第225話:山岳地帯1-20+職業(クラス)・スキル一覧表
8月5日、火曜日。いつも通りの目覚め。山岳地帯の五日目であり最終日だ。洋子を起こさないようにそっと起きる。昨日は遅くまでみんなと騒いでいたようだ。外に出ると雲一つない青空。焚火台に行って宴会の後片付けと朝ごはんの支度をする。
今日は羽河が手伝ってくれた。寝ずの番の朝方になったので、今まで起きていたそうだ。今日は馬車で移動するだけなので、このまま起きているとのこと。ヤカンに水を入れ火にかけると羽河が話しかけてきた。
「昨日見せようと思ってたんだけど、レベルアップしたことによって、一部の人の職業が変わったわ。進化したみたい。それと何人か新しいスキルがついたわよ」
羽河はタブレットを見せてくれた。
「※付きが新規の職業とスキルね」
出席番号順の一覧は以下の通り。職業は剣士が剣豪へ、槍士が槍豪に進化したようだ。その他の職業は特に変更はないみたい。
●職業・スキル一覧表(08/04)
1 浅野薫:巫女:光魔法/美乳/慈愛/誘惑※
2 一条英華:魔法使い:剣術/火魔法/斬岩剣/縮地
3 木田優菜:魔法使い:風魔法/水魔法
4 小山あずみ:忍者:忍術/開錠/弓術
5 菅原洋子:聖女:光魔法/水魔法
6 鷹町菜花:魔砲使い:SLB/探査/結界/飛行※
7 寺島初音:盗賊:探査/隠密/開錠/弓術※
8 利根川幸:魔法使い:錬金術/鑑定/火魔法
9 野田恵子:楽師:鑑定/結界/拡声/風魔法※
10 羽河鶫:盗賊:隠密/探査/開錠/弓術/剣術※
11 平井ゆかり:剣豪※:剣術/火魔法/風魔法
12 平野美礼:アイアンシェフ:水火刃の包丁/鑑定/アイテムボックス/土魔法
13 藤原優海:ティマー:騎乗/弓術/慈愛※
14 三平魚心:釣りキチ:探査/太公望の釣竿/アイテムボックス/水魔法
15 夜神光:魔法使い:光魔法/風魔法/闇魔法
16 青井秀二:戦士:体術/強力/頑健/咆哮
17 伊藤晴:吟遊詩人:魅惑の声/風魔法/拡声※
18 江宮次郎:魔術師:強化/投影/弓術/鷹目
19 尾上六三四:剣豪※:剣術/風魔法/斬岩剣/水魔法
20 工藤康:僧侶:光魔法/槍術/降霊術/火魔法
21 佐藤解司:盗賊:探査/アイテムボックス/結界/開錠
22 志摩豊作:魔法使い:土魔法/水魔法/火魔法※
23 千堂武:闘士:体術/咆哮/頑健/透し/強力※
24 谷山隆:(無し):縁の下の力持ち/アイテムボックス
25 中原真太:召喚士:召喚/慈愛
26 野原英雄:勇者:黄金バット/光魔法/咆哮/頑健
27 花山治:戦士:頑健/咆哮/強力
28 冬梅貴明:ネクロマンサー:召喚/交信/闇魔法/土魔法※
29 水野メロンパン:村人:(無し)
30 楽丸幹一:槍豪※:槍術/絶影/頑健
一言で言って羨ましいが、気になるスキルがある。浅野の「誘惑」ってなんだ?それと鷹町の「飛行」は空を飛べるのだろうか?羽河の顔をみたが黙って首を振った。まだ何も分からないみたい。今日の帰り道にでも試してもらいたいが、大丈夫かな?などと考えている暇はなかった。みなが腹を空かせて待っている。
まずはメスティンを並べてアイテムボックス→糧食フォルダ→五日目フォルダから今日の朝ごはんを入れていく。お湯を入れて待つこと五分。出来上がったのはピラフ=洋風の炊き込みご飯だ。
具は、ジャイアントロブスター・アサリのむき身・ベーコン・玉ねぎ・人参など。スープはクルトンを浮かべたコンソメスープ。皆、うまいうまいと食べてくれたが、伯爵は涙を浮かべながら食べていた。
「お湯をかけるだけでこんなうまい食事が頂けるとは、これこそ魔法ですな」
イリアさんが聞いた。
「このスープも固形になっているのでしょうか?」
残念ながらコンソメの固形化はまだ完成していない。まだ平野が満足いく出来になっていないのだ。たとえ、完成したとしてもコンソメは汎用的に使えるので、王家に渡すレシピに入れるべきだと思う。そう説明すると、伯爵も分かってくれた。
朝御飯を片付けていると、工藤がやってきた。
「すまん。俺には絵の才能が無いようだ」
昨日、胤舜のアドバイスを受けながら十文字鎌槍を画こうとしたのだが、うまくいかなかったらしい。
仕方がないので、アイテムボックスの中に入っている槍を全部出してみた。昨日ロプロプから沢山もらったので、全部で三十本ほどある。槍を出すと、工藤の雰囲気が一変した。昨日と同じ圧力みたいなのを感じる。胤舜が降りてきたみたい。
胤舜が手にしたのは穂先が十字架のようになった槍だった。十字架の下の部分は槍の柄につながり、残り(上と左右)は全て先が尖った平たい両刃になっている。突いて良し、振り回しても良し、引いて良しという感じだろうか。
胤舜は槍を手に取ると、少し離れてから数回突いたり振り回して使い勝手を試している。風を切る音が迫力ありました。
