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第23話:王都見学2

 環状線に戻ってしばらく進むと冒険者向けのお店は少なくなり、やがて馬車は広々した駐車場を持つ洒落た建物の前に止まった。赤茶色の三角形の屋根を持つ建物の前には小さく「赤い三角定規」という日本語の文字が入った看板があった。これが店の名前なのか?なんか聞いたことのある名前だが思い出せなかった。


「お待たせしました。昼食はこちらのレストランでお召し上がりください。勇者に縁のある老舗のお店です。貸し切りになっていますので、ごゆっくりどうぞ」

 セリアさんが説明するには、代金も全て王家持ちになっているので、お好きなものを召し上がってくださいとのこと。至れり尽くせりとはこのことだな。


 俺たちは六人掛けのテーブルに座り、メニューとにらめっこし、セリアさんのアドバイスをもらいながら頼んだ。飲み物もミネラルウオーターからジュース、ワイン、エール、紅茶、ハーブティーといろいろあったが、この後のことを考えてエールを我慢した俺えらい。


 女の子三人(一条、初音、洋子)と冬梅はパスタを、俺とヒデは子羊のステーキを頼んだ。メニューにはいろいろとそそられるもの(オークの睾丸のソテーとか)もあったが、無難なところを選んだ。それにしてもゴミ&汚水処理施設の見学の後に昼食とはやるじゃないか。昼食の後は東の市場に行くそうで、その説明があった。


 今度の市場は買い物OKだが、幾つか注意事項がある。

1.正札は無い。定価も無い。価格は全て店主との交渉で決まる。

2.最初の価格の半額以下に値切るのが普通。

3.値切りや交渉を楽しむのが市場の買い物の流儀。

4.食べ物・飲み物はいろいろ危険なので禁止。


5.鉢植え・動物・昆虫などの生き物や、毒物などの危険物、用途の分からない魔道具も禁止。

6.怪しそうなものについては鑑定持ちに相談すること。

7.売上税(一割)は価格に含まれている。売上税を別に請求されたら注意。

8.班ごとに行動して決して一人にならないこと。

話を聞くだけで楽しそうじゃない?俺たちはみな期待に胸膨らませながら市場に向かった。


 東の市場はレストランから三分ほど歩いた場所にあった。商店街が唐突に切れて、環状線の右側五十メートルほどにカラフルなテントが並んでいる。

 俺たちは班ごとに分かれて目ぼしいテントを順番に回った。皆、明日の分の買い物もできたようなのだが、問題が発生した。利根川が佐藤と言い争っている。


 問題のテントに行ってみると、馬に乗った真っ黒い鎧武者の巨大な像を買う買わないでもめているようだ。

 馬に乗っているのはまだ良い、なんと鎧武者は日本の戦国時代の鎧武者だった。これも勇者がらみなのか?それにしても畳一枚分、高さ三メートルもある像をどこに置くの?


「さっき薬草や宝石の粉末や鉱石を山ほど買い込んだろ。お前にこんな趣味があったとは知らなかったが、悪いことは言わん。もうやめとけ」

「あんたにはこの価値が分からないのよ。私は必要とあれば情け容赦なく買う主義なの!」


「分かった分かった。買うのはいいが、どうやって運ぶんだ?」

「あんたのアイテムボックスならまだ入るでしょ?」

「なんだ、最初から俺頼みかよ?」

「これ位いいでしょ」


 利根川は一歩も引く様子はない。

 佐藤はため息をつくと、自分のステータスを出して何か入力していった。

「できたぞ。俺のアイテムボックスをパーテーションで二分割した。半分、貸してやるよ。お前をIDとして登録したから、お前がパスワードを音声で入力したら使える」


 利根川は満面の笑顔になった。そんなに欲しかったのか。利根川が時代劇あるいは侍のマニアだったなんて知らなかったな。

 それにしてもアイテムボックスを二分割して片方の使用権を他人に渡せるなんてそんなことできるのか?びっくりだぜ。


「佐藤ありがとう。パスワードを教えて」

 佐藤は悪魔のような笑顔を浮かべた。こいつ絶対悪いことを企んでいる、そんな笑顔だった。

「カイジくん、大好き!」

 佐藤の言葉を聞いて利根川は顔から指先まで真っ赤になった。クリティカルヒットを食らったようだ。利根川の頭の中では緊急の脳内会議が開催されていた。


<利根川の脳内会議の中継 はじめ>

幸1号:それでは緊急の脳内会議を開きます。

幸2号:議題はなんでしょうか?

