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第193話:王女様来襲3-1

 7月27日、風曜日。今日はひどい夢を見た。出だしは良かった。真っ青な空。一面に広がる緑の絨毯。所々には白や黄色の花も咲いている。遠くには山がそびえ、気持ちの良い風が吹いている。


 草原の真ん中にはステージがあり、回りを数万人の観衆が囲んでいる。野外コンサートみたい。ステージでは浅野が歌っている。観衆はリラックスしていて、心から浅野の歌を楽しんでいる。すると、唐突に浅野が歌うのを止めた。


 観衆が突然の中断に驚き、戸惑っていると、浅野は顔を歪めて叫んだ。

「殺せ!」

 観衆は凍り付いた。何を言われているのか分からなかった。浅野はいらだったように呪詛の言葉を叫び続ける。


「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ・・・」


 人々の目が変わった。ぶつぶつと何かを呟やいている。きっかけは誰かの悲鳴だった。それが合図となってバトルロワイヤルが始まった。男が、女が、年寄りが、若者が、子供までもが素手で殺し合いを始めた。


 手で、爪で、歯で、頭で、足で互いの命を削りあっている。緑の草原は血で赤く染まっていった。まるで地獄だ。


 俺はそこで飛び起きた。体中が冷たい汗でびっしょり濡れていた。最近見た夢の中では一番ひどい夢だった。昨日の浅野の言霊の件がまだひっかっているのだろうか。でも、流石にこれは無いと思う。そう思いたい。


 タオルで体を拭きながら窓の外を見ると、珍しく曇っていた。少し肌寒い感じ。そういえば、誰かが昼頃雨が降るかもしれないと言ってたっけ。太郎が窓の外から覗いていたので、中に入れてやった。


 朝のランニングをしていて改めて気がついた。クラスのほぼ全員が参加しているのだ。もちろんそれぞれ走る距離やペースは異なるのだが、非戦闘系のメンバーも走っているのが不思議だ。


 ラウンジに戻ってから羽河に聞いてみた。羽河は笑ってこたえた。

「七月半ば位からクラス全員が走っているみたいよ」

 俺は思わず聞いた。


「どうして?」

 羽河は笑ってこたえた。

「多分、戦闘に巻き込まれた時のことを考えているんじゃないの?」

 俺は深く頷いた。


 ランニングから戻ると、ラウンジで浅野と藤原が話していた。二人の顔が真剣だったので声をかけられなかったが、何を相談しているのだろうか。


 注目していると、カウンターにいた野田に呼び止められた。なんと、今日ピアノが納品されるらしい。食堂にあるチェンバロを一時的に収納して欲しいとのこと。楽器ギルドが来て納品が終わったら、楽器ギルドにそのまま渡して欲しいという事だった。


 その後、志摩に呼ばれたので部屋に行って碁石を回収した。今日は三万九千個だった。お礼と共に製造完了を告げると、少し残念そうな顔をしたのはなぜだろう。聞いてみた。

「実は、検品して不合格になったのが山ほどあるんだ。どうしようか?」


 大量生産する関係で微妙に形やサイズが外れるものが出てくるのだそうだ。志摩は製造するたびに自分で検品して、不合格になったものは別にしていたそうだが、なんとその数一万個。まあ、これまで合計で二十万個近く作っているので、仕方ないかもしれない。とりあえず全部預かった。塗装する前なので、色は砂色のままだ。


 ラウンジに戻ると、浅野と藤原はいなかった。食堂が開くまでまだ時間があったので、座って合格品の碁石を塗装する。終わってもまだ時間があったので、アイテムボックスの中の桂皮ニッキから成分を取りだしたらニッキ液の抽出に見事成功!これは使えそうな予感!


 時間になったので食堂に行く。窓の外を見ると雨が降っていた。今日の朝ごはんは、焼きうどんだった。昨日のうどんに続く第二弾!なんでも昨日麺を作りすぎたらしい。まあこういうこともあるだろう。味付けはウスターソースがベースになっていた。


 焼きそばとはまた違う食感が良かった。キャベツもざくざくと切ってあり、なんだかワイルドな感じ。酸味と胡椒のピリッと来る感じが刺激になってうまかった。デザートのカットフルーツと合せておいしくいただきました。


 食後、まずはチェンバロを収納する。最初に見た時と比べると、大分使いこまれたというか、酷使に耐えた歴戦の勇士のように見えた。


 帰り際に平野にニッケ液を渡して、ある物の作成を依頼した。多分、いや、きっと作ってくれるはずだ!王妃宮で、平野の焼き菓子を食べた王妃様から引き抜きを依頼されたことを伝えると、嬉しそうに笑ってくれた。


 今日の午後、王女が訪問することは既に羽河から聞いているそうだ。お茶菓子と晩餐の準備をしておくとのこと。ジンジャークッキーの見本も作ってくれるそうだ。女神様の所にも持って行きたいので多めに作ってくれと頼んだ。


 ラウンジに行く途中で江宮に呼ばれた。渡してくれたのはクッキー用の焼きごて。予備も含めて五個作ってくれた。何も言ってなかったのに、気を利かせてくれたのだ。流石だぜ。


