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第237話:夏祭りの打ち合わせ

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 8月8日、土曜日。今日も雨の気配はゼロ。農作物は大丈夫なのだろうかと心配になる位晴れている。ランニングに出て隣の区画を見ると、建物の取り壊しは既に終わったようで、片付けと整地を行っているみたい。


 ラウンジに戻ると江宮が待っていた。直径三十センチ位の白い皿を二枚持っている。

「できたぞ」

 手に取ってみたが、見事な出来栄えだった。盃はどちらかというと、ぐい吞みに近いような形で、高台が無く底が平らで広く、へりが高い皿のような形になっていた。


「大きさや重さと飲みやすさを考えると、こっちが無難と思ったんだ」

 江宮の説明はもっともだ。俺は礼を言ってから志摩の部屋に行った。


 まずは昨日作ったダイヤモンドの原石三十個を渡すと志摩は大喜びした。人間サイズのゴーレムの作成に使うとのこと。武器を剣にするか槍にするかで悩んでいるそうだ。いっそ戦乙女バルキリーにしようかとも考えているみたい。


 俺はここで江宮が作ってくれた皿と盃の見本と陶石の粉を見せた。

「白蛇用にこれで磁器を作ってくれないか。ただしサイズは十倍で。焼成は俺でもできるが、造形が駄目なんだ。予備も考えて皿は三枚、盃は二枚頼む」


 志摩は陶石の粉を手に取って、手のひらに広げてからこたえた。

「やるだけやってみる」

 合計で五枚作るとなるとここじゃ狭すぎるので、江宮の工房を借りることにした。


 俺は大凧製作員会に行くと、江宮に事情を話して部屋の隅に陶石の粉を置かせてもらった。これでなんとかなるかな?考えていると、野田がノックもせずに入ってきた。


「江宮君おまたせ。木琴と鉄琴の打ち合わせだけど、ピアノの所でやらない」

 朝食には少し早いが、俺も食堂について行った。中に入ると、平野と羽河が話していた。羽河に呼ばれたので行ってみると、夏祭りの打ち合わせの続きを今日の朝食後にやるそうだ。王妃様のお茶会の前に粗筋は決めておこうという事かな。


 平野が朝食の支度に戻ると羽河は手に持っていた手紙を見せてくれた。

「魔法学院と教会からピアノの寄付について手紙が来たわ。野田さんが出した手紙の返信ね。どちらも、丁重にお断りしてきている。非常にありがたいご提案ですが、そのように高額な楽器をおいそれと無料で受け取ることはできません、ということね」


 どうしようかと考えていると、俺の後ろから入って来た先生が話しかけてきた。

「羽河様、私がその手紙をお預りしてよろしいでしょうか。今回の寄付について既に王家の許しを得ていることを説明させて頂きたく存じます」


 羽河が笑顔で頷いたので、そのまま先生にお願いすることにした。ついでに昨日のことを羽河に報告する。

「またスキルアップポーションがが貰えるようになったんだけど、どうする?」

「また?早くない?」


 俺はこっそり自分のアイディアを話した。

「最近物作りがやたらに多いから志摩に渡したいと思うんだけど、どう?」

 羽河は小さく頷いてこたえた。

「個人的には良いと思う。今度、皆の了解を取ってから渡そうか。それと・・・」

「何?」

「ジン・シューズドライヤー・消毒薬・水虫薬の契約書に署名したわ。必要なレシピと取説も揃ったからジョージさんが来たら呼んで」

「了解!」


 8月11日に冒険者ギルドに用事があるので、ポーションはその時に貰いに行こう。教会や魔法学院については先生に任せることにしてラウンジに行った。楽器ギルド宛てにピアノの納品先を東の教会に変更するよう手紙を書いてもらう。魔法学院向けのピアノの発注については、ライセンスの交渉に来た時に話せば大丈夫だろう。


 俺はゆっくり歩いて食堂に向かった。目の前の天井付近で鷹町がふわふわ浮いている。スピードを出してないので、立ったままゆっくり移動しているのが変な感じ。飛ぶというより浮かぶという感じだな。


