第198話:大蝦蟇召喚&商業ギルドにプレゼン2ー1
今年最後の投稿となります。来年もよろしくお願いします。
今日のお昼ご飯は牛のひき肉がたっぷり入ったコロッケが二個入ったコロッケドッグだった。おまけに隙間にはナポリタンが詰まっている。炭水化物+炭水化物+揚げ物というカロリー的には悪魔のような組み合わせだが、うまければそれでいいのだ。
デザートはガリガリ君もどきだった。サイダーを凍らせたような感じだが、ちゃんと青色に染めている所が素晴らしい。青空の下で食べるのが最高に気持ち良い!伯爵も気に入ったみたいでわざわざお替りは無いか聞きに来たくらいだ。
お昼ご飯の後、江宮はひたすら糸目の位置の調整、尻尾の長さの調整、風速の調整、重りを使った揚力の測定を続けた。その間、先生はずっと風係を務めた。大凧プロジェクトが成功したらに江宮に次ぐ功労者は間違いなく先生だな。だって一定の速さの風をずっと維持してくれるんだもの。
江宮が地味な実験を続けている間、俺たちは次の実験に入った。冬梅による大蝦蟇の召喚だ。小山が思いつめた顔で、平井がワクワクしながら見守る横で冬梅は目を閉じて静かに呪文を唱えていた。
長いような短いような時が過ぎると冬梅が目を見開いた。膨大な魔力が放たれると、突風が吹き砂嵐が宙を舞った。風と砂が収まると小山のような茶色の塊が練兵場に現れた。一軒家ほどもある巨大なヒキガエルだった。体長十メートル位ある。幸いなことに敵意は感じられなかった。
色は濃ゆい茶色で大小の黒い斑点がまだらに入っている。信号機のように大きく、どろりとした両目の下にはでかい鼻穴と車一台飲み込めそうな巨大な口が半開きで開いていた。女の子達が悲鳴を上げた。冬梅はよろけながら言った。
「完全に制御できている訳じゃない。用心して」
小山は真剣な顔で叫んだ。
「大丈夫?乗れそう?」
冬梅は俺を見て言った。
「腹が減ったから何か食わせろと言っている。でなきゃお前たちを食うって」
大蝦蟇の口から緑色の舌が伸びて口の前で左右に揺れた。
俺はとりあえず、キラービーとキラーアントとサイレントグリーンを十匹づつ出した。蛙だから虫系統が良いと思ったのだ。大蝦蟇はぺろりと全部食べてしまうと微笑んだ(ような気がした)。
「うまい、もっとよこせと言っている」
冬梅が通訳してくれた。当たりだったみたい。交渉の時間が来たようだ。俺は小山と平井を指さしながら大蝦蟇に言った。
「分かった。たくさんやるから、この子二人をお前に乗せてくれないか?」
大蝦蟇は小山と平井を見もせずに了解した。特に蟻が気に入ったようだ。舌にピリピリ来るのが良いんだと。蟻酸の事だろうか?
その後は小山→平井の順に乗って大蝦蟇を堪能して貰った。大蝦蟇の上で忍法のポーズ(巻物を咥えて印を組む)をとった小山が何とも言えないくらい可愛かった。これで終わりかと思ったら、藤原がやってきた。
「ボクも乗りたい」
騎乗のスキルを試したいみたい。もう一度大蝦蟇の了解を取ってから藤原が大蝦蟇の頭の上に座ると、大蝦蟇はのそのそ歩き出した。騎乗のスキルが効いたみたい。動きはゆっくりだが重量があるので、一歩あるく毎に地響きがした。
藤原の手招きに応じて、小山と平井も再度上った。大蝦蟇は三人乗せても全然平気みたいで、練兵場をぐるりと一周すると最後はサービスとばかりに赤い炎を吐いて見せた。小山も今度はリラックスしたみたいで、ピースサインを見せるほど余裕があった。
「ジャイアントフロッグですか・・・」
先生が感嘆していた。伯爵は声も出ないようだった。多分本当は違うと思うのだが、黙っておこう。蝦蟇から降りた小山が感激して俺と冬梅を抱き締めてくれたので、良しとしよう。
最後にキラーアントを百匹やると、大蝦蟇は大満足で帰還していった。また是非召んで欲しいそうだ。確かにでかいし重いし力は強そうだが、動きは遅いし皮膚が柔らかくてそれほど強くはないみたいだから、戦闘向きではないかもしれないな。
江宮の実験も終わったので、引き上げることにした。引き手を務めた花山たちに聞いたら、強い風が吹くと体が浮きそうなほどの力を感じたの事。江宮によると、揚力は凧の面積と風の強さに比例して大きくなるそうだ。当然と言えば当然か。
「大丈夫か?」
「風速はもう少し抑えた方がいいかもしれん。それと引き手の数を増やすだけでなく、保険として重りを追加しようか」
いろいろ考えなければならないが、魔法があることで相当に有利らしい。まず、枠や紙の強化が出来るので、軽くて頑丈な凧ができるそうだ。次に、魔法で一定の速さの風を安定的に供給できるのも、大きいそうだ。
自信に満ちた江宮を信じよう。幸いにも最後まで出番が無かった一反木綿だが、キラーアントをやると喜んで食べた。妖怪には蟻が人気なのかな?
