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第194話:王女様来襲3-2

 野田の演奏を聴いていると、丁度お昼の時間になった。小山がやってきたので、志摩から預かった規格外の碁石を見せた。


「これは碁石?」

「そうなんだけど、サイズや形に問題があって使えないんだ。何か使い途は無いかな?」

 碁石を握る小山の目が輝いた。


「何個ある?」

「一万個。使い捨てして構わない」

 小山は万歳して喜んだ。


「頂戴。全部欲しい」

「分かったけど、小山が使えるという事は、職業クラスが盗賊の奴は使えると考えていいかな?」

「多分・・・」


「じゃあ、初音と佐藤と羽河にも話して、希望者で分けるという事でいいかな?」

「分かった」

「一つ聞くけど、何に使うの?」


 小山は真面目にこたえた。

「使い捨ての手裏剣として使う」

「こんなんで役に立つの?」

「牽制として使うのなら十分。顔に向けて投げれば、一瞬でも動きを止めることができる」


 確かに小石と一緒だしな。当たったら痛いし、眼球に直撃すれば失明するかもしれない。手裏剣は威力があるけど、後で拾うのが大変なのだそうだ。かといってたくさん持つと、重くてかさばる。

 一瞬でも相手の動きを止めればその分優位に動けるとのこと。なるほどな。日本棋院の人が聞いたら怒り心頭と思うが、異世界故にご容赦ください。


 今日のお昼はクラブハウスサンドだった。デザートになんと煎餅せんべいが出て来た!塩味としょうゆ味の二種類だった。お茶と合せてゆっくり味わいたかったのだが、急いで食べると初音と佐藤と羽河の席を回って碁石を見せた。初音と羽河は必要、佐藤は不要だったので、三で割ろうかと思ったら、予想外の人物が欲しいと言い出した。


「鷹町、お前魔法使いだろ?何考えてんだよ」

「前も言ったでしょ。手裏剣はロマンなんだよ」

「これは碁石だ」

「どうせ使い捨てのつぶてとして使うんでしょ。色もつや消しの灰色だし、ピッタリだよ」


 一歩も引かない気合を感じたので、鷹町を含めた四人で分けることにした。一人当たり約二千五百個の配給となります。重いけど頑張って持って帰ってね。足りなくなったら、志摩に頼むようお願いして俺の仕事は終わりだ。


 食後、江宮の大凧製作委員会に行った。大凧は既に骨組みは終わって、紙を貼っている所だった。一言で言えばでかい。縦が一メートル八十センチ、横が一メートル二十センチ位ある。予定通り、明日テストフライト(無意味にカッコいい)を行うことにした。当然、運搬するのは俺だ。


 ラウンジに行ってボケッとしていると、雑貨ギルドのニエットさんがウイスキーのボトルを三種類・各五十本持ってきたので、ありがたく受領した。娯楽ギルドについては、そろそろカップ戦の計画を立てなければならないな。


 さっそく利根川の所に行ったが、相変わらずのやり取りが必要だった。

「合言葉を言え、苦あれば?」

「楽あり」


 何だか今回は格言シリーズに戻ったみたい。扉が開いたので、良しとしよう。下に降りると利根川はジンを蒸留していた。まずは先ほど受領したウイスキーのボトルを全部渡す。次は頼み事だ。


「それが終わったらウイスキーの原酒を出来るだけたくさん作ってくれないか」

「出来るだけって幾つ?」

「五樽以上。出来れば十樽欲しい」


 利根川が怒った顔で立ち上がったので、俺は言った。

「例のポーション、なんとかなりそうだ」

 利根川は怒った顔のままゆっくりと座ると、ため息をついた。


「いいわ、できるだけ作ってやる。でも、何のため?」

 俺はためらいながらこたえた。

「平井のためだ。詳しいことは聞かないでくれ」


 利根川は再びため息をついた。

「なんとなく想像がつくからいいわ。あんたって本当にお人好し・・・じゃないわ、馬鹿よ。それも底なしの」


 そんなことは俺が一番分かっている。それに大した問題ではない。多分。俺は笑顔で地下室を後にした。ラウンジに行くと、羽河が先生とお茶を飲んでいた。王女様を待っているようだ。俺も席に加わろうとしたら、玄関先が騒がしい。待ち人が来たようだ。


