第24話:利根川幸の暴走
佐藤解司は靴を履いたままベッドに寝転ぶと深々とため息をついた。
利根川や友人たちから預かった品をラウンジのテーブルに出して、各々全部引き取ってもらったので、今日のミッションは終了したのだが、風呂に入る元気も無いほど疲労困憊していた。主に精神的に。
自分はどこで何を間違ったのだろうか?答えは一つしかない。あの忌々しい黒い騎馬武者のせいだ。いや、その前から火種はくすぶっていた。
利根川は薬草だ、宝石の粉末だ、鉱石だといって、あちこち引っ張りまわすので、ろくに自分の買い物ができなかったのだ。おまけに荷物持ち扱いしやがって・・・。貯まったストレスのせいで、からかってやろうとしたら、真逆の結果になってしまった。
「責任とってね」と言った時の利根川の赤らんだ表情を思い出して、佐藤は震えあがった。やばい、何か決定的に間違ったことをした気がする。
俺は取り返しのつかない事をしてしまったのではないか・・・。考えても考えても何も思いつかない。時間がない、今すぐ誰かに相談しよう。佐藤は焦って起き上がったが、既に遅かった。
ドアを誰かが叩いている。佐藤はドアをじっと見つめてからあることを祈りながらノブに手をかけた。利根川でありませんように・・・。
ドアを開けるとバスケットを持った利根川が満面の笑みで立っていた。
「今日はありがとう。二人で乾杯しよう」
佐藤はコクコクと機械のように頷くことしかできなかった。
バスケットの中は利根川お勧めのワインとバケットの薄切り、レバーペーストと角うさぎのパテ、ミニトマト、各種チーズ、茹でたソーセージ、マスタードが入っていた。テーブルにバスケットの中身を広げて小皿とコップをセットしてまずは乾杯だ。
ゴブレットのようなコップしかなく、ワイングラスが無いのが玉に瑕だが文句は言うまい。佐藤はワインを一口飲んだが何の味もしなかった。
利根川は手早くバケットにパテとペーストを一枚づつ塗って、佐藤の皿にも置いたのだが、佐藤の手は動かない。食欲なんかありません。
「しょうがないなあ。甘えん坊さんなんだから」
利根川は何を勘違いしたのか、佐藤の皿からバケットを一枚とるとのたまわった。
「はい、あーんして」
佐藤は言われるがままに口を開けた。まるで生きる屍だ。
利根川は佐藤の口にバケットを突っ込んだ。しかし、佐藤の口は動かない。利根川は覚悟を決めた顔で席を立つと佐藤の膝に座り、バケットの飛び出した半分をかじり始めた。さくさくさくさく・・・順調にバケットは利根川の胃袋に収まっていく。やがて利根川の唇が佐藤の唇に触れた。初めてのキスはレバーの味がした。
利根川は唇を外すと恥ずかしそうにつぶやいた。
「今日、あれ飲んできたんだ。だから中でもいいよ」
佐藤は覚悟を決めたのか、両手を利根川の背中に回した。利根川は満足そうにうなづくと再び佐藤と唇を合わせた。
佐藤君は責任を取るようです。