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第205話:ハイランド王国物産展

ブックマートの登録ありがとうございます。

 俺たちは馬車の中でお昼ご飯を食べた。今日はイングリッシュマフィンだった。生地の中にチーズ・ハム・ベーコン・ローストチキンを混ぜてあった。デザートはスペインの定番アイスクリーム、カタラーナだった。食べながら、教会に行く際のお弁当はもう不要かもしれないと思った。


 教会から中央広場はすぐ近くだ。いつもは広々とした広場一体に白いテントを張った露店がびっしりと立ち並んでいる。もちろん人は一杯いるが、通路の幅が広くとってあるので、そこまで混みあっている感じはしなかった。


 八時半に迎えに来るように頼んで馬車を降りると、すぐ近くに見覚えのある一団が見えた。羽河を団長とする三年三組ご一行だ。向こうもこっちに気がついたみたいで、すぐに合流できた。


 水野はリサイクル、藤原はやることがある、花山・三平・中原の三人は興味が無いと言って来なかったとのこと。流石に全員でぞろぞろ歩くのは大変なので、パーティ単位で行動することにした。


 ただし、一条が尾上と一緒に行きたそうにしていたので工藤に預け、平野はうちの班で預かることにした。平野もいざという時に俺のアイテムボックスを当てにしているので、良かったみたい。


 さらに問題を起こしそうな伊藤は羽河に、野田はベルさんと一緒に工藤に預けることにした。お傍係として、レイナさん・エレナさん・ロゴスさんが来ているので、セリアさんを含めて各班に一人ガイドが付くことになる。結果、班分けは以下の通り。


月に向かって撃て:ヒデ、洋子、初音、俺、冬梅、平野

クレイモア:平井、夜神、利根川、江宮、佐藤、志摩

炎の剣:工藤、小山、鷹町、青井、尾上、一条、野田、ベルさん

ガーディアン:羽河、浅野、木田、千堂、楽丸、伊藤


 用心棒役の花山がいないのが不安だが、まあなんとかなるだろ。集合時間は八時半で決定。時計は広場東西の端に二か所ある。


 俺の班は武器関係(ヒデと初音)、洋服・装飾品(洋子と初音)の露店で足を止めることが多かったが、食品関係の露店では平野が大騒ぎだった。知らないものは全部質問していた。努力の甲斐あって、魚醤ぎょしょう・イリコ・干した昆布を発掘したのは大きな成果だったと思う。


 途中喉が渇いて真ん中にある巨大なフードコートに行って飲んだチャイとヨーグルトドリンクがうまかった(ちゃんとチケットを使いました)。フードコートの横にはチーズとヨーグルトのブースがあって、平野はみんなから金を借りてチーズとヨーグルトとメープルシロップみたいなのを山ほど買った。


 俺もお酒コーナーでドワーフの火酒なるものを銀貨五枚で買った。一通り回ったので、集合場所に戻ろうとしたら、誰かが俺の名前を呼んでいるそうだ。初音が教えてくれた。

「江宮が呼んでいるみたいよ」


 初音の指さす方に向かうと江宮がいた。

「すまん、佐藤のアイテムボックスがパンクしそうなんだ。来てくれ」

 仕方がないので走って行くと、漢方薬屋みたいなところで佐藤が倒れていた。奥を見ると、利根川が店主とヘンテコな言葉で談笑している。話がまとまったみたいだ。利根川は俺の顔を見ると笑って店の一角を指さした。


 六畳間位の広さのスペースに高さ二メートルほどの荷物が山積みになっていた。

「これ全部か?」

「そうよ」


 利根川は笑顔でこたえた。顔中髭だらけの遊牧民風の店主は笑いながら話した。

「このお嬢さんには負けたぜ。目利きが凄い。価値ある物だけ選びやがった。まあ、持ち込んだ商品の半分を買い取ってくれたから、これだけ値切られても文句は言わねえよ」


 相変わらずの爆買いぶりだった。とりあえずアイテムボックスに収納すると、また誰かが俺を呼んでいる。声のする方に手を振ると、小山が走ってきた。

「野田が大変、来て」


 小山に手を引かれながらまた走る。予想通り楽器コーナーがミニコンサート状態になっていた。野田がはまっていたのは打楽器だった。小さいのはコンガほどだが、でかいのは大太鼓位ある。二十個ほどの打楽器を全てセットで欲しがってるそうだ。


 野田のアイテムボックスは既にいっぱいなので、これも俺のアイテムボックスに収納して欲しいそうだ。でも、これ持って帰ってもどこに置くのだろうか?利根川も同じだけれど。


 代金が全然足りなかったが、野田が演奏を終えてお辞儀すると回りから雨のようにお金が飛んできて払いきることができた。店主も感動して涙を流しているからまあいいだろう。とりあえずこれも全部収納した。


 集合場所に戻った。場所が来るまで、各班の様子を聞いた。平井の班は利根川が薬品関係の物を片っ端から買い占めて回って大変だったそうだ。工藤の班は野田以外は武器関係の露店にはまったらしい。


 羽河の班は浅野がずっと声を掛けられたそうだ。その度に木田と楽丸が神社の狛犬みたいにガードしたとのこと。ただし、木田も洋服関係の店に入ると浅野の世話は楽丸に任せて買い漁っていたそうだ。特にセーターなどの毛織物関係!伊藤は羽河がマンツーマンでマークしたので、特に問題は起きなかったそうだ。