 今日の朝ごはんはラーメン、鶏がらスープを使った中華そばだった。厚切りのチャーシューと煮卵が良い感じ。メンマが無いのが残念だが、それは贅沢すぎだろう。今日は黒胡椒をかけて頂きました。


 他のテーブルを見ると江宮はもう鉄琴の試作品を作ったようで、野田に試して貰っていた。自分でも使ったことがあるから、こういうのは早いよな。それでも何ヶ所か指摘を受けている。一発OKとはいかないみたい。


 紅茶を飲んでぼんやりしていると、夜神に話しかけられた。

「どうした?」

「頼みがあるんや。実はな、戦神の斧をわてのメインウエポンにしたいんや。斧術の先生を手配してくれへん?」


 鞭も良いけれど、大きくて重くて硬い奴相手でも戦神の斧で戦えるようになりたいそうだ。そのために斧を使いこなせるようにしたいらしい。今度伯爵に依頼することを約束すると、羽河から呼ばれた。夏祭りの演目の打ち合わせだ。念のため、先生にもオブザーバーで参加して貰った。


 とりあえず前回決まったのは以下の三つだ。括弧内は担当。

1.浅野の歌謡ショー(浅野・野田・木田・江宮)

2.軽食の提供(平野・水野)

3.花火(利根川・工藤)


 検討事項になっていたのは、以下の通り。

4.伊藤の弾き語り(野田が推薦)

5.お芝居(木田と志摩が推薦)

6.初音のナイフ投げ(俺が推薦)

7.小山のとび&梯子登り(俺が推薦)

8.相撲大会(志摩が推薦)

9.のど自慢大会(水野が推薦)

10.子供たちの合唱(浅野が推薦)

11.盆踊り(水野が推薦)


 4は伊藤が熱望したこともあってすんなり決定した。また10は浅野のショーに子供たちの合唱を組み込むことで収まったが、それ以外は結構揉めた。順を追って説明すると、5は準備の時間が足りないという事で見送りになった。木田も「最初だから下手なものは見せられない」と考えていたので、渋々了解した。

 また、万が一の危険を考えて6も中止になった。残念。やっぱり刃物を使うのはハードル高いな。


 7は本人が希望すれば、ということでOKになった。小山が怪我をする可能性は誰も考えなかったようだ。8は土俵をどこに作るか、それをどう見せるかが問題になって見送り、9もこの世界に合わせた形に調整するのが難しいという事で見送り、11も踊る場所を確保するのが難しいということで見送りになった。


 また、担当については3の工藤は軽食班に入り、代わりに利根川が一条と夜神に参加をお願いすることにした。結果として時系列に沿ったプログラムは以下になった。括弧内は主な出演者だ。3の野田と伊藤(本人の希望)は伴奏、子供たちは合唱で参加する。


ステージの外:軽食の提供

ステージ

0.司会挨拶(羽河)

1.とび&梯子登り(小山)・・・仮

2.伊藤の弾き語り(伊藤)

3.浅野の歌(浅野・野田・伊藤・子供達)

4.花火(?)

5.終わりの挨拶(羽河)


 出演者以外の担当は以下になった。音響と照明を担当する江宮が大変そうだが、昔、魔法陣でバイトしたことがあると言っていたので大丈夫だろう。


プロデューサー:木田

司会・進行:羽河

舞台:志摩

音響・照明:江宮

花火:利根川(一条&夜神が参加予定)

軽食:平野、水野、工藤


 このうち一番揉めたのは軽食の手配だ。俺も最初は漠然とホットドッグかハンバーガーの配布を考えたのだが、誰が作るのか、そしてそれをどこでどのように配ったら良いのか分からない。そこで考え付いたのが、大通りを歩行者天国にすること。そして歩道に露店をだし、そこで自由に飲み食いして貰おうというアイディアだ。


 もちろん露店はこの街で営業している店舗が営業できるようにする。軽食のお代は銅貨一枚(一ペリカ)だが、参加した店舗には二百食提供することを条件に金貨一枚(一万ペリカ)を材料費として支払う。


 庶民向けの軽食の代金が通常十~二十ペリカ、その三割が原価と考えると、二百食分の原価の合計は六百~千二百ペリカとなる。一万ペリカが貰えるならば、十分儲かるはずだ。さらに露店のテーブルと椅子を無償で提供したら十分ではなかろうか。


