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第245話:白雪祭り2

 白蛇の頭を下りた浅野が手を上げた。白蛇は不思議そうに尋ねた。

「どうした、鎮めの巫女よ」


 浅野はいつの間にか鎮めの巫女にバージョンアップしていたようだ。

「白雪様、しばらく口を開けておいていただけますか」

「どうかしたか?」

「虫歯があるようです。治療しましょう」


 白蛇は言われるままに口を開けた。止める間もなく浅野は口の中によじ登った。そのまま光魔法をつかっているようだ。治療はほんの数分で終了した。浅野が飛び降りると木田と楽丸がかけよって無事を確認した。大丈夫みたい。


 白蛇は厳かに宣言した。

「鎮めの巫女よ、人が魔物を治癒するとは恐れ入ったぞ。褒美があれだけではわしの気が済まん。受け取るが良い」


 白蛇の黒い舌が唾液でぬらぬらになった何かを浅野に投げてよこした。浅野は表情を変えることなく受け取った。それはアンクレット、足首に巻く輪っかだった。

「大地のアンクレットだ」


「ありがとうございます」

 淺野は早いとこタオルか何かで拭きたかっただろうが、そういう訳にはいかない。白蛇は俺の目を見て言った。

「タニヤマよ。お前達にとって魔物とは何だ?敵か?味方か?」


 こ、怖い。でも逃げたら負けだ。俺はツーフェイスをあしらいながらこたえた。

「敵でもあるし味方でもあります。俺達にとって真の敵は魔王、それだけです」

 白蛇は大きな声で笑った。


「タニヤマよ。魔物を敵と断言しない人間はお前が初めてであるぞ。面白い。何かあれば我がもとに来るが良い」

 白蛇はマッドクラブを全て口中に納めると、そのまま森の奥に引き返していった。


 登場した時と同じズズズズという地響きが遠くになるのを聞きながら考えた。とりあえず誰も怪我しなかったので良かったかな。俺はヘルキャットとヘルハウンドに大蛇肉の燻製を仲良く百キロずつ渡したのだった。


 振り返ると、イリアさんは感激しているようだった。

「カオル様は歌姫であるだけでなく、伝説の巫女の生まれ替わりだったのですね」

 伯爵は度肝を抜かれているようだった。


「空の王に続き、地の王にまたがるとは・・・。それに大地のアンクレットとは・・・」

 伯爵によると、王蛇の別名は地の王とのこと。もちろんS級の魔物なのだけれど、それを酔っぱらわせて頭の上に乗っかるなど、理解不能の行動だったようだ。加えて白蛇がくれたアイテムはかなりの貴重品みたい。


 聞かれたので、今回のミッションについてあらかた説明した。作戦の根幹のアイディアであるスサノオとヤマタノオロチのことを話すと、なぜか感銘を受けていた。

「神話が元になっているのですな。それならば神話と同じく、もっと酔わせて首を落とせば大手柄でしたぞ」


 いやいやいやいや、首落としちゃったら当初の目的を達成できませんので。ちなみに大地のアンクレットは、土系の魔法やスキルの力をすべて倍増とするという凄いアイテムなのだそうだ。


 いつの間にかユニコーンまで姿を現した。浅野にすり寄って子供のように甘えている。俺たちはビーナス象の前に集まって、神殿を借りたことについて改めて感謝した。ビーナス象を見るとなぜか不満そうな顔をしている。


 仕方ない。俺は浅野に頼み込んで、急遽ビーナスにちなんだ歌を一曲奉納して貰うことにした。野田もОkしてくれたので、ピアノもビーナス象の斜め前にセットする。


 とりあえず口上を述べた。

「ビーナス様、お陰で無事白雪祭りを行うことができました。お礼の気持ちを込めて一曲歌を奉納致します」


 終わると同時に野田がぐにゃぐにゃうねる様なイントロを叩き始めた。曲はもちろんショッキング・ブルーの「ビーナス」だ。浅野は元気よくモンキーダンスを踊りながら、歌い始めた。サイケデリックポップぽいな。自由でカッコイイけど、こんなので良いのだろうか?


 原曲のままではおかしいと思ったのか、浅野は歌詞を少しばかりアレンジしていた。基本は英語の歌詞なんだけど、Mauntain top(山のてっぺん)をBotom of the Lake(湖の底)に置き代えたり、I'm your Venus,I'm your Fire・・・のところを「愛のビーナス、愛のファイヤー 燃やして」とアレンジしていた。センスあると思います。


 元々この曲は1969年にオランダのショッキング・ブルーというバンドがリリースして世界的に大ヒット(ビルボード一位。当時はエスニックとかワールドミュージックなんて言葉は無かったので、ブッダサウンドなんて呼ばれていた)したんだけど、その後1986年にイギリスの女三人組グループのバナナラマがディスコアレンジしてまたまた大ヒット。


 そのバナナラマ版を1989年にカバーした長山洋子版もそれなりにヒットしました。バブル絶頂期を体現したような歌だった。浅野のアレンジは、長山洋子版の三か月前に発売されたけど、まったく売れなかった黒沢ひとみ版に似ているような気がした。


