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第220話:山岳地帯1-15

 ガーディアンが先頭になって帰路についた。これからはずっと下り坂なので、その分楽にはなりそう。しばらく歩くと藤原が叫びながら右の崖を指さした。

「いる!」

 夜神が詠唱を開始した。


 どうやら擬態をしているようで、あいつの正確な場所は分からない。しかし、こういう時こそ威力を発揮するのが範囲魔法だ。夜神が叫んだ。

雷雨サンダーレイン!」


 右の崖一帯に雷が落ちた。青紫の光と轟音、そしてほこりが焼けたような匂いに包まれる。俺たちの前方二十メートル位先の崖の上から巨大なひも状の岩がずるずると道路に落ちてきた。頭がちょっとピンク色がかっているので、あの大岩蛇だろう。崖に張り付いて隠れていたみたい。雷の直撃を受けて麻痺しているようだが、死んではいない。あの鱗は雷にも耐性があるようだ。


 工藤が叫んだ。

「夜神、あと何発打てる?」

「一回だけや」

「よし、俺が避雷針を立ててやる」

「何のことや?」

「雷には避雷針だろ」


 工藤は槍を持ったままいきなり崖を斜めに十メートルほど駆け上がると、右足を蹴って左に大きくジャンプした。

「雪崩突き」

 そのまま反転落下すると全体重をかけて大岩蛇の頭に槍を突き刺した。槍は見事に鱗を貫通し、大岩蛇の頭に槍が生えた。


「夜神、今だ」

 工藤が退避したのを見て俺は叫んだ。夜神も叫んだ。

大雷ビッグサンダー!」


 黄金色に輝く雷が槍に直撃した。轟音と共に蛇の二つの目は爆発し、真っ赤な血が噴水のように吹き出した。全身が硬直し、一本の棒のようになったが、数秒後には緊張が緩んだ。口から紫色の煙が上がっている。恐る恐る近寄ったが死んでいるようだった。


 槍によって雷の電流が直接脳に流れたのだろう。槍を見ると鉄が半分溶けていた。大量の電流が一度に流れたことにより鉄が溶けるほどの熱が発生したのだ。俺が思うにあれは避雷針ではない。導雷針だ。これほどの電流と熱が脳を直撃したら死んだはずだ。


 蛇が道路を完全にふさいでいるのでアイテムボックスに収納した。収納できたので死んでいることは確定だ。良かった。良かったけどアイテムボックスの中が生臭くならないか心配だ。血抜きだけしておこう。それにしても・・・。


 俺は夜神にマジック・ポーションを渡しながら聞いた。

「凄い威力だったけど、なんでビッグサンダーなんだ?」

 夜神は左手を左腰に当て、右手で一気に飲み干すと言った。

「まずい、もう一本!」


 思わずもう一本渡すと夜神は手で断った。冗談だったみたい。あ〇汁の真似か?

「なんとなく・・・いや、ここが山だからやな、きっと」

 つまりビッグサンダーマウンテンだと・・・まあいいか。


 俺は半分溶けた槍をしげしげと見つめている工藤に新しい槍を渡しながら聞いた。

「よく槍が刺さったな」

 工藤は槍を受け取ると、にやりと笑ってこたえた。

「平井がさっき傷つけた所を狙ったんだ。あれが無ければ無理だったと思う」


 これもまた連係プレイの一種と考えられるかもしれない。伯爵とイリアさんが感心していた。

「とにかく鱗が硬いので、大岩蛇は討伐不能魔物と言われております。それを被害なしで討伐するとは流石は勇者様でございますな」

「いつもながら適切な状況判断、まるでベテランのクランを見ているようです」


 大岩蛇を討伐したが、残念ながら今回はレベルアップは無かった。夜神は今日はもう魔法は使えないだろうが、なんとかなるだろう。利根川が大岩蛇の血を欲しがったので、アイテムボックス経由で分けてやった。


 ポーションを配布した後、先頭を月に向かって撃てに代えて出発した。早速出たのは鉄ゴーレム。下に行かせまいと五体が前列二体、後列三体の体勢になって通せんぼしている。浅野に頼もうかと思ったら意外な人物が手を上げた。志摩だ。


「俺も新しい魔法を作ったんだ。ぜひ汚名返上させてくれ。たにやん、ちょっと手伝ってくれないか」

「分かった。何をすればいいんだ」

「土と岩を適当に出してくれ」


 言われた通りに土と岩を出すと、志摩は手早く呪文を唱えてキーワードを叫んだ。

「ライク・ア・ローリング・ストーン」

 出来上がったのは得意のゴーレムではなかった。直径三メートルほどの球が、勢いよく転がりだす。時計回りのスピンがかかっているようで、うまいこと道路に沿って曲がっていく。