幸1号:佐藤のパスワードを認めるかどうか、です。

幸3号:私は反対です。断固拒否します。


幸1号:3号さん、どうして反対なんですか?

幸3号:だって恥ずかしすぎます。アイテムボックスを操作するたびにあれを言うんですか?

幸1号:3号さんは佐藤が嫌いなんですか?

幸3号:嫌いですが、嫌いではないです。


幸1号:何を言ってるのか分かりませんね。2号さんはどうですか?

幸2号:私は好きです。いろいろ問題はあるけど解決できると思います。

幸1号:分かりました。私の個人的な見解ですが、これは佐藤が私達に巾着袋を預けたことと関連していると思います。

幸3号:どういう意味ですか?


幸1号:佐藤は財布を預けることで間接的なプロポーズをしたのです。私たちはそれに対してまだ明確な返事をしていません。今回は、私たちにイエスorノーの返事を迫っているのです。

幸2号:いつも煮えきらないダメ男と思っていましたが、恋愛に関してはそうではなかったのですね。見直しました。


幸1号:私もそう思います。3号さん、もう割りきったらどうですか?

幸3号:年貢の治め時という訳ですね。分かりました。私も覚悟を決めました。

幸1号:それでは承認するということで会議を終了します。ありがとうございました。

<利根川の脳内会議の中継 終わり>


 利根川は十秒ほど黙ってから大きく深呼吸して叫んだ。

「カイジくん、大好き!」

 その場にいた全員が、事情を知らない店主ですら驚愕した。一番驚いたのは佐藤だろう。顎ががくんと落ちて目が白目になっている。気絶寸前の状態だ。利根川の暴走は止まらない。


「(女にここまで言わせたんだから)ちゃんと責任とってね」

 佐藤はがくがくと頷くことしかできなかった。利根川は余裕の表情で店主と値切り交渉に入った。


<利根川のショッピング中継 はじめ>

店主:金貨三十枚!一枚もまけられない。

利根川:銀貨一枚!

店主:お前買う気があるのか?人を馬鹿にするのもいいかげんにしろ!

利根川:どうせ売れない不良在庫を銀貨一枚で引き取ってやると言ってるのよ。ありがたく思いなさい。


店主:何を言ってやがる。元々こいつは分かる奴にしか分からない超貴重な骨董品だ。こいつの価値が分からない奴にそんな安値で売れるわけないだろ?

利根川:それなら何が貴重なのか説明してよ。

店主:まずこいつは五百年程まえに作られた美術品だ。鉄製だが入念に固定化の魔法がかけられているから錆一つない。当時のままの状態だ。


利根川:それは見たら分かるわ。じゃあ、何の像なの?

店主:見たらわかるだろ。馬に乗った異国の戦士だ。

利根川:だれが作ったの?

店主:分からん。しかし、この造りの細かさを見ろ。きっと名のある作家の作品に違いない。


利根川:誰が作ったか分からない古いだけの異国の戦士の像が欲しい人なんているの?

店主:・・・・。

利根川:どうせ誰かに、珍しいから高値で売れるなんて騙されたんでしょ?幾らで仕入れたの?

店主:そんなの言えるわけないだろ!


利根川:在庫の回転率が悪くなるだけじゃないわ。この無駄なスペースが空いたらどれだけの商品が並ぶと思う?

