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第196話:王女様来襲3-4

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 時間になった。いつものメンバーが揃ったところで、先触れの声が聞こえた。

「エリザベート・ファー・オードリー王女のおなりです」

 扉が開くと王女は侍女と護衛の騎士を引き連れて現れた。桜色に花柄の白抜きが入ったドレスがシンプルゆえに素材の良さが生かされていてよく似合っていた。


 定番の挨拶を交わした後で、野田とピアノのことを説明した。ノリノリでショパンを弾いている野田を見ながら王女は感心したようにこたえた。

「あれが皆様の世界の楽器なのですね。言われてみれば、いつもの音色より鮮やかできらびやかに感じます」


 今日の晩餐のメインは先日三平が釣り上げたマグロの刺身だった。副菜にジャイアントロブスターと蟹入りの茶わん蒸しが添えられている。しょうゆの代わりにしょっつる、山葵わさびの代わりに細かく刻んだ辛いハーブを使っていた。


 マグロは、赤身・赤身のしょっつる漬け、中トロ、トロが先日納品されたばかりの船形の食器に盛り付けられていた。刺身について説明すると、王女の目が輝いた。


「素晴らしいですわ。お魚の切り身だから船の形の容器に入れてあるのですね。これは王家主催の晩さん会でもぜひ利用したい演出ですわ。それに魚を生で食べられるとは知りませんでした」


 ここで平野がワゴンを押した助手を連れて登場した。カツが乗った皿が二枚と養命ワインとジンが並んでいる。平野は一礼すると、まずはカツの皿を王女の前と先生の前に置いた。


「お刺身は横の小皿に入ったしょっつるを付けてお召し上がりください。お好みでハーブを刻んだものを薬味にどうぞ。生で食べる事に抵抗がある場合はこちらのお皿をお召し上がりください。マグロの身に辛子を塗ってパン粉を付け、油で揚げたものです」


 王女が銀髪を見ると静かに頷いた。毒は入っていないということだろう。王女はまずは赤身を一切れ食べて感嘆の声を上げた。そのまま全種類を順番に召し上がって満足そうに頷いた。


「美味しいですわ。生の魚がこのように美味しいとは知りませんでした。また、部位によって味が異なることも驚きでございます」

 王女は次にマグロのカツ(多分中トロ?)を食べて再び感嘆の声を上げた。


「脂が乗っているのに、さっぱりしている不思議なお肉です。このような素晴らしい料理を食べるのは久しぶりです。今日お伺いした甲斐がございましたわ」


 平野は続けてお酒を用意した。養命ワインはワイン用のグラスに、ジンはショットグラスに注ぎ分ける。助手が王女と先生の前にショットグラスを一列に置ける横長のコースターをセットした。Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの文字が描いてある。平野は注ぎ分けた順に、コースターの上にショットグラスを置いた。最後に養命ワインのグラスを置いて試飲の準備完了だ。


「お待たせしました。まずはワイングラスからどうぞ。赤ワインに美容や健康に良いハーブ類を漬けこんだお酒です」

 王女はワインをじっくりと味わいながら飲んだ。その上でラベルを見て言った。


「美容と健康に良いとお聞きしましたが、香りが華やかで素晴らしいワインですわ。売り出した暁には是非注文させて頂きます」

 王女は次にジンを順番に味わった。


「ⅠとⅡは似ておりますが、香りや味わいが異なりますわ。火酒のような深い余韻はございませんが、爽やかでキレが良くて楽しめるお酒です。Ⅲは正直に申し上げて渋みや苦みが感じられて飲みにくくございますが、その分深い薬効が感じられます」


 先生が手を上げた。

「私からもよろしいでしょうか?」

 王女も俺も異議は無い。先生は講義の時のように厳格な顔で話した。


「王女様の仰る通りです。薬酒Ⅲはおそらく製法が異なっているのでしょう。三種類とも使っているハーブの組み合わせが異なりますが、共通しているものもあるように思います。火酒とはまた性格が異なる素晴らしいお酒でございます」


