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第261話:洞窟地帯14

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 全員が3B1の転移点に入り羽河が転移の呪文を唱え始めた。みんなは笑っていたが、俺は頭のチクチクでそれどころではなかった。血が出るんじゃないかと思うほど痛かったので、羽河を止めようとしたが間に合わなかった。転移が始まった。


 自由落下しているような感じと白い光が爆発したのはいつも通りだが、途中から鳥肌が立つような違和感が感じられた。まるでジェットコースターのレールが強制的に切り替わったような感じ。


 それでも転移は無事終わったが、転移後に俺たちが立っていたのは1F1ではなかった。中途半端な笑顔を張り付けたままで回りを見回すが、そこはいつもの洞窟ですらなかった。


 俺たちがいたのは床も壁も天井も全て真っ白で、縦横三十メートル・高さ五メートルほどの真四角な部屋だった。足元には転移点のエリアを示す黄色い線と、END01という文字が書いてあった。


「ようこそ、三年三組の諸君」

 突然声をかけられて、俺たちは飛び上がるほど驚いた。振り返ると、そこには身長一メートル位の少女が、いや少女の形をしたゴーレムがいた。どうしてゴーレムと思ったかというと、頭のてっぺんからつま先まで、それこそ瞳の色まで真っ白なのだ。保護色みたいになっているので全然分からなかった。


「突然の招待で恐縮だが、話がしたい。決して危害は加えないし、終われば全員無事に帰すことを約束する。ついて来られよ」

 少女は見かけに合わない渋くて低い男の声で続けた。生気の無さといい、違和感が半端ないぜ。


「なおこの部屋の転移点は受信専用だ。発信はできない」

 少女の言葉を聞いて、羽河が詠唱を止めて舌打ちした。どうやら再転移して逃げることはできないようだ。


 少女の後ろで壁が静かに動いて、扉が開いた。少女は俺たちの返事も聞かずに、こっちに顔を向けたまま後ろ歩きを始めた。俺たちは顔を見合わせた。どうする?羽河が力強い声で宣言した。

「行きましょう。このままじゃ何も始まらないわ」


 俺たちは覚悟を決めて歩き始めた。少女を追って扉を抜けると幅広の廊下に出た。石膏像みたいなゴーレムの顔を見ながら後に続く。廊下は長かった。長いのは良いが、困ったことがあった。廊下の装飾だ。


 数メートルおきに討伐した獲物と思しきトロフィーが壁に飾ってあるのだが、これが全部人間の首なのだ。ほとんどが男(まれに女)なのだが、仮に作り物だとしても気色悪いことおびただしい。


 気持ち悪さを感じる理由はもう一つある。なぜだか全員(?)目を剥きだしたり、舌を突き出したり、意図的に変な顔をしているのだ。人間を狩猟の対象にする種族が人間の首をはく製にして廊下に飾っているのだろうが、なぜみんな変顔をしているのだ?


 左右を合わせて十人以上の首の前を通り過ぎたところで少女が突然立ち止まった。そして右手を斜め前に、俺たちからすると左側の壁に手を差し出した。すると、音もなく扉が内側に開いていく。


「入りたまえ」

 声は部屋の中から聞こえた。さっきと同じ男の声だった。俺は羽河と顔を見合わせると、先頭を切って中に入った。頭のチクチクは止まった。頭が少し軽くなった。ブラックパールが百パーセントの戦闘態勢に入ったことが分かった。


 予想に反して中は大小のソファ・椅子・テーブルが雑然と置かれたカフェのような大きな部屋だった。少し黴臭かった。そしてその部屋の一番奥に白いTシャツとジーパン姿の男が折り畳み式のパイプ椅子に座っていた。中肉中背でこれといった特徴もないのに、不思議な存在感がある。


 注目して見つめるとそこにいることは認識できるのだが、視線を逸らすと数秒後にはどんな顔をしていたのかさえ思い出せなくなる、そんな感じ。男はぱちぱちと拍手しながら声をかけた。


「今代の勇者とその仲間達、地底宮へようこそ。我は魔族、人間族と敵対するものであり、その頂点に立つ魔王の成れの果てだ。魔王は勇者に討伐されて滅するのが常だが、我は千年以上の前の決戦で相打ちを装い、生き延びることができた。

 それ以来この地の底から世界を俯瞰しておる。故あって名は名乗れぬ。顔の無い男とでも呼んでくれたまえ。ここに客人が来ることは滅多に無いので、礼服の類は持っておらん。くだけた格好で失礼するよ」


 魔王、という言葉を聞いて全員が殺気立った。目に見えそうなほど濃密な殺気が立ち上がり渦を巻いて男を包んだが、男は顔色を変えることもなく言った。

「まず言っておこう。この部屋の中は攻撃的な魔法の発生を抑制する仕掛けが組み込まれている。そちらには室内で真価を発揮する暗殺術のような恐ろしい魔法を持つ者が何人もいるのでな。

 それと我は独り身でな、ゴーレム以外には侍女の類もいないので、何のもてなしもできないが許してほしい。もし手持ちの飲み物があれば、酒でもなんでも自由にやってくれたまえ」


 男の視線が小山・利根川・野田・鷹町の上を動いたのが分かった。どうやら俺たちはずっと監視されていたようだ。男はいったん言葉を切ると横のテーブルに置いてあったカップから一口飲むと思い出したように続けた。

「廊下のトロフィーは片づけておくべきだったな。配慮が足らず申し訳ない。遠い昔の収集物コレクション故にその存在を忘れておったのだ」


 俺は腹に力を入れて話しかけた。

「元魔王が俺たちに何の用だ」

 顔の無い男は俺を見つめながらこたえた。

「ダークスパイダーの主は君か。しっかり抑えておいてくれ」


「あんたが俺たちに危害を加えようとしない限り何もしない」

 天井に張り付いているブラックパールは微動だにしないが、俺の返事を聞いて男は微笑んだ。

「分かった。信じよう。さっきも言ったが決して君たちに危害は加えないし、終われば全員無事に帰すことを約束する」


 俺は近くのソファに座りながらこたえた。

「分かった、信じよう。もう一度聞くが、元魔王が俺たちに何の用だ」

 俺に続いてみんなが適当に座るのを見ながら男は話し始めた。

元魔王は何を語るのか。短くてすみません。

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