店主:それでも銀貨一枚はあんまりだ。

利根川:分かったわ。金貨一枚でどう?この場で引き取るわ。

<利根川のョッピング中継 終わり>


 利根川は余裕の表情で微笑んだ。店主は苦虫を嚙みつぶしたような表情で考え込んだが、決断した。

「分かった。金貨一枚でいいぜ。嬢ちゃんには負けたよ」


 利根川は青い巾着袋から金貨を一枚出すと、店主に払った。店主は「まいどあり」と笑顔で受け取ると、万引き防止のお札みたいなのを外した。

 利根川は初めてとは思えない手際で騎馬武者をアイテムボックスに収納した。佐藤が、「俺の金貨が・・・」とぶつぶつ言っていたが、誰も気にしなかった。


 俺も俺の班のメンバーと他の班の荷物を頼まれた分だけ預かった。冬梅がセリアさんに確認したうえで購入した魚も預かった。猫娘にお土産にでもやるのだろうか?

 アイテムボックスは冷蔵庫代わりにもなるからこういう時は便利だな。フォルダに預けたやつの名前を記録しておけば、取り出すときも便利だぜ。


 俺たちは歩いてレストランに戻ると馬車に乗った。車内では当然利根川の話になった。セリアさんも利根川をほめた。やはり三十分の一の値引きはすごかったようだ。

「ですが、今回は店主の勝ちです。今夜は祝杯を挙げるでしょう」

「え?どういうこと?」


「利根川様の提示した銀貨一枚は正しい見立てです。おそらく仕入れ値の近似値でしょう」

「ということは、金貨一枚は?」

「もちろん、大儲かりです」

 びっくりだよ。そうなの?


「売買の適正価格は銀貨三枚から五枚だと思います。利根川様もそれは分かっていたと思いますが、敢えて金貨一枚を提示なさいました」

「どうして?」

「適正価格まで値切るとしたら、おそらく一刻程要したでしょう。その間皆を待たせることになります。金貨一枚を提示して乗ってこなかったらあきらめるつもりだったのでは?」


「そうだったんだ・・・」

「店主もそれが分かっていたので、金貨一枚に応じたのでしょう。それに、私には利根川様が金貨一枚以上の価値を見出していたように思えました。それが何なのかは分かりませんが」


 市場での買い物の奥深さを思い知らされた。一つだけ分かったのは俺にはあんな高度な駆け引きはできなと言うことだけだった。それにしても・・・。

 ヒデがぽつりとつぶやいた。


「あいつら、いつから仲良くなったんだ?」

「うーん、わかんない」

「いつもケンカしていたよね」

 初音も検討がつかないらしい。洋子も首をひねっている。冬梅がおずおずと口を出した。


「昨日の授業でお金の話をした時からなんか様子がおかしかったよ」

「佐藤がひっくりかえった時?」

「そうそう。あの後手をつないでいた」

 一条も興味があるみたいだ。


「私も見ていたけど、あれだけで好きになったりする?」

 皆首を振って考えたが、誰も何も思いつかなかった。馬車は北に向かって環状線を走るが、東の大通りに出る前に右折した。どこにいくのだろうか?

 やがて馬車は小さな尖塔を持つ建物の前で止まった。入口の門にはあの神様の小さな像が立っている。庭から子供たちが好奇心に満ちた目で俺たちを見つめていた。

「ここはどこですか?」


 セリアさんは建物と道路を挟んだ反対側の草ぼうぼうの空き地を指さしながら説明した。

「そちらの建物は孤児院です。東の教会が運営しています。私たちがの目的地はこちらです」


 三十メートル四方のただの空き地に見えたがセリアさんに促されて中に入ると、景色が一瞬揺らぎ、次の瞬間に一変した。

 石畳が続く先、中心部分にお堂のような小さな建物が見える。驚いて道路に戻ると、景色は元通りになった。セリアさんが説明してくれた。


「ここは以前お話しした勇者の遺産である僧侶の墓所です。時間経過を遅らせる魔法と固定化の魔法と人除けの結界が重ねがけされており、建築した当時と同様の状態が維持されていると思います。結界が張られている関係で、残念ながら私は中に入ることができません。お待ちしますので、皆様でどうぞ」