 ここで平野は江宮に交代した。何をするのか注視していると、江宮は銀色に輝くシェイカーを取りだしてカクテルを作りだした。あれは・・・。

「薬酒ライムでございます」


 江宮が作ったのはジンベースの代表的なカクテルであるジンライムだった。王女は一口飲んで歓声を上げた。

「なんと色鮮やかで美味しいお酒なのでしょうか!梅酒と似ていますが、それとはまた別種の味わいがございます。夏にピッタリの爽やかなお酒ですわ」

 見ている間に飲み干してしまった。


 少ないながらも養命ワイン・薬酒一号・薬酒二号を献上品としてお持ち帰り頂くことを伝えると王女は喜んでくれた。ジンライムのレシピを欲しがったが、七月分のレシピの中に入れることを伝えると納得してくれた。


 デザートは色とりどりのフルーツアイスキャンデーだった。どうやったのか知らないが、適度に空気が混ざっているので、カチカチではなく柔らかく噛めるのが嬉しい。全て約二センチ角のサイコロ状の氷になっていることに王女は驚いた。

「これはどうやって作っているのですか?」


 厨房の機器を一新した際に導入した製氷機で作ったことを平野が説明すると、王女は是非見たいと言い出した。調理中の厨房をお見せすることはできないと言ってあきらめてもらったが、いずれ機会を改めて厨房を見学したいとのこと。頭が痛いぜ。


 食後の紅茶を飲みながらファッションショーの話をした。王女は悪気の全くない顔で平野について話した。

内覧会ファッションショーの際に、レシピの販売についても商談をしたいと思うのです。まずはお茶菓子から始めたいのですが、メニューの選定も含めて平野様にご協力を頂けないでしょうか?」


 俺は額を押さえながら話した。

「それは良い考えと思いますが、その前にやっておくべきことがあるかと思います」

 王女は小首をかしげて聞いた。

「何でしょうか?」


「レシピを三つに分ける必要があると思います。一つは当面王家で秘匿する物、二つ目は外部に積極的に販売する物、三つ目はギルドを新設して新規に販売する手法を開発する物です。焼き鳥とかですね。今回は二つ目の中で比較的簡単に調理可能な物、と考えて良いでしょうか?」


 王女は手を叩いて同意した。

「さすがはタニヤマ様、仰る通りでございます。レシピの分類については、厨房の責任者に検討させましょう。また、三つ目については改めてご相談させて頂きますので、よろしくお願いします」


 平野が発言を求めた。

「内覧会の時に試供品として提供するお菓子は何種類をご希望でしょうか?」

 王女は落ち着いて応えた。


「三種類以上六種類以内でお願いします」

「かしこまりました。決まり次第ご連絡します」

 平野は一礼して引き上げていった。


 晩餐は無事終わった。利根川が銀髪の侍女に養命ワイン・薬酒一号・薬酒二号のボトルを各六本を預けたので、俺も平野から預かったジンジャークッキーを一袋預けた。教会の分は別にあるので大丈夫だろう。「皆さんで召し上がってください」と言うと少しだけ微笑んだような気がする。王女は上機嫌で帰っていった。


 先生がじっと俺の顔を見たので、利根川に薬酒一号・二号・三号のボトルを各一本、後で先生の所に持って行くように頼んだ。

 何だか知らないけど盛りだくさんの一日が終わった。何故だか分からないが、時がたつほど魔王を討伐することの比重が軽くなっているような気がするのは気のせいだろうか。いや、気のせいだ。多分。明日は商業ギルドへのプレゼンか・・・。


 部屋に戻ってお供えをあげる。今日は、焼きうどん・煎餅・マグロの刺身・フルーツアイスキャンデーだ。手を合わせて目を閉じると「美味し!」の声と共に、ペタン・ペタン・ペタンという音が響いた。

薬酒は思いのほか好評のようです。

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