 金を景気よく使い、循環させるという意味でも理にかなっていると思う。利根川以外はみんな賛成してくれた。仮に百店舗参加したら、二万人分の軽食を確保したことになる。ただし、大きな問題点がある。


 大通りを歩行者天国にして、さらに隣接する歩道の使用許可をもらわなければならないのだ。結構大変かも・・・。今日のお茶会を利用するしかないな。気合を入れて行こう。

 打ち合わせが終わるとすぐに教室に移動した。今日の講義は昨日に続き洞窟地帯の地形に関するレクチャーだった。


 三次元モデルが無いから説明が大変なのだが、大まかに言うと入口から南に進み五百メートル程で左に曲がり、四百メートルほどでまた左に曲がり、三百メートルほどでまた左に曲がり、さらに二百メートルほどいけば最深部、目的地だそうだ。最深部は天然のホールみたいになっているらしい。

 全ルート基本下り勾配で、最深部の地上からの深さは二百メートルほどだそうだ。


 距離だけで言えば一日で踏破出来そうだが、基本的に元が全て手掘りのトンネルなので、真っすぐでも平らでもなく上下左右にうねっている。さらにほとんど明かりは無く、どこに魔物が潜んでいるか分からないので、とにかく時間がかかるらしい。ダンジョンと違ってトラップは無いが、地上の常識は通用しないそうだ。


 講義が終わってから小山を捕まえて夏祭りの話をした。

「出し物の一つとしてとびと梯子登りをやらないか?」

「鳶って、お正月に出初式で消防団がやる奴?」

「そうそう。梯子の上で逆立ちしたりする」

「良いけど、どうせなら殺陣を入れて忍者風にして良い?」

「おお好きなようにやってくれ」


 小山は小さなガッツポーズで了解してくれた。やる気になってくれたようだ。殺陣は平井や一条に協力を頼むみたい。ラウンジに行ってぼんやりしていると、伯爵がやってきた。アポなしだけど。

「チキンラーメン・炊き込みご飯・ピラフ・ほうれん草と卵のスープ・ニッキ飴・粉ジュースの契約書の雛形を持ってきましたぞ」


 俺は笑顔で書類を受け取った。

「ありがとうございます。確認が終わったら連絡します。今後、契約書に関しては羽河が仕切りますので、よろしくお願いします」

「了解でございます。レシピの手配をよろしくお願いしますぞ。それと・・・」

「なんでしょうか?」

「本日の王妃様のお茶会ですが、実はそれがしも参上する予定です。よしなに願いますぞ」


 伯爵は最後に遊戯倶楽部の貴族街のサロンに提供するウイスキーは一日当たり二本以上にして欲しいと頼んだ。自分も飲もうとしているのかな?これは増産しないといけないかもしれない。お返しではないけど、俺も伯爵に夜神の斧術の先生を手配して貰うように頼んだら、伯爵は快諾してくれた。早ければ明日から来てくれるらしい。


 伯爵を見送っていると、夜神がやってきた。斧術の先生が早ければ明日から来ることを伝えると喜んでいた。今日から練兵場に行くそうだ。

 羽河が来たので伯爵から貰ったばかりの契約者の雛形を渡す。伯爵もお茶会に呼ばれていることを話すと笑っていた。また、小山が鳶を了解してくれたこと、殺陣の演出を追加することを伝えると喜んでくれた。


 お昼ご飯はミートパイだった。牛ひき肉を玉ねぎ・セロリ・ニンジンなどの野菜の薄切りと一緒に炒め、チーズをかけたものをパイ生地で包んで焼き上げている。一人用のパイ皿で焼き上げているので、最後までアツアツの状態で食べることができた。デミグラスソースを使っているのが洋食っぽい。


 ハーブを練り込んだパイ生地がしっかり厚めなので、パンが不要なほど食べ応えがあった。デザートは洋梨のジェラートだった。フワッと立ち上る独特の香りが爽やかだった。

夏祭りの具体的な計画がようやくまとまりました。王妃様をはじめとする方々が賛成してくれたらよいのですが・・・。魔法陣はRCサクセションのコンサートの照明で見たような気がする。

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