「この中ではこれだな。長さも重さも均衡もしなりもまあまあだが、穂先に一工夫足りん」
ここでなぜか江宮が出てきて穂先の模型を見せてくれた。十字架型の左右の刃が三日月形、アルファベットのCを九十度左に回したような形になっている。お椀を垂直に切った断面を横から見た感じと言えばいいだろうか。
「おお、これだこれ。お主分っているではないか」
胤舜は大喜びで帰っていった。工藤は魔力を使い果たしたのか、魂が抜けたようにぐったりしている。俺は江宮に言った。
「お前知っていたのか?」
江宮は笑顔で頷いた。
昨日、山からの帰り道、雑談する中で当たりを付けたらしい。流石だな。ついでに他の武器=刀剣の類も出してみた。小さいのは護身用のダガーから斬馬刀のように刀身が一メートルを超えるものまでいろいろだ。刀剣槍の連中が集まって品定めしている。
ロックバード退治に持って行くくらいだから、どれも名刀名剣であることは間違いないと思うのだが、誰も欲しいという奴は現れなかった。手にした感じがピンと来なかったというのもあるし、霊じゃないけど変な因縁みたいなのが付いてたらやだな、と思ったらしい。
伯爵に相談したら、ロプロプから貰った武器防具装飾品の類は亡くなった人の家族から有料で捜索の依頼が出ている可能性があるので、冒険者ギルドに持ち込むのが良いとのこと。特に依頼が出ていない場合でも、品物に応じて買い取ってくれるそうだ。
十文字鎌槍については、鍛冶師ギルドに注文を出せばよいそうだ。明後日にでも宿舎に来てもらうよう連絡するとのこと。
ついでに、ロプロプから貰った魔石を見せると、伯爵は腰を抜かすほど驚いた。魔石は直径一メートルを超えるほぼ球形で、重さは百キロを超える。色は透明なので、風の魔石だろう。
「こ、これは本物ですか?」
「ロプロプがくれたので、本物だと思います」
伯爵はごくりと鍔を飲み込んだ。
「これほど大きな魔石は見たことがありませんぞ」
「売ったら幾らになりますか?」
伯爵は首を左右に振りながらこたえた。
「恐らく誰も値を付けられませんな。もし値を付けるとしたら・・・そうですな。国が買える値段になりますぞ」
俺は羽河と顔を見合わせた。
「どうする?」
羽河は即答した。
「ロプロプの言った通り、女神様に献上しましょう」
もちろん誰も異議を唱えなかった。
出発する前に山を向き手を合わせて拝むと、伯爵から聞かれた。
「何を祈ったのですかな?」
「無事に鍛錬が終わったことについてお山とロプロプと大魔神にお礼を言いました」
伯爵には俺の気持ちはあまり伝わらなかったが、みんなそれぞれの形で山に向かって別れを告げていた。
宿舎やトイレを収納し、馬車に乗り込もうとすると、江宮が座布団を人数分持ってきてくれた。
「これを使ってくれ。少しはましになるはずだ」
低反発クッションを全員分作ってくれたらしい。なんて良い奴なんだ。商品としても売れるかもな。
江宮のお陰で帰り道はかなり楽になった。伯爵やイリアさんの評価も最高だった。金貨一枚出しても是非欲しいと言われたけど、いつまで使えるか分からない(なんせ投影で作っているので)ので、王都に着いたら回収させて頂くことにした。
石切り場の跡地で最初の休憩を取った。伯爵によると、石が取れなくなったのではなく、ハングリーエイプが嫌がらせのように襲ってくるので、放棄することになったそうだ。切り出した石が無造作に積み上げられたままになっている。
建築用の石材として切り出していたらしいが、白の中に錆びたような赤が混ざった石が何か使えそうな気がするので、目に付く限り全部アイテムボックスに収納した。馬車に乗り込もうとすると、雷が鳴った。雲も無いので、不審に思って音のした方を見ると、夜神が何かやっている。
「何やっているんだ?もういくぞ」
「もうちょい待ってくれへん?あと少しなんや」
どうやら魔法の組み換えをやっているらしい。夜神によると、青い稲妻と閃光を切り離して、青い稲妻を単発の雷、ビッグサンダーを威力を上げた単発の雷、雷雨を複数の雷という形にするようだ。
雷雨の威力の調整は、キーワードに続いて雷の本数を叫ぶことで調整するのだとか。夜神が叫んだ。
「雷雨十」
標的になった岩場に複数の雷が一度に落ちた。足元が揺れるほどの衝撃。爆破シーンがある刑事ものや戦隊もののロケはよく採石場でやっているが、それと同じで今ここでしか試せないというのは分かるかも。
夜神の調整が無事に終わったので、出発した。冬梅が少しばかり黄昏ているが、精々一条に慰めてもらおう。次の休憩では浅野の新スキルを披露して貰おうと思ったが、夜神が手を上げた。
レベルが上がったことで一部の職業が進化し、新しいスキルも付きました。新スキルの「誘惑」と「飛行」は次回以降のお楽しみ。