 先触れの声を追い越すようにして王女が入ってきた。侍女と騎士の先頭に立っている。白いドレスの上に真っ青な上着を羽織っているのだが、白いドレスが王妃を連想させた。いかん、両目が吊り上がっている。俺を見つけると、優雅な急ぎ足で一直線に向かってきた。王女はあわや俺を突き飛ばしそうなぎりぎりで止まると、一気にまくし立てた。


「タニヤマ様、絶世の美女も妖精も我慢できますわ。しかし、私のことをお姉さまと呼ぶのだけは我慢できません。なんとかしてくださいまし」

 どうやら王妃は、俺が王女の妹と間違えたことを、王女に自慢したようだ。それもかなり盛大に。王女は相当頭に来ていたようで、大会議室に着くまで文句を言われ続けた。


「この先十年、同じネタで自慢されそうですわ。冗談なのは分かっているのですが、得意げな顔で『お姉さま』と呼ばれると、虫唾が走るのです。なぜ、せめて妹ではなく姉にしてくれなかったのですか?」


 こういう時はひたすらあやまるしかない。そしてあやまりながらも言い訳を混ぜるのだ。

「顔の系統でいうと、王妃様は可愛い系で王女様は美人系です。可愛い系を妹にした方がおさまりが良いのでございます」


 俺の言い訳が通じたのか、王女の目はやっと元の位置に収まってきた。決して王女様が王妃様より年上に見えると言ったわけではないこと、王妃様より美人に見えると考えていることを分かってくれたようだ。


 王女は紅茶を一口飲むと、さりげなく紅茶を淹れた江宮の顔を見た。江宮の人選も先生の手配なのだろうか。流石だな。こちら側の出席者は、俺・水野・志摩・工藤・羽河・木田・浅野・利根川・先生の九人。江宮は給仕として参加している。

 紅茶の香りで気持ちが落ち着いたのか、王女は静かに話し始めた。


「先ほどは淑女にあるまじきふるまいをお見せして大変申し訳ありませんでした。さて、昨日のことからお伺いしてよろしいですか」

 俺は王妃殿であったことをざっくりと説明した。浅野を娘にしたいという王妃の申し出はひとまずお断りしたこと、今後何か王妃様から俺たちに要望がある場合は王女様を通して頂くようお願いしたことを話した。


「少し安心しました。それにしても浅野様が娘になるという事は、私と姉妹になるという事ですね。出来れば私が姉ということでよろしいでしょうか?」

 俺はあっけにとられたが、確認しなければならない。


「あの、浅野が妹になってもいいのですか?」

 王女は満面の笑みを浮かべて頷いた。

「もちろんです。弟ももちろん可愛いのですが、妹も欲しかったのです。浅野様であればまったく問題ありません。出来ればこれからは浅野様のことを『カオル』と呼んでもよいでしょうか?」


 浅野が話についてゆけずに遠くを見つめる目をしていた。仕方がないので、俺がこたえた。

「あくまで親愛の気持ちだけという事であれば、好きにお呼び下さい。浅野は故郷に帰ることを誰よりも望んでいるので、妹になることはまずないと思いますが」


 王女は余裕の笑みでこたえた。

「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせていただきますわ。カオル、これからもよろしくね。今後、私のことは『お姉さま』と呼びなさい。タニヤマ様、人の心は変わるものでございますわよ」

 遥かな桃源郷から意識が戻ってきた浅野は引きつった顔で改めて挨拶した。


 浅野以外のことについてはレシピと楽譜を王家に献上する予定であることを説明し、シャンプーとリンスの見本を渡したこと、ワイドパンツについてもジャケットと合わせて見本を見せたこと、ドライヤーについて話したことを説明した。


 王女は大きく頷くと、嬉しそうに答えた。

「美容や服飾に関してお母様の貴族社会に対する影響力は絶大です。皆様の尽力により、シャンプー・リンス・ドライヤー・ワイドパンツの前途は有望でしょう」


 王妃様の話はこれでなんとか終わったみたい。良かった。俺は次の話をした。


浅野君は王女様からもロックオンされました。もてもてですね。

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