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第214話:山岳地帯1-9

 先頭はガーディアンに交代してそのまま浅野に頑張って貰うことにした。鉄ゴーレムは五体一組で現れては浅野の術にかけられて、みんな紐無しバンジーに挑戦していった。浅野はいろいろアレンジしたが、「駆け足進め」や「左向け左、前へ進め」も全部成功した。


 ゴーレムが走って大空にジャンプするのも(その後墜落)、左向け左の後、五人全員が俺たちの方に顔を向けたまま一人ずつ順番に崖から歩いて落ちていくのも、なんだか精神的につらかった。俺は浅野に聞いた。


「お前ひょっとして無敵じゃないの?」

 浅野は笑いながら言った。

「たにやん、考えすぎだよ。人をなんでも自分の言いなりに出来ると考えてるんでしょ?」


「違うのか?」

「違う!」

 浅野はきっぱり言い切った。


「あれができるのは、ゴーレムだけだよ」

「どうして?」

「元々ゴーレムは命令を受けて働くために作られたものだから意思が無いし、生存本能も無い。しかし、僕たち人間には意思があり、生存本能もある。だから他人にかけたら僕の魔法ははじかれると思う」


 試しに「前へ進め」を俺にかけてもらったが、足は動かなかった。それを見て周りの人間が全員安心したように笑った。みんな心配していたんだと思う。大きすぎる力は災いの素になるからな。でも本当のことを言うと、ちょっと動きそうになった足を抑えたのだ。でもこのことは秘密にしておこう。


 山を約半周回り、真南の位置に来たところで伯爵が行進を止めた。右手を見ると、はるか南に王都が見えた。

「今日はここまでですぞ」

 確かに今日はいろいろありすぎで疲れた。反対する奴は誰もいなかった。とりあえず皆にニッケ玉を配った。


 真ん中山を下りる途中で鉄ゴーレムが三回現れた。二回浅野が相手したが、一回は間違って「左向け左」を命令したため、ゴーレムは山の岩肌に向かって突撃し、当然山肌にぶつかり、そのまま崖に向かって永遠の押しくら饅頭を続けることになった。面倒なので、そのままほっておくことにした。


 鉄ゴーレムの強さを知っておくべきという意見があったので、一回は希望者を募って戦うことにした。参加したのは、平井・一条・ヒデ・工藤・千堂の五人。平井は岩でも鉄でも関係ないと言わんばかりに袈裟切りで一刀両断。


 一条は試しに右腕を切り落としてから、岩より硬いと判断したのか、残りの手足を順番に切り落として危なげなく始末した。この辺の用心深さと状況判断の良さが一条の長所だな。


 ヒデは相変わらず黄金バットの頑丈さを活かしたパワー殺法で、相手の剣を弾き飛ばし首を飛ばしぼこぼこにして機能停止に追い込んだ。


 工藤は冷静にコアのある場所を見極め、一撃で貫いた。なんか別人のような迫力があった。千堂は華麗なステップで相手の内側に潜り込むと、左手のスマッシュ一発で決めた。相手が鉄でも「透し」は効いたようだ。


 真ん中山を下りるまでの間に一人だけ犠牲者が出た。青井が岩蛇に噛まれたのだ。ゴーレムを避けるために岩肌にぎりぎり近寄った時に、たまたま足元にいたのに噛まれたみたい。


 噛まれたところを見ると傷は大したことないが、傷口からゆっくりと白くなっていく。触ると石のように硬い。これが石化の毒か。心臓まで固まるとアウトなのだそうだ。慌てて解毒ポーションと回復ポーションを飲ませた。


 真ん中山を下りて左右の分岐点に着いたが、青銅のゴーレムの残骸はきれいさっぱり無くなっていた。回収されたみたい。

 奥の山を回り、砂地を越え、手前の山の横を通って帰った。念のため砂地では砂を追加で十トン確保しておく。岩ゴーレムはそっぽを向いて銅像のふりをしていた。岩蛇と火鼠が散発的に襲撃したが、問題なく殲滅した。


 今日は合計で青銅のゴーレムを百体、人面鳥を十匹(推定)、鉄のゴーレムを四十五体、岩蛇を三十匹、火鼠を四十五匹倒した。岩蛇と火鼠のみアイテムボックスに収納している。


 ベースキャンプに着いた頃には既に日は傾き、地平線にキスしようとしていた。いつもより念入りに火床の準備を進める。江宮が何か気が付いたのだろうか、俺をじっと注目している。なんかやりにくいのでさっさと話すことにした。


「今日はあれだ」

「あれか?」

「あれだ」


 これだけで分かってくれたようだ。江宮は千堂とミーティングを開始した。いつもより多めに炭を用意する。日も落ちてきたので、糧食フォルダの三日目→夜フォルダを開いた。中に入っていたのは焼き鳥の串とたれ、そしてエールの樽だった。