宿舎に戻ると七時半になっていた。商業ギルドへのプレゼンを準備しなければ・・・。
大会議室に行くと、既に利根川と羽河が準備してくれていた。シューズドライヤーも試供品も準備しているとのこと。ジンだけでなく、養命ワインとジンジャークッキーも用意してあった。流石、分かっているな。
今日プレゼンするのは、ジン・シューズドライヤー・消毒薬・水虫薬なので、俺・利根川・羽河以外に参加するのは江宮だけれど、ファッションショーと娯楽ギルトのことがあるので、浅野・木田・工藤・志摩・水野も参加することになった。結局全員参加だな。もちろん、先生にも同席して貰う。
商業ギルド一行は時間通りにやってきた。担当のジョージさん(本部長)以外にミハエル・シュタイナー(ギルド長)、エントランス・ナカグロ(総経理)、イグノア・ゲッセ(酒部門)の三人が揃っている。予想通りだな。
手短に挨拶を済ませると、プレゼンの後にファッションショーと娯楽ギルドについて相談があることを伝えたが、特に異議は無かった。
プレゼンはジンの試飲からスタートした。四人の前の横長のコースターに置いた三つのショットグラスに三種類の薬酒を注ぎ分けていく。俺はジンについて簡単に説明した。
「薬酒一号・二号・三号でございます。材料や作り方の基本は火酒と一緒ですが、身体に良くて香り高い薬草で風味付けをしたお酒です」
四人は三種類のジンを静かに味わった。
「うめえ!」
最初に声を上げたのはイグノアさんだった。
「味付き・香り付きの蒸留酒だな。火酒とはまったく風味が違うが、三つともうまい。俺は三番目が一番気に入ったぜ。癖は強いがその分うまい」
エントランスさんも感嘆の声を上げた。
「女神の森と競合するのではないかと心配したのですが、杞憂であったようですな。安堵いたしました」
ミハエルさんも破顔一笑、大きく頷いた。
「感服しました。一号と二号はどちらも今すぐ商品化できる出来映えでございます。是非販売させて頂きたいと存じます」
俺は単刀直入に聞いた。
「三種類のレシピとラベルのデザインだけでなく、今後の改善方法についての取説まで付けて提供したいと考えます。ライセンス料は女神の森と同じく金貨一万枚でいかがでしょうか?」
ミハエルさんは余裕の笑顔でこたえた。
「三種まとめてということですな。女神の森と同じ条件であれば、まったく問題ありません。ラベルのデザインだけでなく、今後の改善方法まで用意されておるのですな。至れり尽くせりではありませんか。ぜひご契約をお願いします」
最後にジョージさんがまとめた。
「それでは契約書を用意しますので、レシピとラベルのデザイン、そして改善方法を書類にまとめていただきますようお願いします」
再びイグノアさんが発言した。
「その、頼みがあるんだ。その見本をもらうことはできるか?」
俺は笑顔でこたえた。
「もちろんです」
俺は封を開けた薬酒一・二・三号の瓶をミハエルさんに差し出した。ミハエルさんは二号の瓶をエントランスさんに、三号の瓶をイグノアさんに回した。一号は手元に置いたままだ。
ジョージさんがミハエルさんを見て、それから俺を見たので黙って頷いた。ジョージさんは安心したように笑顔を見せた。分ってくれたようで何より。
大蝦蟇の召喚は無事に終わりました。商業ギルドへのプレゼンもうまくいきそうです。