 元々場所が王宮前だし、ハイランド王国との外交が関わるので、警備が厳重で怪しげな奴が皆無だったのが良かったかもしれない。まあ、大きなトラブルが無くてよかったと思う。帰りの馬車の中では買った物を互いに見せあって盛り上がった。


 宿舎に戻ってからまずは羽河に署名が終わった養命ワインとジンジャークッキーの契約書を渡した。無償だけど、こういうことはちゃんとしておかないとね。利根川と野田に預かった物の置き場所を聞いたら、しばらく預かってくれと言われた。


 どうしようかと考えていると、商業ギルドのジョージさんがやってきた。

「お休みの日に申し訳ありません。薬酒、シューズドライヤー、靴の消毒薬、水虫薬の契約書の雛形を持ってまいりました」


 俺たちが明日から一週間いなくなることを考えて持ってきたんだろうな。頭が下がるぜ。俺はひとまず契約書を預かると、そのままラウンジで待って貰って、食堂に行って平野に声をかけた。

「忙しいところを悪いんだけど、今商業ギルドのジョージさんが来ているんだ。厨房の中を見せていいかな?」


 ダメ元で声をかけたのだが、平野は笑顔でОkしてくれた。ラウンジに戻ってジョージさんを連れて来る。厨房に入ったジョージさんは感激していた。

「素晴らしい。これが未来の厨房なのですな」


 平野が笑顔で説明した。

「私の国ではシステムキッチンと呼んでいます。出来るだけ機器の幅・厚み・高さを統一することで、部屋の広さ・形・使い勝手に応じて自由に組合わせできるようにしているのです。ここは元からあったオーブンやかまど、流し台を残しているので中途半端な面はありますが、それでも昔よりはかなり使いやすくなりました」


 ジョージさんは上ずった声で声でこたえた。

「見かけだけではないということですな。これが本当の機能美なのでしょう。感服しました。Slitsのビルでは是非メインで展示させて頂きたいと思います」


 感激しているジョージさんを引っ張ってラウンジまで戻ると、とんでもないことを頼まれた。

「魔法科学ギルドの展示用の製品を一式作って頂けませんでしょうか?」

 うーん、江宮の頑張り次第だな。

「時期と金額については後日相談という事でいいでしょうか?」

「もちろんです」


 ジョージさんは大きく頷くと次のお願いをした。

「実は一つ問題がございまして、洋服の展示をどうしたらいいのか悩んでいるのです」

 そうなのだ。この世界ではオーダーメードか自分で縫うか(あるいは人に縫って貰う)なので既製服が存在しない。だからマネキンが存在しないのだ。


「分かりました。なんとかしましょう」

 マネキンを作るしかないみたいだ。木田と志摩に相談してみよう。俺の言葉を聞いて、ジョージさんは満面の笑顔になった。


 ついでに俺も聞いてみた。

「ファッションショーの設営はどうですか?」

 ジョージさんは頭を掻きながらこたえた。


「一言でいえば大変です。木工ギルドとケンカ寸前の状態で進めています。それと、木田様に伝えていただきたいのですが、個室の数が足りません。ついては個室を二階建てにします。二階部分は王家と大貴族向けの広めの部屋にします」


 何だかどんどん大事になってきてるようだ。俺は念のためアドバイスした。

「ファッションショーは季節ごとに開くそうです。だから舞台や個室は組み立て式にして、保管できるようにしておいた方がいいかもしれないですよ」


 ジョージさんは驚いて目を向いた。

「なんと一度切りではないのですな。これは良い話を聞きました。今後も使いまわせるのであれば、原価計算がかなり変わってきます。ありがとうございます」


 軽く頭を下げると、ジョージさんは改まって話した。

「最後になりますが、先日は貴重なワインを頂き、ありがとうございました。妻が非常に喜んでおりました」


 ジョージさんを見送ってから振り返ると羽河がいた。

「また仕事が増えたみたいね」

 クールな言い方に静かな怒りを感じるのはきっと気のせいだ。


 事情を簡単に説明すると、Slitsビルのオープン時期をいつにするか十分考える必要がある、ということになった。まあ、当たり前だな。とりあえず、薬酒・シューズドライヤー・靴の消毒薬・水虫薬の契約書の雛形を羽河に渡した。


 いろいろとくたびれたので、食堂に行き、そのまま庭に出て太郎を呼んだ。手前の茂みから現れた太郎にワイルドボアの内臓肉の残りをやりながら愚痴を言うと、生臭い舌で顔をなめてくれた。


 今日の晩御飯は洋風おでんだった。なぜ「ポトフ」ではなく「おでん」なのかというと、魚のすり身の天ぷらが入っているからだ。コンソメベースでも和のメニューであることをしっかり主張していた。先生はすり身の天ぷらだけを追加で注文して、エールでご機嫌みたいだ。


 デザートは紅茶ケーキだった。パウンドケーキのベースに紅茶が入っているみたい。かすかにジンも入っているようで、遠くから森の匂いがするように感じた。

 部屋に戻ってから窓辺にお供えを並べる。今日は、スープスパゲッティ・イングリッシュマフィン・カタラーナ・すり身の天ぷら・紅茶ケーキだ。


 目を瞑り手を合わせ、今日まで生き延びたことを感謝し、明日からの修行が無事に終わることを祈った。いつも通り、「美味し!」の声に続いて、ペタン・ペタン・ペタン・ペタンという音が響いた。


ハイランド王国の物産展の見学も無事終わりました。平野さんのフィードバックが楽しみです。

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