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第217話:山岳地帯1-12

 道路に大岩蛇の鱗が六枚落ちていたので拾ってみた。縦が五十センチ・横が三十センチの楕円形で厚みが三センチほどある。両手で持つと予想したよりずっと軽かった。片手で持てるくらい。ひょっとすると売れるかも。利根川が欲しがったので、一枚渡した。


 ポーションを平井に渡し、先頭を炎の剣に代わって出発した。五分も歩かないうちに道は行き止まりになった。ここは真ん中山の真北、崖から下を見ると登り口が見える。振り返って南側を見ると階段になっていた。ここを上がった所が目的地だそうだ。


 階段を五十段ほど上がるとそこは頂上だった。南北二百メートル・東西百メートルの楕円形になっており、南北の真中が段になっていて南側が一段高くなっている。そこにいるのはロックバードだそうだが、白い羽毛の丘にしか見えない。


 しかし、俺はロックバードより気になる物があった。手前の広場(?)の中心にある高さ十メートル程度の岩山だ。何か尋常ならざる気配を感じる。早く帰ろう。俺は羽毛の丘を指さしながら伯爵に聞いた。

「ロックバードの巣はあそこですよね。これで目標達成ということでいいですよね?」


 伯爵も岩山を横目で見ながらこたえた。

「さようでございます。見事目標達成ですな」

「では帰りましょうか」と言いかけた所で、甲高い音と共に岩山が閃光を放った。やっぱりこれなのか。


 岩山は見る間に合体ロボみたいに人型に組み上がっていき、高さ十五メートルほどの立派な岩ゴーレムになった。岩ゴーレムは両方の拳で胸板を叩いて(無言で)吠えた。ゴーレムに発声機能は無いのだ。それにしてもお前はキングコングか?


「あ、あれはジャイアント・ゴーレム!」

 伯爵が驚いている。俺は思わず怒鳴った。

「知ってたんでしょう?これで終わりと思ったのに」


 伯爵も怒鳴った。

「いや、一か月前はあんなのはここにはございませんでしたぞ」

 髭がピンと立っているので、嘘ではなさそうだ。


 振り返ると入口の階段には鉄ゴーレムがぎっしりと集まっていた。あいつらを排除するのはちょいと時間がかかりそうだ。どうやらあのでかぶつを倒さなければお家に帰れないみたい。ジャイアント・ゴーレムは準備体操代わりに四股を踏みだした。突っ込むのはもうやめよう。


 俺はまず志摩を見た。だってゴーレムにはゴーレムだろ。しかし、志摩は両手を前に出して大きく左右に振った。

「無理無理無理無理。俺の作るゴーレムなんか最大で五メートルだ。それにろくに動かないから相手にならないって」


 仕方がないので平井を見た。平井は黙って首を振った。魔力がまだ回復していないようだ。次に夜神を見たが、伯爵からストップがかかった。万が一にでも雷がロックバードに飛んだら、全員皆殺しだそうだ。


 もしかしてと思って浅野を見たが首を振った。

「さっきからやっているんだけど、魔法が全部はじかれてしまう」

 イリアさんが言った。

「より高度な魔法がかかっているのでしょう」


 俺は最後の期待を込めて冬梅に言った。

「頼む。サンダを召喚してくれ」

 冬梅は額に汗をかきながらこたえた。

「駄目だ。この世界は痛いし、きつすぎるから嫌!これからはラブ&ピースだって言っている。左手でL、右手でピースしている。あ、切られた・・・」


 トロールと戦ったサンダなら戦えるのではないかと思ったのだが、そのトロールのせいで戦うことがトラウマになったようだ。平和主義者になったみたい。サンダがヒッピーになる日が来るとは・・・。まあ生身(?)で岩を殴るのってどう考えても痛そうだよね。それにしても「切られた」だなんて、電話じゃないだろ。


 俺は叫んだ。

「分かった。何でもいいから代わりを出してくれ」

「エロエ〇エッサイム。エロエロ〇ッサイム。我は求め・・・」

 冬梅は返事の代わりに呪文を唱えて杖を振った。


 まさか悪魔が出て来るのか?固唾をのんで見つめていると、雷と共に豪風が吹き荒れた。反射的にしゃがんだ俺は大きな物体の日陰にいることに気が付いた。目を開けると目の前にはでかい石の塊があり、その上には円筒状の太い柱が立っていた。


 そのまま顔を上げるとがっしりした胴体があり、さらにその上には埴輪はにわのようにのっぺりした顔が乗っていた。大映の誇る特撮時代劇の大スター、大魔神だ!しかし、このままではただの巨大な人型の石象だ。なんとかして怒れる荒神様に変身して貰わなければならない。そのためには・・・。俺は叫んだ。


「洋子、頼む!」

 洋子はちゃんと覚えていた。走って大魔神の下に行くと、巨大な足にすがりついて叫び声を上げた。大魔神シリーズは以前動画サービスで一緒に見たことがあるのだ。

「魔神様、お願いです。どうか私たちをお助け下さい」


 しかし、大魔神は一ミリも動かなかった。完全に無視された洋子は怒って岩を蹴った。

「何よ、処女じゃないと駄目な訳?そんなの原作に無いわよ。ふざけんな!」

 女の子達が一斉に浅野を見た。視線の重圧を感じて浅野の声が裏返った。


「僕?僕なの?」

 羽河が重々しくこたえた。

「この中で、いや三年三組の女子の中で大魔神にお願いできるのは浅野君ただ一人よ。ユニコーンの時にわかったでしょ」


 数人の男が倒れた。誰狙いか分からないが、ショックだったようだ。浅野は唇を噛みしめると、大魔神の足元に駆け寄った。台詞は一緒だ。

「魔神様、お願いです。どうか私たちをお助け下さい」


 大魔神の全身が細かく震えた。身体の横にだらりと垂れ下がっていた右手を顎の下に持ち上げ、下から上に払った。埴輪の顔面が仁王像のような青黒い憤怒の表情に変わった。やった!大魔神の起動に成功した。


