騎士を六人引き連れて登場した。新雪のように白い生地に薄い青と紫色の花柄のレースをあしらったシックなドレスだった。非公式の訪問のはずだが、頭の上で燦然と輝く銀のティアラに王家の威厳を感じた。


 侍女の中にはメグさんが、騎士の中にはユニックさんがいた。メグさんはいつも通り少し疲れた風だが、ユニックさんは飄々(ひょうひょう)としていた。慣れているのかもしれない。王女様は挨拶もそこそこに話を切り出した。


「まずは洞窟地帯の修練が無事終了したこと、そして皆様のレベルが60にアップしたことを心からお祝いします。皆様の類まれな素質と努力の賜物ですわ。ゾンビドラゴンと正面から戦い見事討ち取ったのに誰一人怪我することもなかったとは、流石は勇者様方でございます。その報告の中で元魔王のくだりを聞いて、いてもたってもいられなくて押し掛けてまいりました。突然の来訪をお許しください」


 羽河は深くお辞儀すると、少し硬い声でこたえた。

「まずはご心配をおかけしたことを深くお詫びします。また、私たちをいつも気にかけて頂き、三年三組一同深く感謝しております。元魔王の件は晩餐の席で詳しくお話しさせて頂きます」


 王女様が頷いたので、そのまま食堂にご案内する。生活向上委員会のメンバーをはじめ、中原を除く全員が揃っていた。王女様がお誕生日席、王女様の左隣には浅野(妹席?)、その隣には先生、王女様の右隣には毒見役を兼ねてユニックさんが座った。羽河は先生の隣、俺はユニックさんの隣に座った。


 伊藤がギターをもって歌い出した。一曲目はストーンズの「悲しみのアンジー」だった。王族を招いた席にふさわしい曲とは思えないが・・・。メグさんを除く侍女さんたちが飲み物と前菜をもってきた。「毒は入っていません」というユニックさんの言葉で晩餐会が始まった。


 乾杯が終わると先生がサイレントの魔法をかけた。この先魔法を解くまでこのテーブルで話したことは、テーブルの外に伝わらないそうだ。ただし、外からの音は自由に聞こえるので、内外の音を完全に遮断する結界系のサイレントとは違うみたい。流石は先生!


 羽河がゾンビドラゴンを討伐した後、元魔王と名乗る男に拉致された時からの一連の流れを淡々と説明すると、王女様は深く頷いた。そのまま少し考え込むと羽河に聞いた。


「大変興味深い話でした。皆様は元魔王と名乗る男の話を信じますか?」

 王女様はいきなりストレートをど真ん中に放り込んできた。俺は思わずむせそうになったが、羽河は落ち着いて答えた。


「信じません。何の証拠もありませんので。ただし、人間族が勇者を召喚するから魔王を発生させるという彼の主張は大変興味深いと思いますし、可能性としてもありうると思います」

 王女様はにこやかに微笑んだ。微笑んでいるのに冷凍庫に入ったような寒気を感じるのはなぜだろう?王女様は問いかけた。

「勇者の召喚が魔王発生の原因であるというのですね。それで皆様はどうされるのですか?」


 羽河も微笑んでからこたえた。

「あの男が何を言おうと関係ありません。私たちは魔王を倒し、私たちの世界に還ります。それだけです」

 王女様は何度も頷いた。

「ありがとうございます。安心しました。理想的なこたえですわ」


 先生もユニックさんも大きく頷いていた。次に質問されたのはミノタウロスのことだった。俺から説明した。

「強敵でした。冬梅が召喚した牛鬼が相性が良かったので助かりました。あの男によると、ミノタウロスは魔王が送り込んだとのことです。湖沼地帯のキングスライム、山岳地帯のジャイアントゴーレムもおそらくそうだと。配下に転移魔法に長けた者がいるのでは、と言っていました」


 王女様は右手を固く握りしめながらこたえた。顔が引きつっているように見える。

「分かりました。すでに魔王との戦いは始まっているのですね。今後の鍛錬についてはさらなる注意が必要なようです」


 王女は強張った笑顔を浮かべると、ほがらかに聞いた。

「ゾンビドラゴンとの戦いのさなかで中原様が黒龍バハムートを召喚したと聞きました。前代未聞の偉業でございます。黒龍がいれば魔王など恐るるに足りませんわ」


 俺は首を振りながらこたえた。

「あれは絶体絶命の追い詰められた状況で生まれた大まぐれというか奇跡です。バハムートは消滅しましたし、二度と同じことができるとは思えません」


 神話や伝承の世界ならまだ分かるが、ゲームの世界からの召喚なんてありえないだろ。王女は中原と直接話がしたいと言ったが、バハムートが残したっぽい卵をかえすことに集中しているので、手が離せないことを説明してあきらめてもらった。