 浅野が歌い終わってお辞儀すると、ビーナス象は明るく輝いた。喜んでいるみたい。良かった。神様の気持ちを損ねると大変なことになるからな。ギリシア神話みたいなのはごめんだぜ。


 奉納が終わるとみんなでおやつを食べた。今日は回転焼きと冷たい麦茶だった。回転焼きの中身はつぶあんとこしあんとカスタードの三種類だった。平野が山ほど用意してくれたので、伯爵やイリアさん、護衛の騎士にも渡すことができた。ビーナス象にも同じものを捧げたが、喜んでいるみたい。


 俺は浅野に聞いた。

「うまいこと歌詞をアレンジしていたけど、アドリブ?」

「まさか!ビーナス様の名前が出た時、いつかこういう日が来るんじゃないかと思って用意してたんだ」

 浅野、やるじゃないか。俺はかなり見直した。


 つぶあんとこしあんのどっちがうまいかで論争になり、そこにカスタード派が参戦しようとしたが、羽河の「ここは神殿よ」という一言で収まった。俺たちは再度ビーナス象にお参りしてから神殿を後にした。


 騎乗すれば魔物も結界内に入れることが分かったので、浅野はユニコーンに、平井はヘルハウンドのレオに跨ったまま帰った。


 純白に輝くユニコーンと真っ白いヘルハウンドは相当に目立った。騎乗した浅野と平井もまた目立った。途中で出会った冒険者たちは目を丸くして見ていた。ユニコーンとレオは黒の森の出口までつきあってくれた。ちなみにツーフェイスは肉をやったらさっさと帰ってしまった。


 広場の出口に着くと、ユニコーンとレオは名残惜しそうに帰っていった。周りにいる冒険者達は遠巻きにして見ている。伝説の神獣であるユニコーンに跨った浅野はもちろん、C級の魔物であるヘルハウンド、それも真っ白のヘルハウンドを馬代わりにしている平井も畏怖の対象になっているみたいだ。


 帰りの馬車には行きのメンバーに加えて平井が加わった。平井と小山は物凄く喜んでいた。白雪の頭の上から見下ろした黒の森は言葉で言えない程きれいだったそうだ。西日をあびて黄金色に輝いてたらしい。感極まった二人は目くばせすると左右から俺の頬っぺたにキスしてくれた。


 それを見てむくれたのが藤原だった。

「いつもいつも平井さんと小山さんばかり。二人ともずるいよ!」

 俺は驚いた。

「藤原も乗りたかったの?」


 藤原はさらに怒った。

「僕の職業もスキルも知ってるでしょ!」

 俺は素直にあやまった。

「すまん。配慮が足りなかった。次から気を付ける」


 藤原は笑顔で頷くと、「仲直り」と叫んで俺の唇にキスした。なんだか良く分らないが、洋子がいなくて良かった。羽河がため息をついているが、気にしないことにしよう。


 せっかく羽河がいるので、水あめの事を相談した。砂糖の代替品として普及させるために、一定期間ライセンス料を年ごとに徴収するが、最初の二年間は無料にする契約はどうかということでまとまった。後は商業ギルドとの交渉だな。


 宿舎に着いて風呂に入ると晩御飯だ。今日のメニューはミンチカツだった。揚げ物なんだけど、まさしく肉を食っているという気持ちになる、質量ともに大満足のメインディッシュだった。


 もちろん副菜としてズッキーニと玉ねぎの薄切りが混ざった山盛りのキャベツの千切りが付いている。ミンチカツに掛けるソース類はウスターソース・ケチャップ・タルタルソース、キャベツに掛けるドレッシング類もマヨネーズ・和風・フレンチ・シーザー風といろいろあるので迷ってしまう。


 デザートはカスタードケーキだった。紅茶を飲みながら幸せな気分に浸っていると、浅野が立ち上がって皆に呼び掛けた。

「今日、白雪様から大地のアンクレットを頂いたのですが、僕は土魔法は使えないので、志摩君に進呈します」


 みんな拍手で賛成してくれた。俺も妥当な所だと思う。志摩は恐縮しながらも大喜びで受け取ってくれた。唾液は拭き取ってあるようだ。部屋に引き上げる時に浅野のところに行った。無理やり白蛇の頭に乗せたことを改めて謝罪したら、笑顔で許してくれた。良い奴だなー。


 部屋に戻るとお供えを捧げた。今日はラザニア、クロワッサン、ミンチカツ、西瓜のジェラート、カスタードケーキだ。目を瞑り手を合わせ、白雪祭りが無事終わったことを感謝し、来週の修練が無事に終わることを祈った。いつも通り、「美味し!」の声に続いて、ペタン・ペタン・ペタン・ペタンという音が響いた。

歌姫に鎮めの巫女・・・浅野君の二つ名が増えました。大地のアンクレットで志摩君の土魔法もグレードアップするようです。モンキーダンス・・・昔ちょっと流行はやりました。興味ある方はYou Tubeなどでご覧になってください。

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