「ボーリングは得意なんだ」

 志摩は得意げに言った。下り坂が幸いしたのか、ボールは右にカーブしながら勢いよく転がっていく。息を止めて見ていると、鉄ゴーレムに見事命中。四体跳ね飛ばしたが、後列の左端が残った。残念!四体はそのまま崖下にボールと一緒に落っこちていった。ガードレールが無いからな。


 志摩は舌打ちすると残念そうに呟いた。

「バックアップは難しいや。左回りならカーブボールが使えるのに」

 野球でもシュートはカーブより投げるのが難しいもんな。


 土と岩をもう一度出すと、志摩は再度叫んだ。

「ライク・ア・ローリング・ストーン」

 二メートルほどの球が勢いよく転がっていくと、狙いを外すことなく残り一体を跳ね飛ばした。


「スペア!」

 なぜかヒデが叫んだ。こいつはピッチャーの癖にボーリングが大好きなのだ。肩や肘、手首への負担を考えて禁止令が出ているのに、こっそり遊びに行ってることを俺は知っている(誘われたので)。


「転石苔むさずとはこのことだな」

 工藤が感慨深そうに呟いた。そういうことではないと思うのだが、黙っておこう。志摩は力強く宣言した。

「次は必ずストライクを取る!」


 何か違うような気がするが、気にしたら負けだ。俺はさっきから不思議に思っていたことを聞いた。

「俺が出した土や岩の量と出来上がった球の大きさが合わないような気がする。大きすぎないか?」


 志摩は笑ってこたえた。

「当然だろう。中身は空っぽ、皮だけだ。皮の厚みは三センチ位かな。でも強化をかけているから結構丈夫だぞ」


 志摩が誓いを果たす機会はすぐにきた。しかし、今度のゴーレムは横一列に並んでいる。これでストライクは難しいのでは?志摩は不敵に笑うと新しいキーワードを叫んだ。

「ローリング・ストーンズ!」


 最初と同じ量の岩と土を出したが、今度は直径一メートルほどの黒い球が五個出現した。黒い球はもつれあうように転がっていき、五体全てをきれいに跳ね飛ばした。

「ストライク!」


 ヒデが右手を突き上げて力強く宣言すると、志摩は小躍りして喜んだ。球の色が黒い事や五個が一セットになっていることに意味と言うか、こだわりがあるのだろうが聞かないでおこう。


 工藤が再び感心したように呟いた。

「ちゃんと複数形になっている」

 そういうことではないと思うのだが、何も言うまい。


 その後も鉄ゴーレムが出るたびに志摩の二種類の魔法が炸裂した。登り口にたどり着くまでに鉄ゴーレムを計二十五体倒したのだった。浅野の魔法程ではないが、ボウリングのピンのように吹っ飛ぶだけのゴーレムが哀れだった。登り口を降りた所で休憩し、先頭をクレイモアに代わって出発した。


 分岐点(合流点)の手前では青銅のゴーレムが道の両脇に一列に立って、右手に花を持って待っていた。敵意が感じられなかったので、そのまま通ると花を俺たちに向かって一人一人投げてくれた。これは一体何の意味があるのだろうか?誰か教えて欲しい。


 女の子の一部が感動していたので、お礼代わりに菜種油を小樽で一個置いていこう。役に立つのかな?ついでにジャイアント・ゴーレムのコアも置いていく。リサイクルの材料になるかも。


 青銅のゴーレムたちにさよならした俺たちは分岐点(合流点)で立ち止まった。このまま左に行っていつもの道を戻るか、それとも右に行って新しい(魔物との)出会いを求めるか・・・。もちろん左に行くのが正解であることはみんな分かっている。おそらく夕方前にはベースキャンプに辿り着くだろう。


 もし、右に行けばどうなるのか。西側の山は岩だらけの禿山だったが、東側の山は緑がある。緑があるということは生物がいるという事であり、当然西側とは違う魔物に遭遇する可能性が大いにある。どうするか?手っ取り早く多数決で決めることにした。


 俺は叫んだ。

「左が良いと思う人」

 俺は元気よく手を上げた。

「はい」

 一人だけだった。仕方がない。


 気を落とさずに続けて叫んだ。

「右が良いと思う人」

 俺以外の全員が手を上げた。

「「「「「はい」」」」」

 羽河まで上げていた。なんで?


 ヒデが俺の肩に手を置いて優しく言った。

「あきらめろ」

 どうやらみんなまだまだ冒険がしたいようだ。まいったな。右に行けばどんな魔物が出て来るのか分からないんだぞ。俺たちは東側の奥の山を右回りに回る道に入った。


ライク・ア・ローリング・ストーンはアメリカのフォークの神様、ボブ・ディランの代表作にして最大のヒット作です。金持ちをからかっているような歌ですね。ローリング・ストーンズはいわずとしれたロックの王様です。ボーカル+リズムギター+リードギター+ベース+ドラムスというバンドの基本形を確立しました。

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