 丁度鮎に似た魚の天ぷらが運ばれてきたので、洞窟の最深部の地底湖で取れた魚であることを説明すると喜んでくれた。微力だが魔力を感じるそうだ。

 その後は洞窟地帯で披露したオリジナルの新魔法について説明した。王女様は興味深そうに聞いた。ホワイトルームとアース・ウインド&ファイヤーについては質問を受けた。


「二つ以上の魔法を同時に行使することは高位の魔法使いでないとできないと聞いております。いくら大地のアンクレットの補助があるとはいえ、三つの魔法を同時に操る志摩様は大魔法使いですわ。また利根川様と佐藤様も結界魔法・アイテムボックス・火魔法を連携を取りながら一つの魔法に組み上げているのですね。お二人の深い信頼関係のなせる業ですわ」


 王女様のお褒めの言葉を聞いて志摩は照れたように頭を下げた。利根川も顔を赤らめて喜んでいたので、すかさず「先生のご指導の賜物です」と付け加えた。先生が満更でもない顔でエールをあおった。なんとかなったかな。


 今日のメインは洋風のちらし寿司だった。酢飯の中にサイコロ状に切ったローストビーフ・厚焼き玉子・焼いたベーコン・チーズの角切りが味付けした色とりどりの野菜と一緒に入っている。

 大葉のような香りの野菜もたっぷり入っているので見た目も華やか、食感も香りも楽しめるごちそうだった。原色の食用花の花びらが散らしてあるのが華やかだった。


 一口食べた王女様の頬がほころんだ。

「おいしいですわ。これは何のお肉でしょうか?」

 挨拶に来た平野が答えた。

「鬼熊のローストでございます」


 王女様は納得して頷いた。

「味も素晴らしいですが、まるでお花畑をいただいているかのような見栄えも素晴らしいですわ。」


 食事が終わってデザートが出るころ、浅野コールが起こった。締めの一曲という感じなのだろうか?困った顔の浅野に王女は優しく頷き、ステージを指さした。浅野は立ち上がり王女様に深くお辞儀するとステージに上がった。


「みんなありがとう。それでは一曲だけ」

 曲はデビッド・ボウイのHeroesだった。サビの「僕たちは英雄になれる、一日だけなら」というフレーズが頭に残った。もちろんアンコールがかかった。浅野が王女様を見ると王女様は笑顔でゴーサインを出した。


 浅野はステージで大きく一礼すると、指を一本立ててから歌い出した。一曲だけという意味だろう。オール・セインツ(ALL SAINTS)のBlack Coffeeだった。確かスパイス・ガールズと同時期に活躍したイギリスの四人組のガールズグループだ。


 スパイス・ガールズのやんちゃでポップでパワフルなノリの良さと違うクールで大人でブラコン的な音楽性に特徴があった。一言でいえばスパイス・ガールズはアイドルだが、オール・セインツはアーティストというかスパイス・ガールズよりもっと上の年齢層をターゲットにしていたような気がする。


 一曲目の高揚と興奮を二曲目で見事に鎮め、拍手を浴びながらステージから降りてきた浅野に王女は声をかけた。

「私も女王になれるのかしら。それにしてもカオルもあのような恋の歌を歌えるのですね。素敵でしたわ」

「ありがとうございます。お姉さま」


 今日のデザートはきんつばだった。日本で食べていたサイズより一回り大きめだった。できたてみたいでまだ暖かい。白い求肥ぎゅうひっぽい皮に包まれた黒い餡子は甘さ強めで緑茶っぽいハーブティーにぴったりだったが、歌のせいかちょっとコーヒーが飲みたくなった。王女様はきんつばをナイフで上品に切り分けながらすました顔で聞いた。

「最後にお聞きしますわ。元魔王のもう一つのお願いについてはどうなさるのですか?」

王女様も安心したようです。それは良かったのですが、最後の質問にどうこたえるのでしょうか?Black CoffeeはPVもかっこいいのでお勧めです。

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