 ふと思いついて、お化けカズラの消化液を出した後の壺を見せた。アイテムボックスの中に入れていたので、液は無くてもつやつや取れたて新鮮な緑色のままだ。トロール退治に使った後、このまま堆肥にするのはもったいないような気がしていたのだ。


「これって、強化したら装飾品として使えないか?」

 江宮は驚きながらも頷いた。

「お化けカズラの壺か?確かに、形が面白いから花瓶代わりに使っても良いかもな」


 とりあえず、一個預けると笑顔で受け取ってくれた。うまくいくかどうか、試してくれるそうだ。百個あるから、売れたら一儲けだな。


 焼きごてをアイテムボックスに入れて気がついた。ジンの1・3・5年物と、養命ワインの1・3・5年物が出来ている。工藤と利根川はまだ食堂にいるみたいなので、戻って平野と一緒に試飲した。割水してジンの度数は全部三十五度に調整した。


 評価は俺含めて四人とも一致した。ジンも養命ワインもどちらも1年物に決まった。3年物と5年物はどちらも薬味が強すぎて飲めなかった。


 養命ワインの一年物の半分とジンの一年物は利根川に渡し、養命ワインの一年物の残りとジンの三年物と五年物は俺が預かった。ジンはちょっと持って行きたいところがあるのだ。

 養命ワインの一年物の半分はラベルとジンジャークッキーと一緒に教会に見本として持って行く予定。養命ワインの三年物と五年物は料理に使ってみたいと言うので、平野に渡した。ついでに、養命ワインとクッキーのレシピの作成を頼んだ。


 利根川にはラベルのデザイン画三種類(薬酒一号・二号・三号)を預けて、ボトリングを頼んだ。明日28日の夕方、シューズドライヤー・ブーツの消毒薬・水虫薬と一緒に商業ギルドプレゼン予定であることを伝えておく。薬酒のアルコール度数は試飲と同じ三十五度でいくことにした。


 今日の講義はゴーレム以外の魔物に関するものだった。比較的小型の魔物としては、岩鼠と石蛇と黒ガラス。中型の魔物としては砂漠トカゲとマッドコヨーテ、場所によっては砂虫サンドウォームの変異種が出るそうだ。


 講義が終わったのでラウンジに行こうとしたら、先生に呼び止められた。

「江宮様から聞きました。明日、大きな凧を飛ばすそうですね」

「はい、大凧を作るための試作機ですね。それでも普通の凧よりかなり大きいですが」


 先生は真剣な目で言った。

「私も見に行ってよろしいでしょうか?」

?????俺は驚いた。なんで?


 先生は恥ずかしそうに言った。

「私、先日作って頂いた凧が大変気に入りました。あれの何倍も大きな凧を作って、さらには人を乗せて飛ばすのでしょう?試作機とはいえ初飛行を見逃したら一生後悔します」


 先生は目をキラキラさせながら言い切った。俺は頷くことしかできなかった。すると、後ろから声をかけられた。

「私もついて行って良い?」


 振り返ると、鷹町だった。なぜだ?

「言っとくけど、試作機だぞ。ぜんぜんまったく失敗する可能性があるんだぞ?」

「江宮君が作っているんでしょ?だったら大丈夫だよ」 


 なぜだか分からないが、江宮は物作りに関しては厚い信頼があるようだ。馬車の台数を増やすべきか考えていると、今度は冬梅から声をかけられた。

「僕も行って良いかな?」


 冬梅もロマン派だったのか?驚いて冬梅を見ると全力で否定していた。

「前に頼まれた大蝦蟇の召喚を試してみたいんだ」

 大きさが大きさだけに宿舎でやる訳にはいかないそうだ。否定はしない。もちろん、Оkした。ラウンジのカウンターに行って、明日の馬車を一台増やすように頼んだ。


 紅茶を飲んでのんびりしていたら、楽器ギルドがピアノの納品にやってきた。野田の自室の分は現在、部品から新規に作成中だそうだ。雨が降っていて手で運ぶのは大変そうなので、荷台に置いたままアイテムボックスに収納し、代わりにチェンバロを置いた。


 もちろん、セッティングが必要になるので、野田を呼んで貰い、楽器ギルドの人と一緒に食堂に行く。チェンバロがあった場所にピアノを置くと、野田が走ってきた。楽器ギルドの人が最終調整を行っているのを、いまかいまかと待っている。


 OKが出ると野田はすぐさますごい勢いで弾きだした。高い音から低い音まで均一に響く、まさしくピアノの音だった。白黒の鍵盤も見た感じまったく一緒だった。音色は一言で言えばヤマハの音だった。学校の音楽室にあったアップライトのピアノがヤマハのUシリーズだったからだろうか。


 出来上がりについては、幸せそうな顔で夢中になって弾いているのでまあいいだろう。野田の代わりに受け取りにサインした。請求は全て王家に回してくれるそうだ。まあ、楽譜を献上するので必要経費だと考えて欲しい。というか当然だろ。


 野田の演奏を聴いていると、丁度お昼の時間になった。小山がやってきたので、志摩から預かった規格外の碁石を見せた。


ピアノがやっときました。タニヤマ君は碁石の規格外品の有効利用を考えているようです。

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