 俺たちは再び空き地に足を踏み入れた。結界を通過する感覚は本当に独特で、漫画風に擬音を当てるとしたら「ウニョン」という感じだろうか。

 恐る恐るお堂に近づき中を見たが、八畳ほどの黒光りする板張りの一番奥の床の間に孔雀明王を思わせる掛け軸が飾ってあるだけだった。


 工藤が目を見開いて感激していたが、すぐに目を閉じ手を合わせて念仏を唱えだした。俺たちもそれに倣って黙って手を合わせた。何を祈ったかって?

 それはもちろん、先人の苦労を忍び、感謝を伝え、全員が無事に日本に帰ることを祈る、それ以外にないだろ。祈り終わって目を開けると掛け軸の絵が仄かに光ったような気がしたが、気のせいだよね。


 さっきの市場で買った中から花やお酒(誰だ?)、お菓子を少しばかりお供えして外に出た。入った時と同様、結界を出る瞬間にはぐにゃりと視界が歪んだ。外に出て振り返るとそこはただの空き地に戻っていた。工藤に聞いてみよう。


「こいつはどういう仕組みなんだ」

「多分、日本人あるいは仏教を信仰している人間しか入れない結界が張ってある」

 工藤は感激冷めやらぬ顔で応えた。

「誰が作ったの?」

小山も関心があるみたいだ。


「分からん。でもおいおい調べてみよう」

「俺も手伝うぜ」

 なぜか志摩ものってきた。

「ここにかって日本人がいて、しかも仏教に縁がある人だった訳だな」


 流石、月刊プレジデントの愛読者だ(どうして?)。俺たちはすがすがしい気持ちで馬車に乗り込んだ。

 なんとなくこの世界に少しだけどつながりというか、親しみを感じたような気がした。俺たちの旅は続く、なんちゃって。


 環状線に戻ってしばらく走ると前方に大通りが見えてきた。出口の左角には尖塔を持つ白くて大きな建物が見える。セリアさんが説明してくれた。

「もうすぐ東の大通りに出ます。角にある大きな建物は東の教会です」


 今度は横断せずに協会の角を左折した。薄い灰色の道路の幅は約二十メートル、六車線くらいだろうか。

 駐馬場を兼ねた両脇の歩道の幅がそれぞれ五メートルほどあるので、とても広く感じた。行き交う馬車も人通りも多い。


「この東大通りとそれにつながる西大通りが都で一番賑わう通りとなります。役所や大使館、各商会の本店や一流のホテルなどが並んでいます」

 ここがグラスウールのメインストリートなのだ。通り沿いのビル(といっても五階建てまで)を眺めていると、広大な敷地に高さ三メートルほどの立派な塀を巡らせた大きな青いビルが見えた。


「あれは、ネーデルティ共和国の大使館です。平時はネーデルティ共和国の輸出を支援し、自国民の保護や事業の手助けを行います」

 馬車は止まることなく進み、やがて右側には広大な広場、左側には他を圧する大きさの茶色の建物が見えた。広場の奥には二階建て程の高さがある城壁越しに巨大な白亜の建物が見える。あれが王宮か。


「右は王宮前の大広場です。大きさは百メートル四方あります。広場に面した正門は近衛が十二時間警備しています。左のビルは役所です。裏は衛兵の詰め所になっています」


 日本風に言えば、表が市役所で裏が警察ということだろうか。

 結婚したり子供が生まれたり家族が亡くなったり引っ越しする場合は役所に届けが必要だし、税金を払うのもここになるらしい。役所の前にさしかかると、左側に大通りが見えた。