 炭が安定してきたので江宮が焼き始めた。数種のソーセージ・ベーコン・つくねやホルモンまで含めて肉類だけで二十種類、野菜だけで十種類の串が並ぶ。今日も塩は江宮、たれは千堂が担当するようだ。肉の脂が滴り、天まで焦がすような炎と煙が上がる。その音と匂いで皆が自然に寄ってきた。テーブルに樽とジョッキと取り皿を並べる。宴会が始まった。


 エール以外の飲み物をピッチャーで出して、後は江宮たちにまかせることにした。エールを片手にのんびりしていると、伯爵とイリアさんがやってきた。

「いつもながらですが、ただ火で焼くだけなのになぜこれほどまでにうまいのでしょうか?」

「厳選した素材を丹念に下ごしらえし適切に切りそろえ串打ちし、最適な塩加減と火加減で焼いているから、としか言えません」


 イリアさんはため息をついた。

「単純な物ほど上手と下手の差が出るものなのですね。これが食文化の差なのでしょうか。私の体内で未来との衝突が起こっています」

 伯爵は大きく頷くと、ジョッキをあけた。


「今日もお見事でしたぞ。奇襲を受けても誰一人負傷しないのは通常あり得ない事であります」

「一人一人が成長しているだけでなく、クランが一つの生き物のように動いています。深い相互理解と信頼のなせる業です」


「それにしても・・・」

 伯爵は感心したように続けた。

「今日は何といっても浅野様に驚かされましたぞ。支援魔法を攻撃に使うとか、魔法の革命を見た気分ですぞ」

 イリアさんも大きく頷いた。


 返事に困っていると、調子に乗ったヒデが裸踊りを始めようとして初音に叩かれていた。俺は立ち上がって〆(しめ)のお茶漬けを用意した。おにぎりも良いけど、昨日出したからね。


 続けてデザートのヨーグルトアイスを配った。少し早いけどまあいいだろ。皆は口の中がさっぱりすると喜んでいた。


 恒例の「アサノ」コールが始まる。浅野は嫌がることなく歌い始めた。今日も良い意味で予想を裏切ってくれた。坂本九の名作「見上げてごらん夜の星を」だった。

 坂本九のデイサイドが「上を向いて歩こう」ならナイトサイドはこの曲だと思う。三日目にしてようやく定番&お馴染みの曲だったので、みんなで合唱して大盛り上がりだった。


 焚火が暑かったので、隅に移動して星を眺めていると、隣に誰か座った。一条だった。

「冬梅はいいのか?」

 一条は小声でこたえた。

「今トイレに行ったから大丈夫」


 なんかこのパターンやったなと思っていると、一条が尋ねた。

「尾上の地獄のような暗いオーラが消えたけど、何かした?」

「ちょっと話しただけだ。俺にはこれ位しかできないからな」


 一条はしばらく黙ってから呟いた。

「ありがとう」

「俺が言いだしたことだからな」


 しばらく沈黙した後で一条は続けた。

「あたしね、尾上が嫌いになった訳じゃないのよ。たにやんに言われるまでタカアキを男として意識したこともなかったし・・・」


 一条は少し間をあけて言った。

「告白された時も嬉しいとは思ったけどそれ以上の気持ちは無かった。でも、二人で話をしたり手をつないでいるうちになんかどんどん楽しくなってきて、これが好き、ということなのかなと思って止められなくなったの」


 俺は笑いながら答えた。

「今までほったらかしにされてたから、フラストレーションが貯まっていたんだろ」

「尾上からするとひどい話かもしれないのは分かっている。あたしが勝手に追いかけ回して勝手にあきらめただけなのよね」


 シリアスな雰囲気は苦手なので、冗談を言おうとしたら変なことを言ってしまった。

「一条、冬梅を頼んだぞ」


 ちょうど強い風が吹いて目にゴミが入ったので、右手で目を覆った。涙と一緒にゴミが取れたので、目を開けると一条が目をうるうるさせて俺を見つめていた。いかん、こいつ絶対何か勘違いしているぞ。


「本当に、本当に愛していたのね・・・。分かった、私があんたの分まで愛してあげる」

 誤解だと言おうとしたが、一条は俺を手で制して続けた。

「何も言わないで。あんたの気持ち全部分かったから」


 違うそうじゃないお前勘違いしている、という俺の心の叫びは一ミリも届かなかった。一条は感激した顔で去っていった。俺は心の涙を流しながら宿舎に戻ってお供えをセットした。


 今日は、炊き込みご飯・葡萄のジェラート・焼き鳥・ヨーグルトのアイスだ。いつものように目を閉じ手を合わせると、「美味し!」の声と共に、ペタン・ペタン・ペタンという音が聞こえた。


谷山君は大きな勘違いをされたようです。未来との衝突はアルビン・トフラーです。

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