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第202話:女神の森6

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 普通なら環状線を通って冒険者ギルドに向かうのだが、御者に頼んで東の大通りから南の大通り経由にしてもらった。冒険者ギルドの手前の娯楽ギルドの前を通ったが、工藤たちの姿は見えなかった。


 久々の冒険者ギルドだ。いつも通り裏口から解体場に入る。イントレさんがでかい声を上げた。

「坊主、久しぶりじゃねえか。今日は何を持ってきたんだ?ドラゴンとリヴァイアサン以外なら何でも捌いてやるぜ」


 俺は手を振ってこたえた。

「今日は持ち込みはありません。イントレさんにはいつもお世話になっているので、プレゼントを持ってきました」


 俺が手渡したのは薬種三号の三年物だ。試作したけれど薬味が強すぎて失敗作となったものだが、イントレさんなら大丈夫な気がしたのだ。イントレさんは栓を開け匂いを嗅ぐと、予想通り笑顔で受け取ってくれた。


「酒か。若い割には気が利くじゃねえか」

「身体に良い薬草を漬けこんであります。アルコール度数が普通の火酒の倍あるので、倍以上の水で割って飲んでください。非常時には傷の消毒にも使えますよ」


 倍の度数と言ってもイントレさんは驚かなかった。

「有難く貰っとくぜ。それと本当に何もないのか?」

 仕方がないので、サイレントグリーンとキラービーとキラーアントを各百匹ずつ出した。イントレさんは喜んで査定してくれた。いつも通り読めない書付を受け取ってから表に回った。


 玄関を開けると、むわっとする独特の匂いと熱気が流れてきた。中に入ると、すぐにサンドラさんの声が飛んできた。

「タニヤマ、久しぶりじゃないか。さっさとこっち来な」

 たまたま誰も並んでいなかったので、遠慮なくカウンターに行って書付を渡した。


 サンドラさんはメモを興味深そうに見つめて言った、

「こうやって百匹単位で買い取りに出している所をみると、相当のストックを持っているみたいだね。一度に出すと値崩れすることを心配しているのか・・・。あんたたちの持ち込みは質が良いから、ギルドとしても助かっているんだ」


 そこまで言うとサンドラさんは俺の背中越しに初音とヒデを見た。

「フジワラだったっけ。あの子は今日はいないみたいだね。炎獄もドワーフみたいな子(平井のことか?)もいないし・・・。まあこれからもよろしく頼むよ」


 平井は小さいのに怪力の持ち主という事で勘違いされているような気がする。査定は金貨八枚だったので、現金で支払って貰った。思う事があって金貨ではなく、全て銀貨にしてもらった。


 銀貨八十枚はずっしり重かったが、こういう時にアイテムボックスは本当に便利だ。串焼きとぬるいエールを欲しがるヒデを初音と一緒に引っ張って冒険者ギルドを後にした。今日の本命は女神の森なのだ。


 俺たちは馬車に乗って南の門を出た。目指すのは女神の森だ。製材所を通り過ぎて女神の森が見えてきたところで馬車を止めてもらった。道の左右は果てしなく広がる平原だ。何も言ってないのに、待ってましたと言わんばかりに初音が馬車から飛び降りた。


 慌ててヒデと護衛の騎士が追いかけたので大丈夫だろう。半時間ほど待っていたら、満足げな顔で初音が戻ってきた。後ろから角兎とキジみたいな鳥を持ったヒデがついて来る。最後に護衛の騎士が二人がかりで小型のワイルドボアを抱えてきた。


 獲物は、角兎が三羽、キジみたいな鳥が二羽、ワイルドボアが一頭だった。全てアイテムボックスに収納し、血抜きと解体を選ぶ。

 初音に聞いた所、指弾は小型の魔物だけでなく目や鼻のある魔物には十分使えるそうだ。もちろん相手を仕留めることはできないが、牽制したり誘導したり嫌がらせしたり、いろいろ使い途があるということだった。


 そのままお茶とお菓子(今日は干しイチゴとカスタードクリームが入ったパン)をみんなに配った。イチゴの一夜干しみたいなのを初めて食べたが、甘くて酸っぱくてうまかった。一刻程休憩してから出発した。

 女神の森の入り口付近の竹はほぼきれいに刈り取られていた。順調に伐採しているみたいだ。右回りで切っているみたい。


 俺と初音とヒデの三人で森の中に入った。別世界のように静かで深い緑の底を歩いて行く。感違いかもしれないが、前よりも神性が上がっているような気がした。無言のまま歩いて行くと、青く透き通った美しい湖に着いた。


 俺はいつもの場所に三十年もののワイン三種類の樽を三個ずつ並べた。ワインの横に置き台を出して、養命ワインが入ったピッチャーと薬酒三号の五年物が入ったピッチャーを置き、その横には山盛りのフルーツアイスと羊羹を大皿に並べた。置き台の両端にはジンジャークッキーが山盛り入った籠を並べた。