 俺は浅野の親父に感謝した。きっとコレクションの中に大魔神シリーズも入っていたのだろう。大魔神はゆっくりと体を回してジャイアント・ゴーレムと向かい合った。大魔神の身長も十五メートルほどだ。体格・素材・体重のいずれも問題なし!多分。岩の巨人と岩の巨神が睨みあった。


「でかした、冬梅、淺野!」

 俺は思わず叫んだ。大魔神は山の神様や石に宿る精霊のような自然神に近い存在だと考えられる。つまりは神の一柱であり、霊的には人間より遥かに格上の存在なのだ。それを召喚できるなんて、本当に凄い。


 冬梅は蒼白な顔で笑うと、そのまま倒れそうになった。横にいた一条が悲鳴を上げながら肩を支えた。魔力も体力も何もかも使い果たしたのだろう。俺は冬目にマジック・ポーションを渡しながら聞いた。


「大魔神って山の神様みたいなものだろう?よく召喚できたな」

「僕が一番驚いているよ。自然神みたいなものとはいえ、神様だからね」

「代償無しで良くやれたな」

「代償?あるよ・・・」


 俺は驚いて叫んだ。

「どこか何かあるのか?」

 一条も真っ青になっている。最悪臓器の欠損や寿命の短縮の危険があるのだ。しかし、冬梅の答えは予想外のものだった。


「魔力がマイナスになってしまった」

「マイナス?なんだそれ?」

 冬梅によると、240あった魔力が今は△2400になっているそうだ。ちなみに△はマイナスの意味である。


「なんじゃそれ?」

 俺は思わず叫んでしまったが、頭の隅で思い出したことがある。俺の叔父さんは営業に行く前は電算室でシステムの開発や管理をやっていたそうだが、在庫を管理するシステムではマイナスの在庫が持てるそうなのだ。


 例えばAという会社にH型鋼の在庫が30本あったとする。Bという会社にH型鋼を100本販売すると、A社のH型鋼の在庫は△70本となるのだ。ちなみにこれはあくまでシステム上の話であり、現物とは異なる。


 とりあえず30本だけ納品した場合、現物の在庫は0本だが、後日H型鋼を100本仕入れてB社に70本納品すると現物の在庫もシステム上の在庫も30本になるのだ。在庫は無いけど売り上げが欲しい時に、協力会社と結託してやる方法なのだが、これと同じことが起こっているのか?


「どうなっているんだ?」

「少なくても魔力が戻るまで魔法は使えないと思う。魔力を戻すにはその分の日にちが経過するのを待つしかないみたい」


 俺はようやく理解した。マジック・ポーションは飲めば飲むほど効率が落ちていくので自然回復を待つしかないのだろう。冬梅は淡々と言った。

「多分、回復するまで十日はかかると思う」

 どうやら洞窟地帯では冬梅は戦力として計算はできないようだ。厳しいな。気休めにしかならないが、一条に追加のマジック・ポーションを渡していると轟音が響いた。


 ジャイアント・ゴーレムと大魔神が広場の中央で激突した。俺たちは慌てて後ろに下がった。岩の巨人と岩の巨神の戦いに巻き込まれたら、か弱い人間など蟻のようなものだ。ついでに階段の鉄ゴーレムを千堂達が一体づつ排除していく。


 ジャイアント・ゴーレムと大魔神はまずは手四つで組み合った。あれ?相撲じゃなかったの?単純なパワーではジャイアント・ゴーレムが上のようだが、大魔神には技があった。押された体勢からゴーレムの右手を抱えて反転し、背中をゴーレムの腹に密着させると、きれいな背負い投げを決めた。身体が地面から飛び上がるほどの衝撃。


 柔よく剛を制すの極意を見せた大魔神は思わずガッツポーズを決めた。柔道の試合であれば「一本、それまで!」で終わりなのだが、そうはいかない。ジャイアント・ゴーレムは仰向けの姿勢でしばし呆然としていたが、横向きから四つん這いの姿勢になると右手で地面を叩いて悔しがった。


 起き上がってクラウチングスタイルのような前傾体勢を取ると、じりじりと距離を詰めていく。二十五メートル位の位置までくるとゆっくり右に回りだした。大魔神は左足を前に出した半身のアップライトスタイルで、ゴーレムに合わせてゆっくり右に回る。


 ジャイアント・ゴーレムがタックルから左足を取るのが狙いなら、大魔神は相手が突っ込んできたところに合わせて右の前蹴り、あるいは左足をいったん引いて左の膝蹴り、もしターゲットを変えて右足を狙ってきたら右肘を首に落とすという感じだろうか。

大魔神はガメラと並ぶ大映特撮映画の代表作で三作(大魔神、大魔神怒る、大魔神逆襲)あるのですが、公開は1966年の4月・8月・12月なんですね。四か月おきに映画作れるなんて凄いや。まあ、主役(大魔神)のキャラクターや勧善懲悪というメインストーリーは固定なので、こういうことができるんでしょうね。

 赤影も一部そうですが、時代劇と特撮を合体するというかなり斬新な映画なので、見たことの無い人は是非一度見てください。古き良き時代劇の様式美を味わってほしいと思います。そもそも大魔神はヨーロッパのゴーレム映画(巨人ゴーレム)から着想したそうなので、今回の対決は親子喧嘩ともいえるかも。

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