「左に曲がると南の大通りです。ここから南の大通りに入ります」

 馬車は左折して南に向かった。道幅は東西と同じく幅二十メートルある。

「南の大通りは各種ギルドや中小の商会やホテルが並んでいます」


 確かに建物の幅が狭くなって、ぎっしり詰まっているような感じだ。どぎついピンクで塗られたビルがあったので、ヒデが聞いた。

「あれは何ですか?」

 セリアさんは感情の無い声でこたえた。

「あれは王都一と言われる娼館です。さすが殿方は異世界でも分かるのですね」


 気まずい沈黙が続いたまま、しばらく走ると環状線との交差点についた。

「左が先ほど見た冒険者ギルドです。このまま真っすぐ南の大門まで行きます。南の大門の先は草原地帯になっており、古代の遺跡や都市の跡を元に作られた荘園が王都の周辺だけでも数十か所存在しています。荘園では農産物の生産や牧畜を行っています。この門は荘園やハニカム山脈沿いの小国との物資・人の出入りに使われています」


 馬車は南の大門の手前でUターンして再び中央広場を目指して北に走る。環状線との交差点を過ぎると、やがて白を基調とした巨大な王宮が正面に見えてきた。

 王宮の城壁の中心は大宮殿に相応しい豪華かつ壮麗な門になっていて、近衛と思しき兵が十数名警備している。門越しに巨大な噴水が見えた。


 中央広場前の三叉路でまた左折する。角には黄色の大きな建物があった。

「角にあった建物は商業ギルドです。横には両替商が併設されています。商業ギルドは商業全般の発展や育成だけでなく、各商会やギルド間の調整や争議の調停なども行います。両替商は自国通貨だけでなく、他国の通貨との両替も行います。必要に応じて送金や融資や手形発行の手続きも請け負います」


 両替商って銀行みたいなものかもしれないな。そのまま馬車は西に進む。しばらく進むと、白一色の小ぶりな建物があった。建物の割には敷地は広く、塀も高くしっかりしている。


「あの白い建物はハイランド王国の大使館です。平時はハイランド王国の物産の交易を支援し、自国民の保護や事業の手助けを行います。あの敷地内はハイランド王国の領土と同じなので、勝手に入ると領土を侵犯したと見なされ、厳しく処罰されます」


 大使館を通り過ぎると、西の教会の尖塔が見えてきた。環状線との交差点を通り過ぎると、西の大門が見えてくる。

「西の大門の先は、西の街道を通じてこの国第二の都市、タイゼンがあります。そしてタイゼンはデホイヤ山脈を迂回してハイランド王国に至る北の街道の拠点なのです。ハイランド王国との交易品の九割はこの西門を通ると言われています」


 ちなみに王都から北に伸びる北街道は、ハイランド王国侵攻の際に、補給路として作った道を整備したものらしい。環状線を通り過ぎてしばらくすると五階建ての巨大な建物があった。


「これは王都防衛のための国軍の詰め所です。裏には訓練施設があります。王都防衛隊は三隊に分かれて勤務(平時は訓練と城壁およびその周辺の巡回)・非番(待機)・休みを交代でとっています。なお、貴族街は近衛兵、それ以外は衛兵の管轄となります」


 馬車は西の大門の手前でUターンすると、再び中央広場に向かう。環状線を過ぎたあたり、ホテルに交じって店の前に色とりどりの旗を並べた店が何軒も並んでいる。

「ここはハイランド王国の特産品である羊毛を使った生地や服を取り扱うお店や宝石や貴金属の店が集まっています」


 広場に近づくと左手に白い王宮がその威容を現した。茶色の石畳で覆われた広場の左右(東西)はモールになっているようだ。

「王宮は1キロ半四方の城壁に囲まれています。城壁の東南と西南の角はそれぞれ貴族街と平民街を仕切る塀につながっています」


 馬車は止まることなく東の大門を目指して進む。

「この辺りにはネーデルティア王国を主な産地とする宝石や宝飾品を取り扱うお店が多数並んでいます。このまま東の大門を出て、東の街道を真っすぐ進むとこの国第三の都市、アストラルに着きます。