 準備が出来たので、初音とヒデに合図してから湖に向かって呼びかける。

「愛と美の女神・ビーナス様、谷山が参上しました」

 湖の水がぷくぷくと泡立つと、人型の水象が湖面の上に形を成した。女神様の降臨だ。人間離れした(神だけに当然か)美人な上に完璧なプロポーション、おまけに真っ裸なのにエロくないという摩訶不思議。これが神という事なのだろうか。


「タニヤマよ、よく来た」

 俺は一度つばを飲み込んでから話し始めた。

「お陰様で三十年物のワインが完成しました。また、頂いた薬草を元にした養命ワインと薬酒もできましたので、ワイン三種九樽と一緒に見本をお持ちしました。お菓子と一緒にどうぞお召し上がりください」


「苦しゅうない。よくぞ参った。黒の森の神殿には早速、我を崇拝する者が来ておるぞ。この度のそちらの働き、誠に見事であった」

 女神様は一息で言い切ると、ピッチャー二杯と大皿のお菓子をあっという間に平らげてしまった。


「良きかな良きかな。酒も菓子もいつにもまして見事な出来である。我が森の薬草と果実を存分に使いこなしておるようじゃな。また、これだけの量のワインを持ってくるとは天晴天晴!我が眷族よ、森の妖精どもよ、タニヤマの馳走にあずかれ!」


 女神が言い終わると同時に湖からは無数の透明な手が、森からは蜂のような羽音と共に妖精の群れが飛んできて、クッキーが入った二つの籠はものの数秒で空になった。女神様がなんだか随分機嫌が良さそうなので、お願いしてみよう。


「お褒めの言葉を頂き、恐悦至極でございます。出来ましたら湖のお水をいただけませんでしょうか?」

「よかろう」


 アイテムボックスが外部からアクセスされ、ほぼ空っぽの水フォルダに容赦なく水が注がれていく。その量なんと千トン!しかしまだまだ余裕がありそう。アイテムボックスのスキルレベルが上がったことによって容量が増えたのだろうか?


「ありがとうございました」

 何も言わなければまだまだ注がれそうだったのでストップをかけた。

「もうよいのか?」

「はい、もう十分です」


 女神様は微笑むと話しかけた。

「他にはないか?」

 チャンスだ!俺はアイテムボックスから焼きごてを五個取りだした。


「先ほど眷族と妖精の皆様に召し上がっていただいたクッキーに、この焼きごてを使ってビーナス様を模した焼き印を付けたいのですが、よろしいでしょうか?」

 女神様はなぜか大喜びした。


「よかろう。その焼きごてに我が祝福を授けよう」

 詠唱も腕の振りも何もなかったが、焼きごてに膨大な魔力が吸い込まれていくのが分かった。どういうご利益があるのだろう?ご利益付きの焼きごてという何か変なものが出来てしまったようだ。


「馬鹿者!役益が付くのは菓子の方じゃ」

 軽く怒られてしまった。そうだよな、焼きごてを両手に持って戦うヒーローなんてありえないよな。変な妄想をしてしまったが、今日の女神は寛容だった。


「まあよい。タニヤマよ、スタンプが二十個貯まったので、その褒美をやろう」

 湖の中から小さなガラス瓶が飛んできたので、慌ててつかんだ。虹を溶かしたような液体が日の光を反射して七色に輝いた。


「スキルレベルを8にするポーションじゃ。よく考えて使え」

「ありがとうございます」

 俺は心の底から安堵した。なんとか今回の目的は果たしたのだ。


「次はスタンプが四十個貯まった時期じゃ。これからも精進するが良い」

「ありがとうございます」

 心を込めてお礼を言うと、湖の中からまた何か飛んできた。慌てて掴むと、さっきのと同じ虹色に輝くガラス瓶があった。


「スキルレベルを8にするポーションをもう一本授けよう。此度の神殿復活に対する褒美として受け取れい」

 俺は初音とヒデに合図してから、三人ばらばらにお礼を言った。この同期が取れない所が俺たちの良いところだな(強がり)。


 さらなる褒美として大量の果物と薬草を受け取ると、俺たちは女神の森を後にしたのだった。

 帰り道、早速ヒデが聞いてきた。

「そのポーション、一個は利根川にやるんだろう?後の一個はどうする?」


 そうなのだ。俺も悩んでいたのだ。どうしようか?

「うーん、分らん。みんなで話し合うしかないな」

 それにしてもヒデも欲しいのか?


「正直言って黄金バットがどういうスキルなのか、スキルをどう伸ばしたら良いかさっぱり分からないんだ」

 俺の顔を見たヒデはさばさばした顔で白状した。初音も同意した。

「スキルレベルが上がることで、スキルの使い方が分かるかもね」


 確かに意味不明のユニークスキルの育て方なんて分からないよな。ヒデは候補者に入れるべきだろう。まあとりあえず、帰ってから考えよう。

 俺たちは明日の物産展のことを話しながら帰った。宿舎まで戻ってから、護衛した騎士たちにクリームパンの残りと「女神の森産です」と言って果物を分けると、凄く喜んでくれた。何かご利益があるのだろうか?


スキルレベルを8にするポーションを誰に使うべきでしょうか?

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