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第267話:洞窟地帯20

 お供えが終わってしばらくすると洋子たちが帰ってきた。皆が寝静まってから俺は起きた。頭上には少し端が欠けた銀の月が光っている。焚火の所に行くと、俺と同じように眠れなかった奴が集まっていた。メンバーは志摩・浅野・木田・羽河・利根川・佐藤・水野・工藤・江宮だった。生活向上委員会とほぼ同じメンツだ。


 議題はもちろん元魔王のことだ。だがその前に確認しておきたいことがある。

「伯爵とイリアさんはどうしてる?」

 工藤がこたえた。

「小山さんが監視しているけど、伯爵は泥酔して熟睡している。イリアさんは他の教会組と激論しているそうだ」


 気になったので聞いた。

「教会の連中は何を話しているんだ?」

 工藤は顔をしかめながら答えた。

「夜神と俺のことだな。夜神はグールに拝礼されたこと、そして俺は仏教のことが問題になっている。打ち上げの時に仏の教えを話したことがまずかったみたいだ。念仏のことを説明するとどうしてもそっちの話が出てしまうんだよな」


 俺は納得した。どっちも確かにまずいかも。

「どうなるんだ?」

 工藤は頬を掻きながら憮然とした顔でこたえた。

「中世の魔女狩りや宗教裁判を参考にすれば、夜神は魔王と疑われる可能性があるし、俺は異端あるいは異教徒に見られる可能性がある。最悪、夜神は処刑、俺も処刑または国外追放だな」


 俺はつばを飲み込んでから聞いた。

「あくまで最悪だよな?」

「そうだ。現実的には、魔王を討伐するまで人里離れた山中に幽閉される可能性が高いと思う。仮に俺たちを殺したら、お前たちも黙ってないだろうし、魔王討伐が失敗する危険が高まる。そうなったら、目も当てられないからな」


 幽閉か・・・。ていの良い監禁だな。でも、無力化したうえで常に監視下に置くにはそれしかないかも。俺たちの意見は決まっている。もしも夜神や工藤に何らかの制限あるいは処分を下そうとしたら、断固反対することにした。


「それにしてもグールは何で夜神を崇めるんだろう?」

 江宮の疑問にこたえたのは羽河だった。

「おそらく夜神さんは理由を知ってると思う。でも同時にそれは話したくないみたい。夜神さんが話せるときまで待つべきよ」

 皆黙って頷いた。


 次の議題はあのとぼけた元魔王だ。

「あの野郎は信用できると思うか?」

 俺の問いかけにみんな黙り込んだが、水野がおずおずと手を上げた。

「あの男が話したことが本当かどうか誰も分らないし、調べることもできないと思う。だからあいつが信用できるかどうかはひとまず置いといて良いんじゃないかな」


 羽河が静かに聞いた。

「どうして?」

 水野は言葉を選ぶようにしながら返事した。

「真実を調べようとすると、王家やこの世界にとって都合の悪い事実がいろいろ出てくるんじゃないかな。それどころか調べようとすること自体が僕らの立ち位置を悪化させる可能性があると思う」


 江宮が皮肉気に言った。

「臭いものには蓋、ということか?」

 水野は首を振りながらこたえた。

「というよりはキジも鳴かずば撃たれまい、あるいは好奇心は猫を殺す、の方が正解かも」


 沈黙の中で水野は続けた。

「あいつが俺たちに望んだのは、魔王を倒すこと、魔王を倒したら速やかに帰還すること、出来れば貴族制を維持したままで社会を発展させることだった。僕たち生活向上委員会の活動はこの社会を発展させることにつながるから、とりあえず現状維持で良いんじゃない?」


 全員の拍手で臨時会議は終了となったが、元魔王が言っていた貴族制を維持したまま社会を発展させるための具体策について引き続き話し合った。方向性は同じでも各自の理念や理想の違いが分かって面白かった。


 関連して俺たちが稼いでいる金の使い道について相談した。

「実は使い道が無くて貯まるばかりなんだ。夏祭りで一気に使ってしまおうとしたんだが、なんだか金のかからない方向に行っていて困っている。いっそのこと貧民救済を兼ねて公共事業に投資するのはどうかな?」


 水野が手を叩いて真っ先に賛成してくれた。まあリサイクル事業を立ち上げたもこいつだしな。利根川が不満そうな顔をした以外は誰も反対しなかったので、同意は得られたと考えよう。

今後の方針が固まったようです。

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