 アストラルの東には、デホイヤ山脈の最高峰である東の尖塔を源流としてエルフの森沿いに南に流れるドナン川があり、ネーデルティ共和国との船をつかった交易の窓口になっています」


 やがて東の教会が右手に見えてきたが、東の大門にはいかず、馬車は左折して環状線に入った。貴族門を通り過ぎ、しばらく走ると左手の公園に止まった。

 いや、公園かと思ったらカフェだった。流石に貴族街のお店なので、(行ったことないけど)超一流ホテルのロビーのように豪華で優雅な内装だった。


 三階分くらいありそうな高い天井から吊るされた巨大なシャンデリア。足首まで埋まりそうなふかふかの深い藍色と金色の絨毯。体重がゼロになったかのように体をどこまでも柔らかく、かつしっかり受け止めるソファ。年代物の芸術品のようなテーブル。そしてまるで王様になったような気分にさせてくれるおもてなしの数々。


 お茶もお菓子も大変美味しく頂きました。ちなみに飲み食いの費用は王家持ちでしたが、お土産用に買ったお菓子(クッキーの詰め合わせ)は銀貨三枚とられました。ちょっと高すぎじゃないの?


 馬車に戻ってカフェの執事やメイドさん、買ったお菓子についてあれこれ話していると、最後の目的地に着いた。セリアさんが懐かしそうな目で説明してくれた。

「ここは魔法学校です。貴族の子弟を対象にしていますが、平民でも高い魔力を持つ者は特別生として入学を許可されることがあります。遠隔地から入学した者のために寮もあります。私もかって三年間お世話になりました」


 セリアさんの母校になるわけだね。道のわきに止めた馬車の中で説明してくれたのだが、学校は高い塀と背の高い樹木に隠れてまったく見えない。塀の長さは百メートル以上ありそうだ。


「魔法学校の裏には魔法大学と王立図書館があります。魔法大学では魔法の研究が日々行われています」

 異世界にも大学はあったのか!となればセンター試験もあるのかな?なんて馬鹿なことを考えていると、一条が質問した。


「魔法の研究って何を研究するんですか?」

 セリアさんは笑顔でこたえた。

「私は大学に行ってないのでよく分からないのですが、古代魔法の研究、特に魔法陣の研究や、新しい魔法や魔道具の開発、より効率的な詠唱や魔法の応用について調べているそうです」


 魔法って研究の対象になるんだ・・・、というのが正直な感想だった。ある意味、魔法は勉強とは正反対のベクトルかと思っていたので、ちょっと驚いたのだった。

 全ての目的地を回り終わった馬車は静かに王宮の北門を目指す。セリアさんが「おさらいです」と言って、王都の簡単な地図を渡してくれた。


 王都の地図を一言で言うと、二重円とTの文字を組み合わせた図形だ。外側の円は城壁、内側の円は環状線で、上下に二分割する横線と、横線の中央から真下に伸びる線が東西と南の大通りだ。

 三叉路の交差点の上には正方形の王宮があり、上の環状線は城壁と王宮の中間を通るようにやや歪な楕円になっている。


 そして貴族街と平民街を分ける壁は王宮の角から城壁に向かって伸びているのだが、左右とも真横ではなく斜め上に伸びている。

 かなり平べったくしたVの字で、角度で言えば左右合わせて百二十度位だろうか。面積で言えば、貴族街が王都全体の三分の一になると思う。


 この壁から東西の大通りまでが市民(金持ちの平民)のエリアになる訳で、角度で言えば左右それぞれ三十度、合わせて六十度で全体の六分の一位の面積になるようだ。

 宿舎に到着したのは予定より半時間遅れの九時だった。みんなから預かった荷物をラウンジでそれぞれに渡して今日のお仕事は全て完了だ。見て回るだけで何かしたわけではないが、充実した一日だったと思う。

やっと王都の説明終わりました。長くてすみません。

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